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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
6/150

6,小さな冒険ミッション其の1

投稿までに長い時間が空いてしまいました。

お読み下さっていた方には、申し訳ありませんでした。


ゆっくりめにはなりますが、まだまだ頑張って続けて行けるように自己管理をしたいと思います。

 レオナが用意した濡れたタオルを目に当ててもらい、その間にアレンハワードが部屋を出て暫く。

 静かな室内に、くぅっと可愛らしい音が響いたかと思うと、ルーナエレンは今度は顔を真っ赤にして思わず俯いた。

 少女の愛らしい空腹の悲鳴に一瞬その目を瞬かせて眉を下げたレオナは、よしよしと青銀と淡い紫色の混じるふわふわの髪を優しく撫でてから、立ち上がる。


 今朝の食堂のメニューは、ミートパイとサラダ、野菜のスープ、ソーセージ数種と黒パンで、その中からレオナはミートパイと野菜のスープをルーナエレンの為に部屋に運び入れていた。

 簡単な時の巻戻しを組んだ術式布を、持ってきた食事にふわりと乗せて魔力を少し廻らせると、冷めた食事に温かさが戻る。既存の生活魔道具として、食品の劣化を遅らせる程度の術式が組まれた物はあるが、鮮度を戻したりちょっとした時間を巻き戻す等は使える術師も術式も知られておらず、空間魔法(おうち)同様人目に触れない様にする必要がある。

 勿論ルーナエレンの激しい人見知りを知った周囲の大人達は、幼気な幼女をこれ以上怯えさせぬ様保護者抜きでは近付かない筈。

 とはいえレオナとて秘匿の技術を人目に晒すような事は、結果としてこの親子の旅を困難なものにすると理解しているので、きちんと弁えている。

 そんな考えを巡らせながら、術布をふわりと引き揚げ仕舞ってから。


「ちゃんと全部食べられたら、ご褒美」


 切り分けられたミートパイから暖かそうな湯気の上がる皿の、そのすぐ横にこっそり空間魔法(おうち)から起き出す時に持ち出していた木苺のジャムをたっぷりかけた小さめスコーンを添える。

 途端に、ぱあぁっと表情を満開に綻ばせたルーナエレンに、思わず心の中でレオナはグッと拳を握った。

 レオナ自身は食事は特に必要ないが、その場にアレンハワードがいない場合は食卓を共にする。

 向かいの席に着いたレオナに向かって、はにかんだままルーナエレンは頬を薄く染めて手を合わせた。


 そうして二人で遅めの朝食を済ませた一刻程後の事。

 食器や茶器を片付け始めたレオナは、袖を少し引かれて動きを止め振り返った。

 見上げてくる潤んだ大きな紫色の目が、幾つかの感情を浮かべている。不安と興味と好奇心といった処だろうか。


「おてつだい、する」


 ややあってそう言い出したので、そのまま促してみると、どうやらきちんと食事を作ってくれた相手にご馳走さまが言いたかったとの事だった。

 人見知りからくる恐怖心もあるのかその紫色の大きな瞳は潤んだままだが、それでも小さな決意も確かにそこには存在していた。


「それとね‥‥とうさま、こまってたから。がんばる、の」

空間魔法(おうち)閉じ込めときたいかわいい‥‥」

「‥‥‥だめ。がんばるの!」


 安全な空間魔法(おうち)への避難という魅惑にもめげず、かくしてルーナエレンはレオナを伴って食器を片付けに厨房に向かうという冒険を開始する事になった。



 施設内の厨房があるのは、演習場のある大きく拓けた場所を囲んだ右翼部分の一階奥であり、その最上階に客室として与えられた部屋がある。

 所謂隠れんぼの要領で、食器を返す名目と遊びを併せて部屋から連れ出す事に成功した。実質最上階と一階の通路で誰にも出会わなければ、階段を降りるだけ。階段であれば折り返しがあるので、それまでに一瞬空間魔法(おうち)に隠れれば良いのである。


 その冒険の作戦を聞いた時のルーナエレンは、大きな瞳をキラキラと輝かせ、それはそれはレオナを尊敬の眼差しで見上げていた。

 ゴールの設定は、きちんと厨房で「ごちそうさまでした」を言うこと。

 ご挨拶とお礼。それだけは、顔を見て伝える。

 幼いながらも、ルーナエレンもそれだけは日頃からのお約束なので、守る為に頑張るつもりだ。


 ルーナエレンは重ねた食器を小さな手でしっかりと持つと、背後にレオナを従えてそっと自室の扉の外を伺う。

 最上階の廊下は採光用の天窓がいくつも廊下にあり、窓枠に細工されているレリーフが、美しく廊下の床に光と影で引き伸ばされて映っていた。

 天窓ごとにモチーフが違っているらしく、床に映り込んだ光と影の絵はドラゴンや可憐な草花、狼など。見える範囲では、どれを取っても同じものが無さそうだ。

 さらには、天窓からの光が落ちる先には、光を蓄える鉱石が埋め込まれていて、窓のない外壁の代わりに階下の天井へと特殊な天然光を届け、同じようにレリーフに飾られた天井から同様の景色が見られるらしい。

 魔術ではなく、ドワーフの技術力なのだと教わったルーナエレンは、大きな瞳を瞬いてレオナの説明に感心していた。

 最初に朝食に向かった時には気付かなかった光景に、次第にルーナエレンの表情も緊張が緩む。


「レオナ、すごい、すごいよ、きれい」


 まだ部屋の扉から一歩出ただけなのに、感動の余り輝かんばかりの愛らしい表情で振り返って呼びかけてくる少女に。

 レオナルドは内心身悶えた。





 * * * * *



 おっかなびっくりながらもレオナのアシストもありつつ、ルーナエレンは一階の食堂まで辿り着いていた。要塞内の誰にも遭遇していなかったが、その事への不自然さは気付いていない。

 元より亜人種の多いこの帝国の戦闘慣れしている野生の第六感が、レオナに対して働いていたのかもしれない。

 がらんとした食堂を通り抜け、厨房の出入り口にそっと顔を覗かせる。

 広い厨房内は朝食から時間も経っていて、後片付けもひと段落しているらしく人影も二人しかいなかった。

 小休憩を取っていたのか、芋が山積みにされた樽に背を持たせかけ、ティーカップを口にしている恰幅の良い兎耳のエプロン姿の年配の女性と、どこか顔立ちが似通った同じく兎耳の若い男性がこちらに気付いた。

 ルーナエレンは要塞内で出会った人で、初めて恐怖を感じない相手に少し嬉しくなり、普段レオナとアレンハワード以外には向けない笑顔を見せていた。


「あの、あさごはん、おいしかったです。‥‥‥ごちそうさまでした」


 ちらちらとレオナを振り返りながら辿々しく言葉を賢明に絞り出し、持ってきた食器をそっと差し出す。


「まぁまぁまぁ、可愛らしいお客様がいらっしゃっているってお伺いしていたけど、こぉんな可愛くてお利口さんなお嬢様がいらっしゃっていたのねぇ。お口にあって、良かったわぁ」

「こんな場所まで態々ご足労頂かなくても、大丈夫でしたのに‥‥」


 褒められた嬉しさとやり遂げた満足感と、何より怖くない人に会えたルーナエレンは頬を染めてはにかみながら、レオナを振り返る。

 よく出来ましたと言っている青い瞳で、レオナはルーナエレンの手から食器を受け取り兎耳の若者に手渡した。


「何しろ要塞ですから場所柄むさ苦しいところばかりですが、この食堂の棟の奥まで行くと、訓練所のさらに奥に続く回廊がありますよ。緑が多くて綺麗な清水と滝があるので、小さなお嬢様でも少しは安らげる場所なのではないかしら?」


 おっとりと年配の兎耳の女性が食後の散歩を提案してくれたので、レオナからルーナエレンを誘導する必要が無くなった。

 彼女の話に心惹かれたらしいルーナエレンが許可を求めるようにレオナを見上げ、好奇心と期待に満ちたキラキラした瞳で両手を胸に当て、震えている。

 その光景を見守る三人の心の声は、きっとぴたりと一致していたに違いない。



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