50、ヘッドハンティング
ご無沙汰しております。
昨年末は、バタバタとドミノの様に体調を崩しておりました_:(´ཀ`」 ∠):
今更ながら、昨年中は拙作を閲覧頂きありがとうございます!
今年も、ぼちぼちと頑張って執筆していこうと思っておりますので、何卒よろしくお願い致します٩( ᐛ )و
翌日、明の三刻になろうかという頃。モルガン辺境伯爵家に長年仕えて来た先代筆頭侍従長だったカーター=ベイリーは、何処か憔悴した様子の現当主ランドルフに朝食後、言葉短かにメルヴィンが呼んでいるので、要塞砦の奥の水場に聳える菩提樹の巨木まで出向くよう伝えられた。
用向きは不明との事だが、当主の契約妖精や共に居るであろう人物達は恐らく、魔力的にも種族的にも高位の存在である可能性が高い為、極力意向に沿う様にと神妙な口調で申し渡されたので、カーターは内心の緊張を只管に内に抑えながら、冷えた風の吹く回廊を静かに奥へと歩いている。
業務や効率を改善すべく独学で魔道具を自分の使い勝手の良いように改良してきた彼は、非常に有用で主人からしても至極評価の高い侍従の長であったのだが、自身が齢五十を迎えた折り愛妻を亡くしたのを期に、実子に仕事を引継ぎ一度現役を引退している。
だがその十二年後、現当主であるランドルフの末子が二歳になった際、専属側仕えとして期間限定で請われて現場復帰をしていたのだが、つい先日、その仕えるべきルディが目の前で不運に見舞われてしまってから、何処か表情に精彩を欠いていた。
その不運から様々な事実が判明し、領地どころかマルティエ全土を揺るがしかねない問題が発覚し、今現在の要の地であると思われるこのモルガン領で早急な対策を練らねばならないと、領主当人とその実弟である騎士団長、そして領城の中枢を担う筆頭執務官が、この要塞砦の最上階に設られている当主専用の執務室で鼻をつき合わせ、連日あちこちに指令を飛ばし、叶うかどうかは度外視で可能な限りの対策と連携を取ろうと努力をしている。
現在仕えるべき主人は伏したまま人知の及ばない状態であり、側仕えとして今自分が出来る事がほぼ無いが故に、今朝の指示は有難いものだった。
カーター本人にしてみればモルガン辺境伯家の陪臣の家系であり、厳密に言えば平民ではないが貴族だとも言えない。それでも遥か傍系ながら当主の血の系統も引いているのだが、それでも自領どころか遠い異国の曰くありげな貴人と主人を介さず直接に相対するには相応しくない。
それでも名指しされてこの地の古き大妖精の立ち会いの元、何かしらの役目が与えられるであろう事は予想に難くなく、そうした場合何を要素に自分が呼び出されたのか。
それを徒然と考えながら背筋を伸ばして歩く内に、要塞砦の敷地奥に聳える巨木の立派な幹が回廊の柱の間から見えて来た。
まだ告げられた刻限に十分な余裕があったからだろうか、そこに人影は見えない。
余裕を持って指定された菩提樹の巨木の元に辿り着いたカーターは、昼前のからりとした秋色の青空と、滝から立ち昇った清浄な薄霧に濡れて緑の葉の表面を煌めかせた木漏れ日の眩しさに、薄灰緑の瞳を細める。菩提樹の巨木のすぐ周辺のみに漂う一種独特な神聖な空気に、知らず嘆息する。
僅かな時間とはいえ少々呆けていたらしい。
背後からカサリと草を踏む音が耳に届き、身体ごと振り返ると、そこには真っ直ぐの艶のある黒髪と、どこまでも透き通った青い眼をした齢十程の少女が立っていた。
髪色といい瞳の色といい、その様から領主や大妖精から聞いていた旅の魔術師の親娘と共に居たという人物だと判断したカーターは、一際丁寧な態度で深く腰を折る。
他国の貴族の可能性が高い親娘の側近くに常に居るであろう彼女の気配も、やはり何処にも隙が無い。
カーターを見てペコリと頭を下げた彼女は、あまり表情を変える事なく問いかける。
「貴方がドライアドの指定した人?」
「ええと、恐らく。直接大妖精様にお声掛け頂いた訳ではございませんが‥‥」
「魔道具や術式に、造詣が深いとか?」
「どなたかに師事した事はございません。ですが、代々侍従を束ねる家系でございまして。創意工夫が得意な血筋なのやも知れません」
そう言って柔和な好々爺然とした笑みを浮かべたカーターを見て、黒髪の少女はほんの少し頬を緩めた。
「合格。ついてこい」
言葉少なにそう言うと、少女はカーターを追い越して菩提樹の巨木に向かって軽い足取りで歩き出し、巨木のすぐ手前でするりと大型の黒い獣に変容して見せる。
口調が急変した彼女の様子に一瞬固まっていたカーターだが、自然と目で追っていた彼女が黒い獣に変じた様を目撃して更に固まってしまう。
「置いてくぞ」
茫然自失となっていた処に響いた声音も、先程迄とは比較にならない程に低い響きだった為、言葉の意味を理解するのに更に時間を要してしまった。
少女だった筈が、種族どころか性別も変じたのだとぼんやりと解釈して深く考えるのを放棄したカーターは、急いでこちらを振り返り立ち止まっている黒い艶やかな毛並みの後を追う。
すると黒い獣はルディと雷精の時と同様、菩提樹の巨木の幹に対して何の衝撃も抵抗も感じさせずに、まるで幹に溶け込むように唐突に消えた。
あの時の衝撃と主人を見失うのではという焦燥がカーターの脳裏に蘇り、その後の見通しの暗い現状までも彷彿とさせられる。
知らず息を呑むが自分が遅れた事により、今後これ以上不都合が増えては仕える主君に申し訳が立たない上に、それは忠義に悖るのは明白である。
数秒の内に脳内でそれらに考えを巡らせたカーターは覚悟を決めて、菩提樹の巨木に消えた黒い獣の後を追った。
* * * * *
『‥‥若木まで、お迎えに来て下さると、仰せになってませんでしたっけ?』
「あ?なんか不都合でも?」
『ヒィッ!なななななんでもございません!!!』
カーターは、菩提樹の巨木の幹に自らも飛び込んだ瞬間、そんなやり取りを聞いた気がしたがきっと気のせいだと思い込む。
目の前にはこの地を治めるモルガン辺境伯閣下の契約妖精である、麗しき大妖精ドライアドが黒い獣の不機嫌な声に反応し、今にも土下座しそうになっている情景が広がっているが、これもきっと幻に違いないと自分に暗示をかける。
ただ、カーターの心の中で、大妖精と黒い獣の力関係は理解したが、決してそれを口外するのは禁忌に触れるのだと瞬時に理解した。
「ついでに、その男の為人を直々に確認しておこうと思ったのでな。そうでなければ、連れて行けないだろ」
『そ、それは、ごもっともですが』
モゴモゴとまだ何か言いたげなメルヴィンを放置して、黒い獣は幹を通り抜けてから状況を見て空気と化しているカーターへと青い眼を向ける。
「メルヴィンの手柄ではないが、いい人選だと言っておこう。確認まではまだしていないが、なかなか面白い上に有能だ」
『え!?ほ、本当ですか!?』
「お前を褒めた訳じゃないんだが?」
『しッ、失礼いたしましたぁぁぁ!!』
ズビシィっと敬礼をして直立不動になるドライアドを放置して、黒い獣は優雅な歩みで隅に控えるカーターへと歩み寄り、すぐ間近へとやって来た。
近付くと、彼の黒い獣の大きさが嫌でも理解出来る。
長身痩躯であり、長年仕えていたモルガン辺境伯ランドルフより若干上背があった自分の胸元に、黒い艶やかな毛並みに覆われたまろい獣の耳と、叡智を讃えた深い青の瞳が見える。
獣の姿だというのに、その存在感もその肢体も佇まいも、何もかもが神々しい程に美しい。
亜人族とされる流れを汲み、様々な聖獣の獣人の血を祖に持っているこの帝国でも類を見ない、完全なる存在。
何処か魂を揺さぶられる、上位の存在。
自然とカーターは、跪き深く首を垂れていた。
「良いなぁ、お前。直答を赦す、名を聞こう」
「は!カーター=ベイリーと申します」
「ふむ、オレはレオナルド。それにしても、傍流とはいえモルガンと祖が同じなのだな。喜べメルヴィン、このカーターは目をかける価値ありだ」
『え!?本当でございますか!?』
「ああ、魂の研鑽も自己流とはいえ、魔道具の創造の経験と理解が見られる。意外とアイツと馬が合いそうだし」
『ふ、フォぉぉお‥‥』
跪いたままのカーターの頭上で交わされる会話に静かに耳を傾けていると、レオナルドの低く響く声が聞こえた。
「連れて行く前に、一つ問おう。カーター、面を上げろ」
「は!」
「お前の今の主人は、領主か?それとも領地か?」
問われた言葉に、一瞬戸惑いながら視線をやや伏せ気味にしてメルヴィンを伺うと、硬い表情ながらもこくりと頷いてくれる。この場で答えた内容が万が一当主であるランドルフに伝わったとしても、取りなしてくれるという意図が伝わり、カーターは己の心に問いかける。
一度は引退した身であり、既に後継に跡を譲った身である。
そしてルディを主とするのは期間限定、つまりは満六歳の初春の月にある洗礼で、セカンドネームを得る頃合い迄と察しており、その先は跡取り息子の第五子である現在十歳の三男に交代する手筈になっていた。
「恐れながら、申し上げます。わたくしめは、モルガン辺境伯爵家当主に代々お仕えする侍従の家の者。ですが既に引退した身にございます。そしてモルガン家のご子息ルディ様に、期間を限定した上で臨時としてお仕えしているのが現状ございます。しかしながら、臨時とはいえ只今の主人はルディ様。臨時の期間もご当主様は明言しておられませんが、暗黙として洗礼を受けるまで、と勝手ながら認識しております」
「ふむ。では、隠居の身が確約された場合は、自分の意思で選べると思って良いのだな?」
「不躾ながら、一度ご当主様に当方から確認を致しますので、その後改めてお返事させて頂く旨お許し願いたく」
「メルヴィン」
『‥‥承りました』
「よし」
そうして、紹介されたカーターの為人に一瞬でGOサインを出したレオナルドは、ホクホクしながらアレンハワードがどんな反応を示すのか、楽しげに想像するのだった。
お読み頂き、ありがとうございます٩( ᐛ )و
きっとレオナルドさん的には、脅威にならないイケおじであり、常識枠&アレンの精神的な支えとして狩猟してきたご様子。
ただでさえ情緒がきちんと発達出来ていないエレンの為にも、きっとイケおじは威力を発揮するに違いない( ´∀`)




