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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
45/150

45、過保護の塊(ふわふわ)

毎度毎度、更新が遅くて申し訳ありません_(:3 」∠)_



 

 小さな両の手のひらの上に集まったふわふわに気を取られたほんの一瞬、クローゼットの立体複合魔術式から(おびただ)しい数の極小の様々な欠片が勢いよく引き寄せられたのを目撃したレオナルドは、ギョッと青い眼を見開く。大慌てでルーナエレンとクローゼットの間に、その身を滑らせ自らを防波堤とする。


「ちょっ、エレン一歩後ろ下がって!」

「う、うん!」


 レオナルドが防波堤になったとほぼ同時に、後ろからアレンハワードも即座に愛娘を胸に抱き抱えて庇う様にやや半身に構えて立つが、それ以上は何も起こらず、暫くは三人ともそのまま魔術式を注視する。


「‥‥今のは、何?」

「過保護の塊‥‥とでも言うべきか」

「この術式は、流石に弄れないんだけど」

「分かってる、ちょっと、何というか」


 いくら神域に近い空間で、そこに彼等親娘の特殊な魔力が満ち満ちていようとも、ここは箱庭に属する階層だというのに。


 先程の欠片は所謂精霊の卵よりも更に純粋な属性の力であり、箱庭を去った様々な上位種族の無意識の残滓とでも言えるものだ。そこに、意思や記憶は無い。


 恐らくこの世界が問題なく循環していれば箱庭に溶けて矛盾なく混じっていたであろう要素であり、ルーナエレンが持つ箱庭の(こご)りを還した力に、勝手に惹き寄せられたと考えれば辻褄があう。


 だがまだ三つやそこらの幼い女の子が、単独で扱うには過ぎた力であるのは事実。彼女の僅かな無意識などで反応し、召喚()んでもいないのに無限に()()から顕現されては、あらゆる均衡が崩れてしまう。


 レオナルドが確認したところ幸いにも、純粋な力の欠片とも言える素材と、それを宿して燐光を放つふわふわした物体に、魂や意思といった精神体的な素養は検知されなかったので、一先ずこの(いとけな)い愛すべき至宝を守護する一手としてしまえば良い。


 下地はアレンハワードに守護の魔術式を入れて貰って、ルーナエレンが成形する段階で言葉による『誓約』や願いを籠めて貰って、最後の仕上げにもうちょっと通行制限を掛けたクローゼットとの繋がりを持たせるのはどうだろうと、そこまで考えてみてレオナルドは一人納得顔で軽く頷く。


「うん、これなら何とか‥‥って、そうだ」


 すっかり忘れていたが、宝珠の枝と『彼女』は言ってはいなかっただろうか。


 先刻の大量の欠片召喚はある程度想定外だとは思うが、何処が軽い加護の魔法陣なのか。


 そう、『魔法陣』であって箱庭では到底扱う存在は居ないであろう、立体複合魔術式と認識された、それ。


 魔素という燃料を意思一つで現象に興せる、魂と魔力の格と結びつきが強い存在のみが扱えるものが『魔法』であり、それは箱庭からとうの昔に忘れ去られた。

 そして、その現象を興す過程や関わる力を燃料と道筋を解析して繋げ、解析した数値を元に設計図を組み立てたものが『魔術』であり、妖精や精霊といった存在と友誼または契約を結び、その絆を以て補助や代行執行により現象を興すものが『精霊魔術』と認識される。ただ、後者は上位者である精霊や妖精と、密な友誼を結べる存在が余りにも希少な事と、そもそも気紛れでむらっ気のある妖精や精霊に思惑通りの行動を執らせるのは、掛け値無き信頼関係が必要となる上、厳密には『精霊魔法』となるのだ。


 とそこまで考えて、レオナルドはこの場に居る親娘の異常性に思いを巡らせた。


 元より二人は、特殊な氏族で先祖返り。

 精神体を含めた魂の一部継承を繰り返した一族は魔術の素養も理解も深く、上位種族の精霊や妖精に近しい存在となっているし、それらの土壌がある所以なのか『魔法』に限りなく近い『魔術』を無意識に扱っている。

 アレンハワードは実家の知的財産に含まれる、古の『魔法陣』をそうとは知らずにたまに記憶の中から使用する事も稀にあるが、本人は気付いている様子はない。

 そしてルーナエレンに至っては、光の属性は誰に習うでもなく無意識にあらゆる『魔法』を使っているし、彼女の体質自体が高度な召喚魔法効果を随時発動している状態。


 何より、自分が常に二人の傍近くに身を置いているのが、決定的なルーナエレンの体質の証明である。


 この上で宝珠の枝を加護の一端として持たせたのなら、自分が管理はするものの少しは数を用意出来る様にしてやっても良いという事なのだろう。

 菜園では他の植物に何かしらの影響が現れるかも知れない。等と、今更な事を思ってレオナルドは用意出来る数を制限する意味でも、屋内にて管理しようと思い至る。


 取り敢えず、宝珠を一粒だけ取り出してルーナエレンの掌にある精製されるであろうものに、仕上げとして組み込むべく、クローゼットからコロリとした子供の小指の先程度の小さな紅い艶やかな楕円の木の実を取り出し、器用にアレンハワードに向かって放った。


 空いている方の手で旨くキャッチしたアレンハワードは、レオナルドに寄越された宝珠に一瞬瞠目してしまう。

 その掌に伝わる魔力の質感と密度の高さが、彼が今迄触れて来た素材の数々を遥かに凌駕していると自然と判る。


「ええっ!コレ明らかに雑に扱っていいものじゃないでしょ?!」

「ちゃんと受け取ったんだからいいんだよ。その実に、守護の術式とか補強、あと‥‥エレンの初めての鞄、お前ならどんな機能付与()ける?」

「え、迷うな。必須の機能だけでも術式を詰め込んだら、素材が保たない‥‥」

「あー、ソレなら割と詰め込み放題だと思うぞ。自己学習機能とかどうだ?生命体としての魂や思考回路と記憶部分は無いに等しいけれど、さっき溢れて来たの使えばそれなりに自己学習や記録演算機能を持たせた、かなり面白いものが作れるんじゃないか?」


 鞄に擬似的に思考能力を持たせる提案を受けたアレンハワードは、すっかりレオナルドの提案(ゆうわく)に乗って『魔導具』に該当する試行を頭の中で素早く組み立てつつ、片腕で抱きかかえているルーナエレンに視線を落とす。


「エレン、その手のひらの上のふわふわに君の魔力を纏わせて、君の好きなうささんの形を思い浮かべてごらん」

「うささん!ぬいぐるみにもできるうささん!」

「ふふ、エレンとそのうささんのぬいぐるみ鞄、きっと可愛いだろうね」


 にこにこと笑み交わしながら、片手で器用に掌の宝珠を転がしながら、普段愛娘に使っている保護の為の物理防御や魔力障壁、迷子防止の探索検知、不十分な効果だとしても認識阻害に関する魔術式を次々に自らの魔力を練って宝珠に焼き付けて行く。

 素材の品質が高過ぎる場合の魔力の反発は思っていた程感じられず、宝珠は一度魔力を受け付けたと思ったらするするとアレンハワードの魔力と魔術式を内包する。


 レオナルドに言われた通り、まだ十二分に魔術式を組み込む容量はありそうだが、あまりに多くの命令を同じ個体に登録するのは魔術式同士が何かしらの干渉が発生するかも知れない。


「レオナルド」


 そう呼びかけながらクローゼットの前からルーナエレンのやや小ぶりな長椅子へと移動して、愛娘を膝に乗せる様に腰掛けると、その横にひょいと中型犬程度の大きさの獣姿のレオナルドが飛び乗った。


 ふんふんと差し出された宝珠に鼻を近付けて、検分が終わったのかその青い瞳がきらりと光る。


「干渉は起こしてないぞ。後、状態保存とか温度変化の対応なんかもまだ余裕でいける」

「え、怖いこれ以上詰め込んだら盗難までカバーしないと」

「あー‥‥じゃあ、そこはエレンに登録してもらおう」


 保護者たちが話し合っている間に、アレンハワードの膝の上で白いふわふわをコネコネし始めたルーナエレン。

 心なしか小さな手のひらに乗っている白いふわふわが、虹色の燐光を淡く発し始めている。


「エレン、声に出してオレの後に続いて」


 レオナルドの言葉にこくりと頷くと、きりりと至って真面目な表情ながらもまろく柔らかな頬を上気させる。視線は自らの手のひらから外さないものの、きちんとレオナルドの言葉を聞いている。


 その様子を見てアレンハワードと同じ血筋を強く感じて、思わず青い瞳が楽しげに光った。


「我が身我が心我が願いを護れ」

「わがみ、わがこころ、わがねがいを、まもれ」

「誓約」

「せいやく」


 慎重にレオナルドの言葉を区切りながら復唱し終わると、満足そうにふすんと獣の鼻息が聞こえる。


 手を止めじいっと淡く虹色に光るソレを見つめるルーナエレンに、アレンハワードの手から紅い小さな木の実を渡される。


「仕上げは、エレンにお願いするよ」


 ルーナエレンは父親から小さな手のひらに乗せられた木の実を受け取ると、そっと眼前の燐光を放つふわふわに近付けた。




お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


意思のある上位種は変態ばかりの反動が、保護者たちから迸ってしまいました。


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