44、クローゼットと加護
更新が遅れて申し訳ありません_(:3 」∠)_
スタック無く刹那的な更新過ぎて、泣ける。。。
子供部屋に移動した三人だったが、自室のクローゼットの扉を開いたルーナエレンはどういう訳か、全身綿毛の様な鳥の産毛の様な、とにかくふわふわな物体だらけになって固まっていた。
固まっていたのは等しく三人だが、頭の先から爪先まで不可思議なもっふもふに包まれてしまった愛娘に、どう反応していいのか分からなかったというのが正しいかも知れない。
害意はない。むしろ、とても強くて質の高い魔力を感じる。ルーナエレン自身も固まっているだけで、恐怖や忌諱といった感情の発露は感じられない。
だが愛娘の全身を覆うそれは、故郷のあらゆる学問や知識を収めた実家の何処にも記述が無かった『何か』であり、勿論広い外の世界はまだまだ多くの自分の知識の及ばない未知があるのは理解していた。
していたのだが。
この謎の毛玉(仮)は、一体何だというのだろう。この空間魔法に、こんな存在は許容した覚えがない。明らかに、無かった筈だ。
そこまでの思考はほんの僅かの間になされ、ふと思い当たる。
「レオナルド」
「なんでしょうか」
「穴、開けたよね」
「開いてましたね」
「補修してくれたっけ?」
「申し訳ありませんでしたっ」
もっふもふの立ち姿のまま固まる愛娘を目の前にして、簡素ながら早口のやり取りを交わす保護者たち。
やらかした自覚があるだけに、普段使わない敬語での受け答えに違和感が半端ではない。淀みなく追求していく姿勢を崩さないアレンハワードに、黒い獣は段々と視覚的にも物理的にも、雄々しかった先程までの姿の半分程の小ささに縮んでゆく。
この空間魔法は過去のアレンハワードの血肉と魔力を糧として生み出された、強固な護りを持った空間である。だが今回、揺らぎを与えて穴を開けたのが他ならぬ超越者の力であり、更に常なら本人の存在と魔力があればそれだけで多少の保全は自然に出来ていたものが、不運な事に万全ではない状態の彼だけでは、迅速な補修は叶わなかったのだ。
特に補修について約束を交わした訳でもなかったが、子育てを協力しながらこなして来たコンビネーション的には、今回の穴の後始末はすぐにレオナルドがするべき事態であり、当然のようにその場では本人達はその時そう判断している。
ただ、レオナルドにしてもアレンハワードにしても、恐怖支配からお説教と謝罪の慌ただしさに、すっかりその後の処理が置き去りにされてしまっていたのを忘れていた。
「これ、心当たりは?」
「あ〜〜〜〜〜、な、なんとなく?アレかなぁっていうのだったら?」
「何で疑問系なのかな?」
「うふふ〜もふもふエレンも破壊的に可愛いねぇ」
「可愛さしかないのは全くの同意だけど、固まってるから!私が触れてエレンに不都合は無いかだけ、教えて欲しいよ」
「問題はない、筈」
サイズダウンしたままのレオナルドの返事を受けて、アレンハワードは素早く愛娘を掬い上げて胸に抱き込む。その勢いのまま幼い娘の顔を確認して彼は、漸く無意識に強張っていた身体の力を緩めた。
覗き込んだ小さな宝物は、正しくびっくりした!と言わんばかりの表情で、長い睫毛に縁取られたくりくりの紫水晶の瞳も、とても大きくて愛らしい。
「エレン?」
「?!」
アレンハワードに声を掛けられて漸く、はっとした様に愛娘の瞳が焦点を結んで父親を見る。
「大丈夫?エレン」
「あ‥‥とうさま」
さっと確認しただけではあるが、愛娘の様子に異常は認められない。もぞもぞともふもふしたルーナエレンが降りたそうな動きをした為、アレンハワードはもう一度、少し彼女の様子を確認してからそっと床に立たせる。
そして、ルーナエレンはゆっくりと開いたままのクローゼットに近付き、そっと手をかざす。
すると、クローゼットの扉部分に柔らかな光で出来た薄絹のような膜が顕れたかと思うと、ルーナエレンの全身を覆っていたふわふわの綿毛が溶けるように解けるように、その膜へと移動し始めた。
その光景はまるで、花の種を飛ばす綿毛が野原で柔らかな風に舞う姿の様であり、また幼い雛鳥の軽く暖かな産毛が穏やかな日差しを受け揺れている様であり、ルーナエレンを包んでいたそれらが燐光を纏って揺れて舞う、とても幻想的な様子だった。
この美しい何かは、ルーナエレンを絶対に害さない。不思議とそう、確信が持てる。
そうして暫し幻想的な光景を前に呆然としていたアレンハワードだったが、段々と集まった光で浮かび上がって来た複雑な魔術式で出来た四重の複合立体魔術式にぴしりと固まってしまう。
明らかに人の領分を軽く超えたその技術と情報量を、矛盾なく綻びなく詰め込んだそれはどういう事か。
知らぬ間に、こくりと喉が上下する。
「レオナルド‥‥?」
「オレじゃない。けど、エレンに与えられた加護ってやつかな。この空間魔法に重ねるように発動された魔術式だから、秘匿も隠蔽も問題なし」
暫し呆然としていたのか、下衣を軽く引っ張られて初めて、不安そうに見上げてくる愛娘に纏わり付いていたふわふわした物質が無くなっている事に気付く。
少し腰を折って、見上げてくる大きく潤んだ紫水晶の瞳を覗き込むと、やや言い淀むようにしながらも彼女はアレンハワードの手を取った。
「とうさま、えっと、とうろく‥‥?するんだって」
「保護者権限?ていうのかな。触れれば、生体情報と魔力の登録になる筈だし、お前も有する権利の範囲ではあるが、利用出来るようになる」
「ええ?私が得ても‥‥良いのか?その、離れたとはいえ、私の魂そのものはサリヴァンだ」
「それを言ったらエレンだって、紛れもないサリヴァンの魂を持つ至宝だぞ?」
「それは、そう、だけど‥‥」
珍しくやや狼狽えた物言いに思い当たる事象を理解したのだろう。レオナルドは獣の姿で器用にニヤリと笑うと、明るい口調で言い切った。
「このオレがサリヴァンの魔導具を識らないとでも思っているのか?」
「うん‥‥うん、愚問だったよ。制限があるとして、それはレオナルドが?」
「まぁそんな感じだ。きっと長生きしたくなる事請け合いだぜ?」
「ふふ、そうだね。もうこの複合立体魔術式なんて、最下層のベースですら、あの大爆発した過去の私を嘲笑う位の密度と精度‥‥本当に、嫌になるよ」
改めて、レオナルドが監修し放置しているのであれば、気負う必要が無いのだと再認識したアレンハワードは、足元で心配そうに見上げたままの愛娘の頭を優しく撫でる。
そして一つ深く深呼吸をしてから、そっと複合魔術式に右手を伸ばし、指先を触れさせる。
すると、四重の複合魔術式と同じ光がアレンハワードの指先から掌までをするりと撫でるように絡みつき、細かな術式で紡がれた糸の様な光が一瞬淡い青に彩を変え、そしてそのまま肌の下へふわりと溶けて消えた。
「ええぇ‥‥」
無事に登録が完了した証なのか、未だアレンハワードも到底知り得ぬ魔導の概要が幾つも脳裏に浮かんでは消えていく。
先程レオナルドが長生きがしたくなると言ったのは、これの事かと愕然としながら自然と知らぬ内に溜息が溢れる。
「これである程度、戦力補強を諮れるだろう?」
「そう、だな。中々入手出来ない素材もちらほら見えるんだけど、今は新しく何か組むのは時間が惜しいし」
「あ、でも認識阻害の魔道具は急いでただろ。エレン用にはちょっと素材がまだ揃わないけど、お前に使えるかも知れないのは作れるんじゃないか?」
「あー、今回の件が片付き次第、取り掛かりたいな」
これからルーナエレンも外の世界を見て回るのであれば、どうしても厄介事に巻き込まれる可能性が今以上に高くなるのは予想に難くない訳で。
新たにクローゼットに繋がる収納に蓄えられた、希少種の種や苗をちらりと確認せずには居られない。
そうしてレオナルドは若干の混乱はあるものの、その実かなり研究者気質なアレンハワードの機嫌が上向いていると気付いているので、つい日頃の減点を相殺すべく提案を持ちかける。
「簡易版になるけど、アレンの工房と鞄、厨房の戸棚にもここと繋げる仕掛けを用意してやるよ。エレンには、このクローゼットと繋がる手持ちの小さい鞄が必要だよな?」
「革ベルトを持たせるにはまだ早いし、背負うタイプか、小さい斜め掛けが良いかな?エレンはどんなのが欲しい?」
今までぼんやりと保護者二人の遣り取りを見ていたルーナエレンは、其処で初めての自分専用の鞄が持てると聞いて、頬を緩ませ可愛い両手をきゅっと握りしめる。
何時だったか森で見かけた、ふわふわした小さな動物。お耳が長くてお鼻がひくひくしていて、くりんとした大きな目が艶やかで可愛いと思ったのを思い返す。
「わたし、えと、うささん!うささんがいいの!」
上気したまろい頬にきらきらとした大きな紫水晶の瞳で、いつもより少し大き目な声で言い切った愛娘。
アレンハワードもレオナルドも、思わずほっこりと微笑んで見守ってしまう。
「ああ、良いな!じゃあエレン、手を出して?」
「こう?」
サイズダウンして顔の高さが近くなっていたレオナルドが、目の前に小さくて可愛い手のひらを揃えて差し出されたルーナエレンのそれに、ちょんと鼻面をくっつけて離れる。
すると、先程複合立体魔術式に吸い込まれて消えた筈のふわふわがこんもりと集まり、空間魔法の中だというのに何処からともなく、クスクスと笑う小さな隣人達の声が響いた。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
誰か早くルーク助けてやれよと、思い通りに動かないキャラ達に思う筆者(苦笑




