43、それぞれの昼餐
更新が遅くなり申し訳ありません_:(´ཀ`」 ∠):
しかし、思った以上にストーリーが進まないです( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
ルークが横たわるルディの身体に入ったのを見送ったレオナルドは、この場所に残されたランドルフに聞こえるように、敢えて大袈裟にふすんと鼻から息を漏らす。
メルヴィンの領域にて既に長時間、精神面でも肉体面でも身動きが取れなくなっていたランドルフは、その音に敏感に反応し身を硬くして俯いていた顔を上げた。
「そろそろ領主様は戻っておけ。昼餐に当主も子息も欠けてちゃ、騒ぎになるだろ」
暗にルディの事を自力で誤魔化すなり説明してこいと言っているのだろうが、それはつまり。この場を離れても、彼の末子の『魂』は消滅を免れたという確約が得られているのと同時に、『個』としての様子は現状として大して変化しないと遠回しに知らせているのだろう。
それに何より、保護されている場所が領主当人の契約妖精の領域なのだから、今用意出来得る最上の環境にある筈だ。
メルヴィンも敢えて何も言わなかったので気付かなかったが、年若い親娘もいつの間にかこの空間から居なくなっている。改めて昼餐へ招待したくとも、怒涛の展開に不甲斐なくも呆然としてしまっている間に退出されていたのでは、今更招く事も出来ない。
ランドルフの確認するような視線を受けたメルヴィンは、深緑の瞳を僅かに揺らした。
『そうね、ランディは一度外へ。貴方の元侍従長のカーター、だったかしら?彼はルディに巻き込まれてあの場に飛ばされていたから、他の者より事情が理解出来ると思うわ。ラドルファスにも、出来れば理解して貰った方がいいんでしょうけれど、彼は一度やらかしちゃってるみたいだし。信頼して貰えるか判らないから、彼に事情を話すかどうかと、どこまで話すかは貴方が当主として判断して頂戴』
ほんのりと申し訳なさそうな口調のメルヴィンの言葉に何かを返すより早く、視界の端で艶やかな大型の猫科の獣がぷいとそっぽを向いたのが映り、息を継ぐより前に僅かな酩酊感を感じたのと同時に、ランドルフの視界には要塞砦内の最上の部屋の内装があった。
全身を言い様の無い程の重い疲労感が襲い、上質な一人掛けのソファーにドサリと身を沈め、無意識の内に深く深く、溜息を吐いてしまう。
すっかり混乱した思考を少しでも整理して、どの範囲を誰に何処まで話すべきか。
ランドルフはカーターを呼ぶべきかどうか、執務机の上にあるベルを眺めながら暫く思案する。
だが僅かな逡巡の後、静かに扉を控え目に叩き名乗りの声が聞こえる。
「旦那様、カーターでございます」
「入れ」
洗練された落ち着いた所作で入室し、立ち止まって主人に対する礼の姿勢をピシリと執ったカーターは、苦悩の表情のランドルフを見て、らしくもなく不安そうな彩をその薄い灰緑の瞳に滲ませる。
「カーター、済まない。昼餐にルディは戻れない。手短に説明をするが、意見を聞かせて欲しい」
「‥‥私めで宜しければ、お伺いさせて頂きたく存じます」
後は主人の訪れを待っているだけであろう別室での昼餐の時間をずらしてしまったが、メルヴィンが言う通り、カーターはある程度の事情を察していた様で、主人の話す内容を的確に判断し情報を精査した上で要点を纏めて奏上する。
僅かの時間ではあったが、第三者に語る事で落ち着く気持ちや見える状況もあるらしく、ランドルフはこの帝国の辺境伯家当主としても、一人の父親としても、この時腹を括る選択をする術しか残されていなかったのだ。
* * * * *
柔らかい青銀と薄紫の混じる絹糸のような髪と同じ色合いの長い睫毛が、ふるりと震える。ややあって、ゆっくりとその睫毛と瞼が持ち上がった。
紫水晶の煌めいた瞳はまだ何処か夢現な心地を揺蕩っているのか、ぼんやりと虚空を見ている。
少し気怠い様子で可愛い小さな手で目を擦り、微かに何かが右の頬に付着している感覚を感じ取る。
「??」
子供部屋のルーナエレン自身の可愛らしい寝台に横たわっているのは、きっとお外で大人達のお話の途中で眠くなってしまった自分が、お昼寝に空間魔法に戻ったのだろうと予想がつく。
つくのだが、今ぷにぷにを自負している血色の良いほっぺに、自分の髪の毛ではない何か不自然なふわふわが、くっついて存在を主張している気がした。
何気なく姿勢はそのままで視線だけ違和感を感じた方向へ、つつつと向けて見るけれど、そこには半透明のふっかふかな小さな毛玉が在るのが視える。
内心首を傾げながらも、その触り心地の良さそうな様の誘惑に勝てず、ルーナエレンはそっと自らの右頬に右手の指先を沿わせた。
ふわふわな、蕩けてしまいそうな柔らかい綿毛の塊のような感触が伝わったかと思うと、スゥっと半透明な毛玉はルーナエレンから離れ、不思議な光と動きの軌跡を残しながら、子供部屋のクローゼット付近まで進み、不意に掻き消える。
寝起きの頭で何処まで現実なのか、今一理解が出来ていなかったルーナエレンだったが、自分の生まれてから今までのまだ短い記憶の中でも不可思議な事には慣れていたので、別段誰かに相談するという考えも意識に留めておくという選択も、特に思い浮かばなかった。
魅惑の手触りだけを心に残したまま可愛らしい空腹を訴える音が小さく耳に届き、ルーナエレンはお昼寝タイムを終了する事にする。
寝台からよいしょと足を降ろし、人恋しくなってアレンハワードかレオナを探そうと思った矢先。子供部屋の扉の向こう側から、優しい声がかかる。
「エレン?起きたんだね、おはよう。午後の気力は満タンかな?」
「とうさま!!」
呼びかけの後にすぐ開いた扉から入って来たのは、大好きな父。
嬉しくなってルーナエレンはまろぶように駆け寄って、両手を広げて飛びついた。
そのまま掬い上げ抱き上げられたタイミングで、再びくるるぅっと可愛い空腹を訴える音が部屋に響いてしまい、気恥ずかしさに染まった愛娘の頬へアレンハワードから軽くキスが贈られる。
「お昼にしよう。チーズのガレットに、エレンは何を包んで欲しい?」
「あまいの!!」
「ふふ、それはおやつに取っておこう。半熟卵とそうだなぁ、国境を越える前に仕込んだ魚の燻製を炙ってから解そうか。後はエレンの好きな葉野菜を選んで、菜園から採って来てくれるかい」
「はぁい!」
大好きなアレンハワードに抱き抱えられ、お昼ご飯の相談をしながら厨房へと降りる頃には、先程の不可思議な綿毛とクローゼットの事はルーナエレンの頭から綺麗に消えていた。
厨房に二人で入り、低い棚に保管している調理道具や材料等を取り出す手伝いをし、ルーナエレンは厨房裏の菜園に繋がる扉を背伸びして開き、小籠を抱えてサラダにして貰う野菜を少し収穫する。
アレンハワードには土の属性はないが、この空間魔法の内部は本当に特殊なのだとレオナが言っていた。
特性が全く異なる植物を雑多に植えては育たない様だが、ある程度エリアを区分しておけばそれなり以上に成長してくれる。
ルーナエレンが離乳食を食べるようになってからこの菜園を整備したそうだが、たかだか二年やちょっとでは説明出来ない成育具合なのは、きっとレオナが関係しているんだろうなと思われる。
そのうちルーナエレンも好きなものを植えられるよう、場所を分けて貰う約束もしているので、今からどんな植物を植えようかと、実は今からとても楽しみにしている。
幾つか収穫してから厨房に戻り、昼食を終えた頃にレオナがアレンハワードとルーナエレンを迎えに来たが、些か険しい表情をしているのが分かるものだった。
「思っていたより、負の感情に染まりやすくなってるみたいだ。土地の呪いの影響も強いみたいだし、あんまり気乗りはしないが、エレンにもう一度浄化して貰った上で一手間必要かも知れない。ほら、ルークは実力は最上位に近い位進化をしてるけど、産まれたてだから、余り応用が効かないんだよなぁ」
少しバツの悪そうな口調で言うが、きっと彼に冷たい視線を送るアイスブルーの瞳が「こんな幼気なエレンに、まだ何かさせる気?」とでも言いたげな冷ややかさを多分に含んでいる事も、正しく理解出来ているのだろう。
たっぷりと蜂蜜を入れて貰ったホットミルクの入った専用のカップを両手で持ち、フーフーと息を吹きかけながら飲んでいたルーナエレンがそんな保護者たちの遣り取りを見て、ふと思い出したように可愛らしい声をあげた。
「そうだ、クローゼット。レオナ、クローゼット、まだみてない」
「あ!忘れてた‥‥アレン、はどうしよ、ここで待っとくか?」
「‥‥‥その口ぶりだと、まだ私の識るべきではない何かがあるって事なのかな?」
「あー、まぁいいか。記憶が刺激されるなら、それも流れだろ」
何処か適当な返しをするレオナに、一瞬冷ややかな親娘の視線が突き刺さる。
「レオナ、とうさまにいじわるしてない?」
「ええ?!し、してないよ?」
「‥‥‥」
若干の疑いの眼差しをアレンハワードから受けながら、誤魔化すようにルーナエレンの柔らかなほっぺに艶やかな黒い尻尾を擦り寄せる。
「じゃあ、一度アレンも含めてクローゼット確認しようそうしよう」
滑らかなビロードのような肌触りの毛並みに絆された幼女が、獣の首元に抱き着いたのを確認してから、レオナはそのままルーナエレンを背中に乗せて、アレンハワードを先導するように子供部屋へと歩き出した。
お読み頂き、ありがとうございます٩( 'ω' )و
そろそろピータン出したい(違




