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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
42/150

42、経過観察

毎度更新が遅くて申し訳ございません囧rz


八月に入ってからというもの、雨ばかりで皆様いかがお過ごしでしょうか。

暑さに関してのみ随分と過ごしやすいですが、洗濯物が滞りますよね(泣


 

 複数の魂の復元と融合を経て、強制的な先祖返りと聖獣化の秘術を試み、後は経過観察と熟成だとレオナルドの口から語られた以上、アレンハワードは今この場で出来る事に考えを巡らせる。


 このモルガン辺境伯領の当主であるランドルフの状態を考えると、どうやら死別していた幼い子息達の魂との、時を経た奇跡の再会?と改めての別離の直後である。

 しかも、現状末子である子息の救命処置をし、結果命は助かったとしても別人格になる可能性がある状態であり、目覚めるまでそれが判別出来ないとなれば、積み重なる心労は如何ばかりか計り知れない。


 一つの地域に長居する気はないものの、(ランドルフ)はこの帝国の高位貴族でもある。

 その子息を地面に寝かせたまま放置ともいかないだろう。


 そう考えたアレンハワードは、一仕事やり遂げたと満足げな表情の愛娘に歩み寄って抱き上げてその腕の中に収めてから、レオナルドに向かって確認をするように視線を向けた。


「彼、どれくらいで目覚めるかな」

「さあな‥‥ちょっと合成して、更に錬成し直した魂って言っても過言じゃないからなぁ。研究職としてのお前の見解はどうなんだ?」


 逆に質問で返されて、アレンハワードは優美な眉宇をやや寄せて、自らにピッタリと小さな身体を寄り添わせている愛娘をちらりと見やる。


「エレンが君の力を借りてする何事かの結果を想定するなんて、難題過ぎて私には本当に想像もつかないよ。でも、そうだね‥‥ルークに負担をかけるのは申し訳ないけれど、あまりにも時間を要するようであれば、少しお願いしないといけないかな」


 そう言って視線を僅かに巡らせ、離れた場所で未だ跪いた状態のままで放心するように末の息子を見ているランドルフのところで、(とど)めやる。


「それに、辺境伯閣下の御子息を、いつまでも地面に寝かせて置くわけにもいかないし」


 そのまま流れるようにメルヴィンに合わせる様にやや斜め上へ視線を移し、青銀の麗しき氷の魔王は少し困惑気味に小さく首を傾げて見せる。


「そうだな、メルヴィン。うちのお姫様の魔力を勝手に使った罪滅ぼしの一端として、菩提樹の空間を提供しろ。勿論お前達の行動の制限は、まだ解く訳にはいかないのは理解しているな?」

「自分の契約者の御子息の為でもあるし、あの若木から君の空間へ扉を開いてくれたら、後はレオナが万事采配してくれるだろうからね。それに君の領域とレオナの空間の干渉があれば、検証にも有事にも対応出来る」


 言葉の後半に若干の物騒な探究心が本音として見え隠れしているが、確かにこのような森深い野外でそのまま様子を見るより建設的な意見である。


 すぐさまメルヴィンがカクカクと小刻みに頷いて見せたので、レオナルドはつい先程まで滞在していたドライアドの居住空間に向けて、親娘と被験体もどきを加えて移動させた。

 そしてモルガン家の三男であるルディが一刻以内に目覚めなければ、雷精であるルークによる憑依という手段を取って、状況の確認と安定を測ると取り決める。


 その間にメルヴィンの領域内にて、ランドルフとメルヴィンのみ空間固定を範囲的に緩められた事により、ドライアドの依代本体より作り出された不思議な寝台に横たえられた末子の傍、その父親であるランドルフが心配そうな表情のまま立ち尽くしている。


 アレンハワードにも実質、レオナルドの補助を受けたルーナエレンが具体的にどんな手法を執り、強制的で人為的な先祖返り擬きを成し、その上複数の魂を魂の記憶ごと復元と融合等という神域の奇跡を成し遂げたのか、それは理解(わか)らない。だが被験者の状態を、その体内外の魔力の巡りや内なる輝きを観察及び観測する事によって、どんな現象が起こっているのか推し量る事は可能だった。


 それでもレオナルド曰く本人(ルーナエレン)は、お粘土捏ね捏ねの感覚であったと聞かされたにも関わらず、診た処きちんと処置されているので、やはり魂だとか幽体や精神体を操作する手法は解らない。


 取り敢えずは自分の理解が及ぶ部分だけ、被験者の肉親であり父親の不安をほんの少し、和らげようと簡素ながら説明を口にする。


「ご心配とは存じますが、既に御子息は御歳六歳にしてしっかりとした自我がおありかと。魂の部分で言えば故人である兄君方より生きているという記憶が新鮮であり、記憶にも空白は無い筈です。基礎となった肉体に関しても本人のものですから、戻ってくる強い意志さえあれば、恐らく御子息の『個』が前面に戻ってくるのではないかと考えられます」

「そうだな、ただうちのお姫様が浄化したとはいえ、土地の色濃い怨嗟が子供の精神にどれだけ悪影響を与えているか、そこが懸念される。まぁ、心の強さだとか何かしらの憧憬といった、負の感情を逆転させ得るものがあれば、戻って来られるだろ」


 ランドルフとは反対の寝台の傍で、横たわる少年の左の手首を取り、そこに結えられた革紐を右の指先で辿りながら、薄氷色の魔力で何かの術式を書き込む作業をする傍ら、青銀の髪を揺らす美青年が語り、それに相槌を打つように艶やかな黒い大きな獣の知性的な低い声が続いた。


「強い意志や、憧憬‥‥ですか」


 かろうじてそう言葉を返しはしたものの、ランドルフには到底ついていけないいくつもの怒涛の展開と体験、そしてつい先程あった喪失の痛みの再来に上手く頭が回らない。


 刻々と目安としていた時間に向けて時が過ぎていくが、父親としてこの状況を改善する力も能力も無い己に、深く、深く失望する。それでも自らの末子の、妻譲りの琥珀色に煌めいた生気溢れる瞳を再びこの目に映したくて、黄色味の薄い幼な子特有の柔らかな髪が小さくまろい額にかかっているのを、ランドルフは父として、静かに撫でずにはいられなかった。







 * * * * *




 そして約束の目安とした一刻を目前に陽一刻の鐘が鳴って暫く過ぎ、そろそろ陽の一刻半になろうかという頃。

 結局被験者であるルディの意識は覚醒せず、雷精のルークがその場に喚ばれた。


 そもそもルーク本人に自覚はないが、本来自然から生ずる精霊よりも高次元かつ高純度の魔力から産まれ、ルーナエレンの名付けを経て進化を遂げている雷精のルークは、既に自我も知性も標準の高位精霊より遥かに高い水準にある。

 だからこそ浄化された古い聖獣と、その遠い末裔の幼い肉体に干渉し、尚且つ融合させた魂の様子を確認出来る存在になり得ているのだが、名をくれた愛らしい姫ではなくレオナルドに便利に使われている現状を些か憤っているらしく、若干憮然とした態度を見せる。


『姫以外二喚バレタクナイノニ‥‥抗エナイナンテ!』

「ほぉ、いい度胸だな。そのお姫様は現在お昼寝タイム真っ只中だ!!」

『オ、オ昼寝‥‥ダッテェェ!?』

「寝顔を見たければ、さっさと仕事をこなすがいい」


 悔しげに表情を歪めるルークの人間臭い動向を嘲笑いながら、黒く大きな獣は寝かし付けの権利を得られずこの場に残っており、若干の八つ当たりを込めてルークを召喚し仕事を言い渡す。

 どちらにしても、二人?ともルーナエレンの可愛い寝顔を今現在見られないジレンマがあるのか、最後のレオナルドの言葉尻はほんの少しだけ小さくなる。


 ほんの少しの沈黙にお互い同じ気持ちである事が理解出来たが故に居た堪れず、ルークはそっとレオナルドから目を逸らして無言で未だ目覚めぬルディの胸元に重なるように消えてゆく。


 そして程なくして横たわったルディ少年の口から、小さな溜息と共に少年とはまた違う声音が溢れる。


『アァ、コレハ中々二、混乱シチャッテルカモ‥‥』


 思わずといった呟きに、レオナルドの黒くまろい耳がピクリとを動く。


「どんな状況だ」

『魂ノ記憶モ混ジリ合ッタ訳ダガ、ホボ同年代ノ少年二人分ノ死ノ体験ガナ、浄化シタ筈ノ負ノ感情ヲ連鎖サセテシマッテイル。感受性モ中々二強インダロウ、スッカリ怯エテ意識ガ奥深ク迄、沈ミ込ンデイル』


 ルークから語られた内容に、思いの外平穏であったろう令息の生活環境を感じ取る。

 まだ幼い六歳の少年が、何の覚悟もない処で落下事故遺体になる擬似体験を二人分もしてしまったのだから、本来無理もないだろう。


 捏ね捏ね合成と錬成の際、そこを配慮するべきだったのはレオナルドだったので、これが原因でルディとやらの『個』が戻らなければ、お説教案件である。


「ルーク、取り敢えず少しでも幸せそうな記憶とか辿れないか?恐怖が和らぎそうなの!」

『分カッタ』


 簡潔にそれだけ返し、ルークは再び少年の奥深くに沈み込む。


 心の奥に不安と焦燥を押し込めた硬い表情のランドルフを寝台の脇に残したまま、メルヴィンの領域は静寂に包まれた。



 

お読み頂き、ありがとうございます٩( 'ω' )و


未だルディ君の性格が流動していて、もう多重人格になりそうな予感です。


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