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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
41/150

41、時を経た別離と秘術

毎度更新が遅くて申し訳ありません_:(´ཀ`」 ∠):


毎日暑いですが、皆様どうぞご自愛下さいませ♪

 

 幻想的な光の粒子が弾けた後、異変を感じたのはランドルフだった。


 跪いたまま顔を上げ、微かに聴こえる『何か』に意識を集める。


 "ごめんなさい"

 "ごめんなさい"


 空気を震わせ耳に届く『音』では、決してない。

 けれど弱々しい嗚咽のようなか細い意思。


 "ごめんなさい"

 "ごめんなさい"


 物悲しく細波のように連なって響いてくる。

 二つの意思が折り重なるように、それでもぴったりと寄り添い、揃ってランドルフの胸に降ってくる。


 "ごめんなさい"

 "ごめんなさい"


 幾度も胸に降り積もる囁くようなその想いに、ランドルフの若草色の瞳には知らず涙が溢れていた。


 顔を上げていた筈なのに、胸に降り積もる後悔のような鈍い痛みと寂寥感に、思わず胸を掻き毟る。

 大きな右手が胸元にぐしゃりと皺を作る。


 "ただいまって言えなくてごめんなさい"

 "ちゃんと帰るつもりだったんだよ"

 "こわかった"

 "いたかった"

 "さみしかった"


 次々と降ってくるそれらに、知らず息を詰まらせる。そして、不意にランドルフの脳裏に断片的な映像が視えた。


 四年前に揃って亡くした、自身の双子の息子達の在りし日の姿、その眩しい笑顔。


 厳しい教育の日々でようやく許された、初めての冒険に胸を躍らせる気持ち。

 生まれ持った比較的高い魔力と上位者を見る事が出来た体質。

 そして、守護狼の末裔としても卓越した身体能力と、幼いながらもそれが二人も揃っているからこその万能感。


 視界に映る隣人達の美しさに夢中になり、全身を使って追い、全力で駆ける姿。


 高く手を伸ばす先に舞うように羽ばたく、息を呑む程に優美で幻想的な大鳥の姿。


 そして、今にも届きそうと思えた次の瞬間、全身を擦り潰されたかのような激しい痛みと苦しさ、熱さと寒さが同時に無限に襲いかかってくる。

 助けを呼ぼうにも声も出ず、呼吸もままならない。


 どんどんと視界が黒く焼け落ちるように狭まり、あの美しい大鳥が遠くで旋回する姿が見えなくなっていく。


 "ははうえ"

 "ちちうえ"

 "会いたい"

 "伝えたい"


 膝をついたまま両腕で胸を掻き毟り、頽れ項垂れたランドルフの口から、嗚咽が漏れる。

 聴こえて来ていた弱々しくか細い意思は益々小さく掠れて、今にも消え入りそうになっていく。


 "本当はずっとはなれたくないよ"

 "さみしいの、やだよ"

 "いっしょにいたいよ"

 "でも、ははうえ"

 "ちちうえも"


 ""ずうっと、大好き""


「ああ‥‥今も!今も、変わらず‥‥お前達、を‥‥愛しているっ‥‥」


 そのままランドルフは溢れる嗚咽もそのまま蹲り、大きな左の拳を森の柔らかな下草ごときつく握り込む。


 そんな彼の周りを、気遣うように慰めるように、微かな淡い薄紅色と山吹色の光が対になるようにふわりと舞い、周囲の空気に優しく溶けるように、虚空に消えた。






 * * * * *





「さて。もう少し待ってやりたいところだが、うちのお姫様にこれ以上負担をかけるのは無理だ。さっさと進めよう」


 その場の空気を敢えてレオナルドの言葉がぶった斬り、メルヴィンは未だ動けずに蹲って嗚咽を漏らすランドルフの横で、彼の背中を摩っていた手を止め顔を上げる。


「どうやら以前の想定よりも、御子息の『個』としての人格を保つ成功率は上向きそうです。勿論確約は出来兼ねますが、約束は違えぬと誓いましょう」


 静かな、それでも何処か穏やかなアレンハワードの美声が紡いだ言葉を合図に、レオナルドとルーナエレンは横たえられた少年のすぐ傍に移動する。


 暫し横たえられた少年であるルディを見詰めたルーナエレンは、父親を振り返って小さく首を傾げて見せた。


「とうさま、あさのひも、つかってもいい?」

「ああ、大丈夫だよ。‥‥成る程そうか、魂の定着はどうしても時間がかかるところだけれど、この紐で魔道具として‥‥」


 愛娘の言いたい旨を即座に理解し、上衣の懐から該当の即席抱っこ紐もとい固定の魔道具を取り出した処で、横からレオナがひょいと器用に咥えて取り上げる。

 研究者の性分というべきか、既にアレンハワードの思考は魔道具の改良と擬似的に聖獣を生み出す過程に向かって沈み始めてしまっているようで、特に気にした様子もない。


「えとね、レオナ。このひも、つけたひとがくるしくならないように、してほしいの」

「ふむ、微調整や改良はアレンにして貰うか」


 手早く生成りのワンピースのポケットから、淡く色違いの光沢を放つ二つの小さな珠を取り出したルーナエレンは、レオナから受け取った紐の両端それぞれに一つずつ珠を触れらせると、小さな左右の掌で包み込む。

 そうして薄らと銀色を帯びた魔力を両の掌に込めてから、レオナが小さな手の上に前左脚を軽く重ねる。


 アレンハワードが脳内で演算と試行を繰り返している間に、組紐だったそれは深い色合いの革製の紐に変質し、両端に小さな珠の飾りが付いたものとなっていた。


 その珠飾りの付いた革製の紐を小さなその手に持って、少年の傍で膝をついた幼く小さな女の子は、器用に少年の左の手首に拙いながらも魔術具の紐を結え、これを以って概ね準備は完了する。


 そこからは、夢現の中で出逢ったあの女性が教えてくれた手順に沿って、祈りと輝かんばかりの魔力を込めた。


 レオナとルーナエレン、そして傍でその様子を見守りながらも思考に沈んでいるアレンハワードへ、緊張気味なドライアドから遠慮がちに声がかかる。


『あの、私などには到底理解出来ないのは重々承知ではあるのですが‥‥』

「あ、うん?」

『姫様もしかして、精神体と幽体ごと、魂修復してらっしゃいません?!』

「そうだね、奇跡的に条件が揃ったから、レオナも力技でエレンを手伝ってるみたいだし。凄いよね」


 唖然として固まるメルヴィンを横目で見て、アレンハワードは自分の血筋が呪い故に会得した記憶継承の技術については、黙っている事にする。

 勿論、まだその技術をルーナエレンに教えていないし、体験させた事もない。


 ただ、決まった血族のみと血を継ぎ、記憶継承を繰り返してきた所以なのか、アレンハワードの一族は総じて聡明であり、そして魔術の知識や技術をまるで初めから持っていたかのように収める事が出来る。


 そんな血族の先祖返りから特殊な経緯で産まれたであろうルーナエレンであれば、封じた状態とはいえ超越者の助力があれば、神の領域ですら踏み入れてもおかしくはない。


 今この場所にはレオナルドによって魂までも誓約で縛られた者しか居ないのだから、それもきっとこんなある種の暴挙に出た原因なのだろうと、頭の片隅で考える。


 だがその実、ルーナエレンにとっては器用に粘土を捏ねているような感覚であって、捏ね具合の微調整をして『個』を全て一緒くたにしてしまわない作業は全て、レオナルドが負っていたりするのだが、言わぬが華というものだろう。


 それでも溺愛する愛娘の超高度な真剣勝負お粘土遊びの様子を、アレンハワードは場違いな程穏やかな表情で見守っている。

 実際その小さな可愛らしい両手を使って捏ねているのでは無いし、捏ねている対象は複数の『人』の傷付いた魂やその器となる幽体、記憶等を司る精神体であるが。


「ルークに一度憑依させてたから、馴染みやすくはなってるな。この後どう発酵するか経過観察!拒絶が出なけりゃ、出力の調整をその都度ルークにさせればいい」


 黒い艶やかな毛並みの大きな猫科の獣は、場違いなほっこり感を醸し始めたアレンハワードに、状態の報告と今後の対処を伝える。


「え、ルークは雷精だよ?この地の呪いが標的にしてしまわないかな?」

「風とはいえ、エレンの名付けでもう別個性に近いからな。ものは試しだ」


 途端に保護者二人で実験について語り出すのを、複雑そうな表情でルークとメルヴィンが見ていたが、その二人の視線に気付いていないフリをする水色のひよこ煎餅の存在は、この場の誰からも忘れ去られていたのだった。






お読み頂き、ありがとうございます٩( 'ω' )و


気持ち子猫パン捏ね捏ね的な。

無事発酵成功して欲しいところです!

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