40、対面
更新が遅くなりました。。。申し訳ありません_(:3 」∠)_
それにしても、ジメジメ暑くなってきましたね。
一昨日、今年初めてのセミの声を聴きました!
メルヴィンの、守護すべき範囲の血族に魔力量の多い者を欲するという思惑で、サリヴァン親娘を望むという無謀な野望は既に完全に潰えたと理解したものの、アレンハワードは彼等の空間固定の拘束を解こうとはしない。
ほぼ本能による無意識だとしても、メルヴィンは絵本に仕舞われた前科を持っている。
残るひよこと聖獣を始祖に持つこの地域の権力者が居るのだから、警戒を解くべきではないと考えるのは自然な事だった。
「今朝までの記録をご確認頂いたのであれば、辺境伯閣下がある程度ご理解下さっているものとして、お話致します」
ちらりと横目でメルヴィンを見やると、随分と強張った表情で小さく頷いたので、眷属の魔獣の発生と黒い陽炎の関係の予測を簡素ながらも解説する。
山の神の末裔と縁の深さと地の属性から、黒の陽炎である呪いは地中に深く染み込んでいると推測され、その呪いの対象が原始の風である可能性が濃厚だとも加える。
そしてアレンハワードは膨大な魔力と魔術を扱うが、呪いの対象となる風と忌々しくも深い関係があり、また自身も風の呪いとも言える制約がある為、全力では戦えない。身内は補助魔法が主なので、属性の相性の悪さと火力を補う為、当地の守護狼の末裔が協力をしてくれるのであれば、強制的に先祖返りの状態を作り出す事が出来るであろう旨を簡潔に伝える。
だが、強制的に検証も無しに半死の年端も行かない子供に施す行為である為、保護者には万が一にも当人の人格が残らず同一人物とは言えなくなる場合が僅かでも可能性があると、素直に告げた。
そうなれば、もうこの地で士族と共に生きて行く事は難しくなるが、そうなったとしても捨て置かず、何かしらの道を選べる様に教育なり訓練を施す旨を約束をする。
自らの領地ひいては属する帝国及び、実子に対しての言いように固唾を飲むランドルフは、危うく理解の範疇を越えそうになる内容を必死に頭に刻み込んでいく。
語られている内容は、一介の旅の魔術師にあるまじき高度な専門知識であり、誠実にランドルフ達にとっての不利益や不都合についても語っていると信じられるものであり、また万が一にも不幸な想定が現実となった場合も何らかの手助けや状況の回復を計る行動をとってくれると述べてくれた。
何と器の大きな御仁だろうと感銘を受けるランドルフは、未だ顔を上げられない空間に固定されたままではあったが、静かに佇んでいる様子や声音、そして言動などから推測するに、まだ年若いであろう青年の聡明さや人格に想いを馳せる。
これがまさか、レオナルドとアレンハワードの無意識の飴と鞭対応の絶妙な人身掌握とは、思ってもいない。
そんな中で、この場に不釣り合いな程可愛らしい幼子の高くか細い声が届く。
「レオナ‥‥?もういっかい、めってするよ?」
「え、エレンの安全の為なんだよ?!」
「‥‥でも、おかおみないでおはなし、へんだもの」
小声ながらもキッパリと告げる幼い女の子の声に、彼の黒髪の青年らしき存在が声を詰まらせ喉をぐうと鳴せている様子が伺える。
「そうだね。レオナ、この後ルークをすぐに召喚ぶだろう?せめて視認出来るよう体勢か姿勢の自由を赦してはどうかな?」
青銀の髪の青年の美声が優しくそう紡ぐと、軽い舌打ちの音の後、渋々了承が返る。
「仕方ない、ルークにエレンの絵本を持ち出させてからだからな!」
「はいはい。じゃあ、エレン?ここに召喚べるかな?」
「はぁい‥‥ルーク」
保護者二人のやり取りの後、幼く可愛らしい声が名を紡ぐ。
途端に天地を引き裂く程の大音量で雷鳴が轟き、すぐ近くの地表が爆ぜたような爆音もする。ランドルフは顔を伏せているにも関わらず、カッと視界が紫電に焼かれ反射的に身を硬くしてしまった。
「‥‥お前、悦び過ぎだろ五月蝿いよ!」
『姫ニ名ヲ呼バレタ、嬉シ過ギ』
雷鳴と爆音が鼓膜を麻痺させている間に、アレンハワードは素速く愛娘を抱き上げており、少しの距離を取って佇む獣姿のレオナルドのすぐ目の前には、紫電を纏った幼い少年が跪いている。
その少年からやや大きく立派な装丁の絵本をアレンハワードが受け取ると同時に、首から上のみが自分の意思で動かせるようになったランドルフと水色のひよこは、その視線を自然と空間に縛られていない者達へと向けた結果。
ランドルフは瞬きも忘れて若草色の瞳をこれでもかとばかり見開いて完全停止し、ひよこはひよこでどこからそんな馬力を得たのか謎な程の速度と動きで、空間を隔てる分厚い壁に突っ込んでいった。
* * * * *
水色ひよこの衝突事故という衝撃映像を目撃する事になって僅かの事故処理に時間を割き、青ざめた顔のドライアドと領主はその場で大人しく上位者の動きを見守っている。
薄っぺらいひよこ煎餅がレオナルドの前脚の下に敷かれているが、誰もその事態に触れようとしない。
何よりもメルヴィンには、つい先日半ば無意識とは言え、ルーナエレンに飛び付こうとした前科があり、極上の魔力と天上の魂を持つ小さな姫の、あの有無を言わせぬ吸引力を前にすれば、妖精族も精霊族も自制心がまるで役に立たない事は恐ろしい程に身を保って理解している。
レオナルドからすればどちらも大差ない失態ではあるが、今回メルヴィンが同じ愚行を犯さないで済んだのは、単にレオナルドとアレンハワードへの畏怖と新たに刻まれた魂への制約、そして存在の経験値の違いと言えるだろう。
そんな一部の裏事情は一切感知せず、アレンハワードはルークから受け取った絵本を片腕で抱き抱えた愛娘に手渡し、空いた手でほんの少し身を屈めて足元の何かを拾い上げるような仕草をする。
すると、先程までは確かに何もなかったはずの地面に、不意に小柄で幼い少年が野営用の敷物の上に力無く横たわる姿が顕になる。
それを目の当たりにして息を呑んだランドルフは、思わず身を起こして駆け寄ろうとし、結果身動ぎ一つ取れないままだった。
「御子息で相違ございませんか?」
「我が三男のルディです!」
静かに少年の身元を問う声が頭上から掛けられ、即座に語尾が被る勢いのままランドルフが答える。それを見ていた紫水晶の大きな瞳がゆらりと揺れ、躊躇いがちにルーナエレンは父親を見上げる。
その何か物言いたげな視線を受けて、アレンハワードはそっと愛娘に発言を促すように優しく抱き抱え直すように揺すり、自分の耳を幼く小さな口元へ近付けた。
「あのね、もしかしてなんだけど」
「うん」
「ええと、だいだいいろ?のめと、やわらかいはっぱいろ?のめのおとこのこなんだけど」
「うん?」
「ふたりとも、そっくりなの。おめめのいろがちがうけど。あと、そのおとこのこくらいのこで、にてないけどとってもにてるの」
「ええと、辺境伯閣下の三番目の御子息のことかな?」
まだ語彙も乏しくどう表現したらいいのか分からないのだろう、辿々しく伝えてくる愛娘に細かく返事を返しながら優しく確認するアレンハワードに、ルーナエレンは勇気を出して言葉を続ける。
「うん。それでね、へんきょうはくさま?にね、ごめんなさいっていってるみたいなの。エレンに、つたえてほしいってきもちが、はいってくるの」
「うん?もしかして融合させた魂の話かな?」
「うん、そう」
横たえられた我が子との距離に焦れた様子ながらも、銀の彩を持つ親娘のやり取りに必死で耳を傾けていたランドルフの若草色の眼は、二人の会話の内容を今一理解出来ていない様子だったが、彼の契約妖精であるメルヴィンには思い当たる何かに行き当たったのだろう。
深緑の瞳を瞬かせ、ほっそりとした喉をこくりと上下させ息を呑む。
「ゆっくり時間を取ってる暇は無いぞ」
「うん。でも‥‥レオナ、てつだって?」
そっと父親の腕から降ろしてもらったルーナエレンは、苦言を呈した艶やかな黒い獣に向かって小首を傾げ、大きな紫水晶の瞳は必然的に上目遣いで見上げる形になっている。
余りある体格差による上目遣いと、小首を傾げてのおねだり。
「‥‥!!し、仕方ないな!」
「ありがとう!」
余りに可愛らしく上手におねだりをされ、レオナの背後で黒くて長いしなやかな尻尾の先が、表に出さずに押し殺した歓喜を表現するかのようにブワリと膨らんでいた。位置的にそれを目撃したのは、アレンハワードのみだったが、彼は空気を読んで保護者仲間に対する場違いな微笑ましさを、張り付けた笑顔の下に押し込めて耐えている。
ルーナエレンは黒い艶やかな大型の豹のような獣の首に、嬉しそうな表情のまま抱き着きふわふわの毛皮に頬を寄せる。
すると黒い毛皮に触れた部分から伝わる体温とはまた別の、暖かな何かに包まれた感覚がして更に柔らかな頬が緩む。
これで夢の中で出会った女性に分けてもらった力が、僅かながら補強されたのが感覚的に分かる。
きっとこれで、昏睡状態の少年と魂だけの二人の少年達、どちらもが望む形に導けるのではないかと、根拠はないものの確信に近い思いが芽生え、ルーナエレンは自然と頬を緩めて満面の笑顔を浮かべた。
そうして、幼い少女の高く澄んだ声が、弾んだようにその可愛らしい小さな唇からまろび出る。
「おいで!いまなら、きっとおはなしさせてあげられるの!」
少女の呼びかけが秋の昼間のからりとした森の空気に溶け、横たえられた少年の身体から無数の光の粒子がふわふわと彼女の周りに集まって、衆目の中淡く輝き弾けて消えた。
お読み頂きありがとうございます!٩( 'ω' )و
ちっとも話も物語内の時間も進まねぇ!!_:(´ཀ`」 ∠):
ひよこ煎餅は空気と化しました。
色々進まなさ過ぎてピータン化がやばいです!!




