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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
38/150

38、圧迫面接 其の1

 

 ドライアドの本体である要塞城敷地奥に聳える神々しいまでに立派な菩提樹。

 その巨大な幹の内部と重なる空間軸の階層、幾つにも(わた)る其処には三つの存在があった。


 一番低い階層で跪いた姿勢のまま、存在と時間を縛られた当地の領主であるランドルフ。そこから幾層か階位が上の階層には、この空間の主人であった筈の大妖精のドライアドが身を小さく凍らせて、首を垂れ跪いている。

 最上階位の階層にて階層を隔てながらも、自身が座するより下位の階層を鷹揚な態度で見下ろす黒髪の美丈夫は、菩提樹の若木で織られた立派な一人掛けの椅子で脚を組み、右の肘掛けで頬杖をついて思案顔だったのだが、その様子はメルヴィンもランドルフも伺いようもない。


 元来のレオナルドは傍観者であり、箱庭に等しく終末を齎す存在である。

 だがそこに至るまでには明確な基準があり、見過ごせない規定の一線を超えない限り、理不尽にその力を奮った事は一度も無い。


 破壊と再生を経験しても尚、今も箱庭に存在しているメルヴィン達には勿論、唯全てを壊すだけの存在ではないと知識もあるのだが、いかんせん超越した破壊力に付随する恐怖の念が強過ぎる故に、どうしても萎縮してしまう。


 それは至極当然の反応である為、それらを特段気にするでもなく。

 レオナルドは低く落ち着いた美声を発する。


「このオレの発した言葉の呪力で縛られた()()()なら、あの二人に直接会う事も赦してやろう。下手な欲を出した処で、一族どころか種族の断絶が待っているだけだしな」


 そう言って微かに口の端を持ち上げたレオナルドは、ふと言葉を切って視線をやや上に向けた。


「そうだ、どうせだから巻き込んでおこう。メルヴィン、ここの暫定の皇帝(エルフ)に所縁の深い青水晶とお前なら、どっちが古株だ?」


()()()」と先程レオナルドが発言したところで小さな違和感を感じていたメルヴィンは、再びびくりと肩を震わせる。上位者の種として同格とも言える、ちびっ子の姿をしたアレを裏切っている訳ではないのだが、キリキリと胃が痛むような錯覚に襲われる。当人が知らないところで話題にされるが、勝手に処断されるよりはきっとマシなのではないだろうかいや間違いなくマシである、と、メルヴィンはそう強くそれはもう強く思い込む事にする。


 それでも即答しなければいけないようなプレッシャーを勝手に感じ、メルヴィンの口からはするりと帝都の奥地に存在している青水晶の情報が吐き出された。


『アレの先代は私達と同格だったんだけど、今のは先代の依代を譲り受けた幼児というか‥‥まだ宿って二百年と十数年だったと記憶しているわ、いえ、しております』

「ほぉ、本当にひよっ子だったか。それなら、お前みたいに淘汰を経験してはいないな」

『!!!』


 咄嗟に激しい力を叩きつけられ身を引き裂かれる様な錯覚を覚える。これが彼の方の言葉の持つ呪力の凄まじさなのか、無自覚に放たれた「淘汰」という言葉に含まれた、本物の超越者の齎した現象の純粋な力の一端が、メルヴィンの中の「淘汰」の記憶を呼び起こした。


 恐怖に縛られ動けないでいる間に、レオナルドは頬杖を付いていない左腕を無造作に軽く振るう。

 すると、虚空から固まったままの青水晶の精霊が、メルヴィンの目の前にぼてりと顔面から落ちた。


『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』


 声にならない悲鳴を挙げ、落下地点で蹲り小さな両手で真っ赤になった顔面を押さえ、痛みに悶える青のひらひらのワンピースを着た幼児。

 哀れな程に震え、えぐえぐと喉を引き攣らせながら咽び泣く絵面は、上位精霊としての威厳の欠片もない。


『獅子様ほんとにお許しぐだざいぃぃイィ!!!!』

「あ"あ"?」

『じ!じじじっちゃと代替わりして!それでも力が足りなくって!!微睡んでたら本気(マジ)寝しちゃってて!最近やっとすこぉしだけ興味を惹かれる魂が出てきたから、ちょこっと力を貸して!そしたらまた眠くなっちゃっ!!!』

「きんきんと五月蝿いんだよひよっこが。ちょっと黙ってろ」

『ぴィぃっ!』


 土下座する勢いで濁点付きの謝罪を叫んだ結果、謝罪相手(レオナルド)から得た返答は、不機嫌極まりない迫力の濁点が強調されるものだった。その声音が余りにも低く、腹の底までビリビリとあらゆる不興がありありと伝わり、恐慌状態に陥ってしまっていた青水晶のちびっ子こと地属性の上位精霊は、必死に少し前にあった初対面時のやり取りに対する言い訳を思い付くままに喚き叫ぶ。


 その必死の言い訳の悲鳴が硬質な甲高い幼い声だったのもあり、耳に刺さるような不快感を覚えたレオナルドは思わずといった風に、語尾を遮って鬱陶しそうに手を軽く払った。


 結果。

 青水晶の精霊はころりと小さな水色のひよこの姿に転変し、最下層のランドルフの元にぽてりと堕ちてしまった。


『あ』

「おぅ‥ふ」

(ピヨぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!!(泣))







 * * * * *




 マルティエ帝国全領土では恐らく二大上位者であるメルヴィンと、青水晶の精霊改め水色の小さなひよこ。

 そして『龍の背骨』を含む『龍の寝所』の大半を領地に納める辺境伯モルガン家の現当主。


 それらを前に、レオナルドは座したまま長い足を組み、尊大な態度で背凭れに背中を預け、腕を組んでいる。

 自然と滲み出ていた威圧と濃い純度のレオナルドの魔力双方に当てられ、この空間の主人であった筈のメルヴィンまで、ランドルフとひよこと同列の階層で涙目ながらも背筋を伸ばして正座をし、威圧を放つ相手の方に頑張って顔を向けている。


「まずは精霊族及び妖精族のお前達に課す。失伝した内容は可能な限り上位者がきちんと取り扱い、本来知るべき者が正しく識るよう尽力しろ。また箱庭の住人の魔力の欠乏については、上位者と住人との意思疎通の欠落が負の一因であるのは否めないだろう。オレは詳しくはないが、始祖の相性や母体となる女性側の資質の影響が大きいと言っていたな‥‥。後は、双方の魔力の質も保有量も乖離している場合、次世代以降身体的に何らかの欠陥を負う、若しくは魔力を継ぐ資質が途切れる、と言うのが魔道大国と謳われる、現ネヴァン王国の上流階級で認められているという知識だ」


 眼下で時を凍結されているランドルフにも、レオナルドの言葉は強力な呪力を持って魂魄に刻まれる。

 それを、言葉を一旦止めた冷たい彩を滲ませた青い瞳が、ひたりと見据える。


「メルヴィンはその眼で見ていただろう。あの黒い陽炎が、何に反応したどんな感情か」


 名を差されたメルヴィンは身を硬くしたまま、こくりと喉を上下させる。

 滲み出してきた黒い怨嗟の陽炎。明らかな意志を持って、風に纏わる敵意とも害意とも、執着とも取れる強い感情を含んでいた。


「大陸中の原始(はじまり)の始祖の中で一番、『彼女』に近い雪の花と守護の猛禽を祖に持つ者が北に在る。そこに(みなもと)の風は未熟な感情のまま、暫く色濃い『彼女』の残滓に激しく執着した。源の風は、謂わばこの地の古龍と同等。古龍は大地を大方整えると、自らの眷属の始まりを余命を削って産み出し、己の骸を以ってその後の大地に永きに渡って恵みを齎した。だが、それとは正反対に風が齎したのは、彼奴(あやつ)の強過ぎる自我で不幸を撒き散らした。この箱庭を幾度もオレが均し再生したにも関わらず、風が及ぶあらゆる地で、地に染み込んだ数多の呪いを遺していた。(まさ)しく、災禍を齎す暴風だ」


 大陸の北と源の風、そして猛禽と雪の花とくれば、精霊や妖精からしてみればネヴァン王国と理解出来る。


 だが、黒い陽炎の話からどうしてネヴァンの秘匿されているであろう話になったのか、一瞬理解が追い付かないメルヴィンだったが、以前聞いていた本物の『銀の雫の姫』とその実父について、今目の前で話している彼こそが『鷹の翼の末裔』と言っていたのではなかったか、と思い出す。


 古龍と対をなす源の風とは、すなわち永らく箱庭を離れて姿を見ない、鷹の翼を持つ風の精霊王を指す言葉だ。

 そう考えてから、もう一度メルヴィンは頭の中で彼の親娘を思い浮かべる。


 自分達の魂を鷲掴みにする、あの銀の彩の髪にあの神々しいばかりの容姿、類い稀な魔力量に能力。

 そして何より、そんな恵まれた産まれ故の短命の呪い。

 現にこの超越者から『執着』していると直に口にされ、現在進行形でその感情を受けている親娘。


 ランドルフのような箱庭の表層に住む存在には、遠く理解が及ばないだろう。だが少なくとも、ここに存在するメルヴィンと青水晶のひよこには何となく、『鷹の翼の末裔』と呼ばれる存在がどうやって誕生したのか、漠然と掴めてしまったのだ。


 そして、余剰な風の魔力は呪いを各地に撒き散らした張本人と源流が同じ。

 それ故に呪いはこの親娘の行く先々で、こうやって彼らに更なる苦境を齎すのだろう。


 メルヴィンは深い、深い溜息を吐きたくなった。





お読み頂き、有難うございます!


ほんとに愉快な仲間たちが勝手に誕生する不思議。

もうカラーひよこ戦隊にしようかしら(違


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