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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
37/150

37、神の意と神の威

なかなか更新出来ず、歯痒いばかりです_:(´ཀ`」 ∠):

更新が大変稀になっており、申し訳ありません。。。


 

 ふわふわとした夢見心地のまま、ルーナエレンは長い睫毛を微かに震わせる。

 自然と静かな深呼吸をすると、嗅ぎ慣れた香木の香りと日向の様な匂いがする。


 頬に当たる生地の肌触りと匂い、そして背中に感じる心地よい温もりで、今自分が居る場所がどこなのかをじんわりと理解していく。


 深い吐息が無意識に小さく愛らしい唇から漏れると、優しく頭を撫でる掌を感じる。感触と手の大きさからきっとレオナだと判じて、ルーナエレンはようやくゆるゆると瞼を持ち上げた。


「おかえり、エレン」

「‥‥‥レオナ、ただいま」


 目覚めた処に掛けられたそんな言葉に、不思議と違和感無く返してしまったのは、まだはっきりと意識が覚醒していないからかも知れない。それでも、レオナは何があったのかきっと知っているんだと思えたルーナエレンは、小さな声で薄れ始めた夢の話を、覚醒したてのトロンとした柔らかな表情のまま話し出す。


「すごくね、キレイなおんなのひとにあったの」

「うん」

「それでね、ぎゅって‥‥してもらったの。ほっぺ、すりすりも」

「うん、そっか」

「そしたらね、いっぱいなみだ、でちゃったの」


 ベッドの横に膝をつき、身体ごと横向きで眠っていた姿勢そのまま小声で話すルーナエレンの顔の、すぐ側に顔を寄せ、レオナは青い瞳を優しく眇める。

 青銀と薄紫の混じったふわふわの絹糸を、丁寧な手付きで撫でてやると、少女ははにかんだ様に微笑みを浮かべた。そして顔を近付ける為にベッドに添えていたレオナの手に、そっと小さな白い手を重ねる。


 恐らく夢と認識してはいるが、そこであった事を無意識で反芻しているのか、重ねられた小さな手から、邂逅の記憶と記録が伝わってくる。


 レオナルドへ『彼女』の意思が伝わるのは確定事項だったのだろう。

 愛娘を通じて、どんな知識と力をやり取りしたのかをレオナは正確に把握した。


 具体的には、ルディの魔改造のヒントとなる知識に始まり、上位眷属に関する要注意種族(ブラックリスト)であったり、宝珠の(極小威力の)活用方法であったり、挙句封印(ロック)の掛かった他の上位種族固有の()()()や古代魔術式、魔素の薄くなった箱庭では絶滅したのではないかと目されている素材となる有機物まで。


 明らかに、人間と目される種族の三歳児に託すものではないと、常識に疎いレオナでも理解出来る。


 何よりも、『彼女』から愛娘(ルーナエレン)へ、自由意志を尊重し叶えるよう、記憶を通じて明確な意思表示を受けたのだ。即ち箱庭の命運は正しく、至宝とも言える親娘次第。


 これは現在のレオナの行動をほんの僅かでも阻害する者があれば、元より存在を抹消されても仕方ないが、『彼女』の寵愛の厚さを見れば、世界の理に誓約を受けた範囲であっても十分だろう。

 下手をしたら、理の方が曲解して味方しそうな勢いである。


 穏やかな表情の裏でそんな不穏な考えを巡らせていたが、重ねたままの小さな掌からレオナの体温と魔力を感じて安心したのか、ルーナエレンの瞼はとろとろと下がり、ややあってすうすうと小さな寝息が聞こえてきた。

 重なった手を、そっと撫でてから静かに外し、上掛けを引き上げ掛けてやる。


 すると、入れ替わるようにアレンハワードの瞼が動いた。


「‥‥レオナ?」


 少し掠れた声で呼ばれ、再び眠った少女を気遣うように小ぶりな自身の唇に人差し指を立てて当てて見せ、声を潜めて返事をする。


「‥‥ん、だいぶ落ち着いたな。ああ、オレは出てくるが、一階の居間にルークを置いて行く。明の三刻までには戻るが、二人はまだ寝てろよ?」

「わかった‥‥恩に着るよ‥‥。動こうにも‥‥もう少し、エレンが足りないみたいだ」


 ほんの少し、冗談か本気か分からない軽口を叩ける程度には回復してきたのだろう。

 薄っすらと開けられた瞼を縁取る長い睫毛から、僅かに覗いたアイスブルーの瞳には、随分と柔らかい印象を受ける。

 くっと喉の奥を鳴らすようにレオナが笑うと、愛娘のふわふわの巻毛に整った顔を少し埋めたアレンハワードは、大きく息を吐いて再び眠りに就いた。


 その様子を暫く静かに見守ってから、レオナは再び単身で外界へと転移する。


 そろそろ一方的に約束した明の二刻。


 メルヴィンは、『龍の寝所』を守護する領主は、どういった結論を導き出したのだろう。

 全くの傍観者となるのか、立場や状況を読めず暴論をかざすか、はたまた全てを粛々と受け入れるか。


 (いずれ)にせよ、(レオナ)の内に芽生えた感情を向ける対象である親娘が、不利益を(こうむ)らないよう周囲を動かせば良い。

 身の程を弁えず立場を理解出来ない者は、排除すれば良い。理解した上で利用出来る様であれば、利用する。


 黒髪の美しい少女が薄紅色の唇を静かに歪めると、その姿は揺らぐように(ほど)け、大きな黒く艶やかな獣を象る。


 未だ燐光を放ちながらゆっくりと成長を続ける菩提樹の若木に悠然と歩み寄ると、黒い獣は一度ふすんと鼻を鳴らし、そのまま若木を介したメルヴィンへと通ずる『道』に姿を消した。






 * * * * *




 繊細な若木のしなやかで柔らかな枝が自ら織りなし形作られた一人掛けの立派な椅子に、尊大な様子で座す者がいた。


 艶やかな射干玉の髪はやや無造作で、少しの癖を持ちながらも何処か獅子の(たてがみ)を彷彿とさせる。肩より少し長い程度のそれを右の肩上で軽く結えた美丈夫は、面白がるように青い切長の目を眇め、肘掛けに頬杖をついて長い足を組んでいる。


 その眼前には、一部の者に深緑の女王と呼ばれる(こともある)古の大妖精が、震えながら五体投地する勢いで這い蹲っており、極僅かにぶれる様に視界に重なるその空間は、幾つか階層が隔たっている。その最下層の空間には、上位者との存在の格の落差により、苦しげに胸を押さえた状態で時間を停められた辺境伯当人がいたが、それを気に留めるものは当人以外ここには居ないようだ。


 黒髪の美丈夫の、さも当然の様な尊大な様は争い難い魅力と優美さを持ち、自然と他者を圧倒する存在感を放ちながら気怠げに低い美声を響かせる。


「で?ここの当主は自らの末子とやらを、差し出す覚悟はあるのか?」

『‥‥‥は、はい!』


 ほぉ、と嘆息と共に応え、不敵で美しい笑みをその口の端に浮かべる様は、メルヴィンの思考回路を無意識に凍らせる。大妖精としてありもしない生理現象のはずなのに、這い蹲ったままの背筋に伝う冷や汗が止まらない。


「そうか。じゃあ軽く魔改造して、少しでも役に立てるようにしてやるよ。まぁ万に一つでも、失敗して壊れた場合は、オレが責任持って後顧の憂いがないよう箱庭ごと綺麗に均してやるから安心しろ」

『いやぁぁぁ!!均すのだけはご容赦下さいませえぇぇえ!!!!!』


 失敗の意味をルディだけではなく古龍の御子、ひいてはこの箱庭といわれた世界そのものをも示唆していると理解したメルヴィンは、この箱庭に自身の大半を縛られる者の本能として、骨髄反射の如く恐怖を悲鳴として発していた。


 くつくつと喉を震わせて低く嗤いながら、絶叫を放ちつつも額を床に擦り付け滂沱の涙を流しているメルヴィンを眺めるレオナルドの青い瞳は、どこまで本気で破壊を仄めかしているのか、到底測り知れない。

 今までのやり取りや言動で、メルヴィンは目の前の幾つもの姿を持つ存在が何者であるのか、決して明言はしないもののおおよその推測は出来てしまった。


 勿論、それを明示するには存在が違い過ぎるので、恐れ多くて口には出せないのだが、その恐怖や畏怖の感情をメルヴィンが抱く事そのものも、きっと愉しんでいるに違いない、と確信が持てるのが何とも空恐ろしい。


 恐怖に身を竦めながらも内心でそんな事を思っていると、愉しそうに嗤っていた声の主は「ああ、それと」と明るく告げて来たので、メルヴィンはびくりと肩を跳ね上げ思わず顔を上げる。


「さっき、青水晶の奴の顔をチラッと見て来たんだが‥‥」

『!!!』


 現帝都の要の精霊の核をさらりと言われた事に固唾を飲んで身を硬くするメルヴィンの深緑の瞳を、酷く冷えた青の視線が射竦める。


「今回の件がどんな結果になろうとも、これ以上オレ達の手を煩わせるなよ。‥‥お前も龍脈ごと引っこ抜かれたくはないだろう?何度も言うが、このオレが何よりも優先するのは、愛しいエレンとその最愛だ。身の丈に合わぬ欲を抱く輩は、一族郎党纏めてオレの領域に捕らえ、永遠の業火でもてなしてやろう」


 レオナルドの本音を多分に含んだ低い美声での脅しの言葉は、呪力を持って最下層で時間を凍結されているランドルフの精神体にまで届き、有無を言わさず強制的な誓約で魂を縛りつける。


 その様子を目の当たりにしてしまったメルヴィンは、恐怖の余り固まったままこてりとその場に白目を剥いて倒れてしまった。


「‥‥あ〜、たったこれだけの言葉で縛られたのか?‥‥アレンとエレンにしか興味が無くて、全く気付かなかったが‥‥オレが眠っている間に、箱庭の種族はよくもここまで貧弱になったものだな‥‥」


 何処となく困惑気味に響いたこの場の最上位者の声は、限りなく締らないこの状況で、これまた酷く本音でしかないと解るもので。

 そんな困惑の内訳には、自ら均さなくても暫くしたら勝手に滅びて行きそうだ、という思いも含まれていた。




お読み頂き、有難うございます!٩( 'ω' )و

不定期ではありますが、頑張って続けていきたいと思っております!

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