35、閑話・深くて暗い微睡み
一人称ボク、名前と性別はまだない٩( 'ω' )و
短めです。
ボクは深い深い闇の中で、躰を丸めて眠る。
原始の頃はとても暖かくてふわふわした場所に居て、まだ目は視えていなかったけれど、瞼の裏側に淡い光の何かを沢山感じていた。
どうやらそれらは、ボクの周囲を取り囲む様にして、舞っていたようだ。
ボクを『受肉』させる為、所謂生物的な親という存在は、既にこの世には居ないと理解していた。
それでもボクは不思議と寂しさなんて微塵も感じなかった。
だって、ボクを優しく包む爽やかな土と草花の香りや、本物は見たことも感じたこともないけれど、心がぽかぽかするような温かな陽だまりのような何かに、優しく護られて微睡んでいたから。
そうしてゆっくり、暖かな何かを栄養として、ボクは永い間眠っていた。
気の遠くなる様な時間の流れの中で、数多の生命の移ろいを感じ、また幾多の営みや感情がそこにあるのを感じる。
まだ、目覚めてそれらの存在する外の世界に出る事は能わないけれど、全身に心地良く染み渡るように伝わってくる、ボクを育む栄養の一部として、それらの営みや感情もボクの内に蓄積されてゆく。
だけれども。
何時からだっただろう。
どれぐらいの時と歴史が経ったのか、途方もない時の流れをもう覚えていないけれど、透明な水に一雫の汚れが落ち薄く広がっていくように、ボクの周囲は『黒』に侵食されていった。
ボクは次第に息が出来なくなって、それでもそこから動ける程に成長出来ていなくて。そうして更に硬くなった殻に覆われ身を縮めたまま、徐々に減って行った栄養で、それでも何とか細々と存在を保ち続けた。
ボクの栄養となる何かは、次第に薄く希薄になって行き、そこに黒い不快な何かが比率を濃くしながら混じっていく。
それでも、それを摂取しなくてはもう生命を繋ぐ事は出来そうにない。
僅かずつ、じわりじわりと澱が蓄積されていくように、長い年月をかけ、ボク自身を蝕んでゆく黒い何か。
もしかしたら、ボクはこのまま君に出逢えないまま、朽ちていくのではないか。
ボクが世界に存在し始めてから途方もない時が流れ、初めて感じた魂の引力。
遥か上層に突如として顕れた、ボクにとって掛替えのない光の欠片。
胸を締め付けるような焦りと、甘やかな期待。
きっと君の為にボクは存在するんだ。
早く、早く目覚めなければいけないのに。
目覚めて君を迎えに行かなくてはならないのに。
ボクに絡み付き、侵食してくる黒い何かが、ボクと君を遠ざけている。
今まで感じた事のない、不快な気持ちまでが、ボクの心を蝕んでいく。
このままでは、君は違う誰かに奪われてしまうのではないか。
近頃、そんな考えに囚われる。
不意に頭の奥が痺れるように、鈍い痛みに全身を支配される。
途端に自分の鼓動が一際耳に大きく響く。
ボク自身の鼓動だというのに、不快な音に感じていた。
胸部がキシリと締め上げられたような気がするけれど。
ずくりずくりと自らの鼓動に併せて、ボクの躰から何かが滲み出すのを感じ取るけれど。
そんな事は、永劫とも感じる今の状態に膿んだボクには些事でしかなくて。
それよりも、何よりも。
ああ、早く君に逢いたい。
逢って、君に触れたい。
柔らかなその肉体をズタズタに引き裂いて、綺麗な血を啜って、暖かな内臓や肉を貪りたい。
激しくこの身を苛む飢えを癒してくれる存在。
愛しい、愛しい存在。
ボクが壊れてしまう前に。
誰かに君が壊されてしまう前に。
ボクが堕ちてしまう前に。
早くボクの耳に、君のその『声』を届けて。
少し前から、君を感じるんだ。
早く、ボクに会いに来て。
ボクの核に染み込んだ黒い花の種。
芽が出て蕾になり始めてる。
手足が痺れるように冷える。
呼吸をしている筈なのに、どんどんと息苦しくなってくる。
ボクの存在を肯定し、傍で護ってくれている誰かの気配も、もう余り感じ取れない。
‥‥‥‥そろそろ、時間切れかも知れない。
早く、愛しい、狂おしい程に愛しい君に、逢いたい。
やがて来るであろう邂逅を想像し、知らずボクは唇の端に仄暗い笑みを載せていた。
お読み頂き、有難うございます!
うーん、大まかなあらすじは作っている筈なのですが、誰も筆者の思う通りに動かない謎_(:3 」∠)_




