34、失伝
明けましておめでとうございます。
昨年中は多忙であったり眼の不調であったりで、思うように執筆が出来ない事が多々あり、読んで下さっている方にはご迷惑をおかけ致しました_:(´ཀ`」 ∠):
本年も、ゆるりとではございますが、頑張って執筆して行く所存です。
よろしくお願いします( ´ ▽ ` )
己の契約者の回答に、大きく深呼吸をするように一拍溜めてから態とらしくメルヴィンは溜息を吐いた。
『私が言いたいのは、守護狼という存在が、この地で何を護る役割を得ていたかという事よ。本当に何も伝承は無かったのかしら?』
「この地の何を守護するか‥‥‥というと、『龍の背骨』に関連すると考えるべき、という事で宜しいか」
若干の躊躇いを見せた返答に、メルヴィンはコクリと頷いて見せる。
『ここはね、龍の寝所の中でも古龍の力を濃く遺した土地なの。今は帝国となって、多種族を保有魔力が突出しているエルフ族が纏めている形を結果的に取っているけれど、本来はこの場所自体が地脈の要であり、守護狼と当時から力を持っていたこの地の妖精が託された場所なのよ。まぁ、今の状況を鑑みるに‥‥例に漏れず帝国内の他の種族も失伝しているのだけれど‥‥‥』
「‥‥失伝‥‥‥」
愕然としたランドルフの様子に、互いの種族や価値観、存在の違いを実感せざるを得ない。思い返してみれば、箱庭から既に潰えた種族も記憶の底を幾つか揺蕩っているのだから。
改めて、メルヴィンは自分の長年の無関心の齎らした結果に、僅かとは言え後悔を覚える。
『今現在、各国の伝承に残っている始祖以外は、もう恐らく忘れ去られているのでしょうね‥‥。本来、この龍の寝所はこの地の為の御子が産まれる筈だったわ。私の姉が、地中の奥深くでお守りするようになってもう二千年以上‥‥未だ、孵化なされていないの』
一度言葉を切り、再度対面しているソファーに座るランドルフを視界に収め、そっと溜息を吐く。
到底信じられそうにない衝撃的な話だろう。領主としても、そして守護狼の末裔としても。
何よりも、現在の帝国の頂点に戴いている存在に対して、属する種族の誰もが疑問を微塵も抱いていないこの現状こそが、メルヴィンの言う広い意味での『失伝』の確たる証拠でしかない。
古の緑の女王とも称されるこの大妖精に、偽りを語る意味などないのだから。
そこまで思い至り表情を強張らせたらしいランドルフの額に、気温や湿度に関係なくじわりと汗が滲む。
明ニ刻より早く、彼にこの後どの程度干渉を許すべきか、確認しなくてはならない。
メルヴィンはランドルフのこちらを見ているようでいて、その実思考に沈んでしまっていた視線を正面に捉える。
その視線に不可視の力を込め、ランドルフの意識を現に引き戻す。
『信じられないっていう表情ね』
「‥‥‥いえ‥‥」
『まぁ、ここまで失伝するに至ったのは、最後の守護狼が没した経緯が大きいのかも知れないわ。血筋が一定数拡がるよりも早い段階で、遥か格上の上位者と相容れず、呪いを遺して滅びる結果となってしまったから』
淡い憐憫の彩を深緑の瞳に浮かべたメルヴィンは、ごくりと喉を鳴らして息を呑んだランドルフを見つめる。呪いなどという最後の言葉は、メルヴィンですら銀の彩を持った親娘と黒髪の彼の存在がその事実を詳らかにした場に同席出来たからこそ、知り得た真実なのだが。
何処か頼りなさげな彩を、その若草色の切れ長の瞳に滲ませている契約者を、慈愛に満ちた微笑みでしばらく見守っていたメルヴィンの端正な面から、表情が消える。
それだけで、その場を満たす空気の質が肌をピリリと刺すように変質した。
『『龍の背骨』を、御子の座すこの地を擁するモルガン領の現当主にして、守護狼の末裔ランドルフよ。選べ、箱庭にて唯流され滅びるか、真理に触れ世界に呑まれながらも足掻くか』
常にない堅いメルヴィンの言葉遣いと突きつけられた二択に、知らずランドルフは膝の上の拳を整えられた爪が食い込む程に、きつく握り込む。
箱庭とは、真理とは、呑まれながらも足掻くとは。
ぐるぐると、己が把握している範疇の外にある超常の存在の思惑に、抵触しているのではないかと野生の感とでもいうのか、脳裏でがんがんと警鐘を鳴らしているのが分る。
先だって古の大妖精に聞いた、世界中の魔素の枯渇や魔獣発生の異変。それら全てが実は、途轍も無く大規模な滅びの序章を匂わせていたのではないだろうか。
ランドルフは無意識にぶるりと身を震わせる。
ここで何かしらの決定を為し、覚悟をするべきなのだろう。
「もしも、真理に触れる事が許されたとして。俺に、足掻く術は‥‥あるのだろうか?」
『‥‥そうね。少なくともランディが、守護狼と同じ轍を踏まないならば』
厳密には守護狼の過失ではないのだが、超常の上位者の力を見誤った点と呪いの芽を生み出した点、そして滅びたという点が再び繰り返されなければいいと、メルヴィンは思っての言葉だった。
しばしの沈黙の後、逡巡を滲ませた若草色の瞳を足元に落としていたランドルフだったが、何かしらの決意を抱いたのか、対峙するメルヴィンを真っ直ぐに視線で捉える。その視線を受け止めたメルヴィンは、何処となく満足そうな表情を浮かべていた。
* * * * *
メルヴィンを強制送還した後、レオナは現状のルークがまず空間魔法へ入れるか確認し、次いでアレンハワードとルーナエレンを連れて帰宅した。
レオナの確認出来た限りでは、現状のルークはルディの肉体と余分な魂複数と由来の異なる魔素を纏っている為、低階層までしかアレンハワードの空間魔法には許可されていない様子だった。ただ、親娘の魔力に強く影響を受けているルーク本来を内包している事により、屋敷の一階の広い居間までは排除されていないのが現状である。
一先ずルークを一階の広い居間のソファーで休ませ、親娘はアレンハワードの寝室に寝かせる。
勿論薄汚れてしまった旅装は、ベッドへ連れて行く前に魔術で締め付けの少ない部屋着へ、二人分同時に着替えさせてある。
魔力も生命力も大幅に削り、半ば昏睡したような状態のアレンハワードと、無意識ながらそんな父親にぴったりと寄り添った幼い少女を優しい青い眼差しで見下ろしながら、レオナは彼らの状態を念入りに確認する。
ルーナエレンに関しては、幼くまだまだ小さな身体にも関わらず、今日消費したよりも多くの魔力を保っている様が見て取れる。
恐らくこれは自分の介入をきっかけに、魂の繋がりが『彼女』に届き、一時的にルーナエレンの内に『彼女』の膨大な魔力が泉のように湧き、アレンハワードを癒し命を繋げる助力となっているのだろう。
やはり『彼女』の寵愛は、アレンハワードをまだ生かしていたいのだ。
だからこそ、何時潰えてもおかしくない彼の肉体と命を保つ、彼専用の魔力制御も出来る至宝を授けている。
静かな寝息すらも寄り添う親娘を、レオナは暫し寝台の傍で見守っていたが、ふと『覚え』のある力の残滓を嗅ぎ取った。
ニヤリと口角を上げ、漸く叶ったと思われる出逢いに想いを巡らせた。
「じゃあ、時間までオレは外で偵察してくるか」
既に空間魔法の外へと意識を向けたであろうレオナの青い澄んだ瞳には、嗜虐的な煌めきがあったのだが、誰の目にも留まる事は無い。
当事者でありながらのほほんとして来たこの地の強き上位精霊や大妖精へ、ちょっとだけ教育的指導をしてやるだけなのだ。
箱庭の営みに介入は出来ないが、半ば趣味のように地上で暮らす上位者達に対しては、理に反しない限り干渉として制限はかからない。
メルヴィンがアレなので、それに連なる上位者達も、随分とのんびりと我関せずを貫いて過ごしていたようだ。
魂に刻み込まれた調停者への恐怖、思い起こさせてやるとばかりに嗤う。
そうしてレオナはアレンハワードの私室から静かに出ると、居間のルークに一声かける。
「時間まで、一応アレンとエレンの気配はここからでいいから、気を付けておいてくれ。オレはちょっと、挨拶廻りしてくるわ」
『解ッタ。‥‥程々ニナ‥‥」
流石はアレンハワードとルーナエレンの影響を受けて生まれた上位精霊。
ルークはレオナの様子から、ここ龍の寝所にある歴史深い『彼等』を次々に襲うであろう無慈悲な黒い悪魔に、辛うじて掠れた思念を発した。
お読み頂き、有難うございます!
そろそろピータンになりそうになっている熟成キャラが、出番になりそうで。
脳内で少しずつウォーミングアップを始めております。
イケおじも大好物ですが、腹黒なちびっ子も好きだと最近気付きました_(:3 」∠)_




