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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
33/150

33、お仕置き(メルヴィンへの)

更新が遅くなってしまい、申し訳ありません(/ _ ; )

やっと書けたー!って喜んでも、サブタイトルでまた延長。。。_:(´ཀ`」 ∠):

 レオナの悪い笑顔を至近距離で見てしまったメルヴィンは、硬直したまま眼下でゆっくりと琥珀色の瞳を開いた少年を見守っていた。

 遠目で本来のルディを見た時と明らかに違う光を湛えた眼に、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。


「どうだ?馴染めそうか?」

『‥‥重イ。反発ガアッテ、色々分離シソウ』

「あー‥‥、魔力の相性の基本が土か森なのに、毛嫌いしてそうな風だからなぁ。自我や意識はどうなってる?」

『混乱ノ極ミ?』


 横たわったまま身動ぎもせず、瞬きもなく表情を動かす事もなく、更に唇を動かさず精霊としての話し方をする姿が、妙に怖い。そしてレオナと話している内容も、その光景にそぐわない事この上ない。

 大活躍を果たしたルーナエレンはすっかり疲れてしまっていて、レオナの腕の中で珍しい事に少し機嫌が悪くなっているようだ。


「明二刻半までにルークはその身体の無意識下に潜って、双方ともに馴らせ。こちらはアレンもエレンも、消耗し過ぎている。メルヴィン、もう一人の男はどうなってる。お前が責任を持つんだろ、起こすのか誤魔化すのか早く判断しろ」

『待って待って!!』

「待てるか。こんな曰く付きの場所にエレンの貴重な魔力でこんなのおっ立てやがって」

『うぐぅ!!』


 地脈への上質な魔力の供給は確かに宛にしていただけに、反論の余地はない。だがその上質な(ルーナエレンの)魔力は不運にも、曰くのある相手と縁が濃く反発と吸収と恨みを増し、怨嗟の溜まった大地から魔獣に堕ちた存在を喚び起こす結果になったのだ。

 このまま菩提樹がルーナエレンの魔力を源にして成長を続け、呪いを蓄積した大地を経由して彼の御子とやらにも悪影響を与えるであろう事は、想像に難くない。

 この地を守護する当事者である領主の子息が、戦力になる可能性があるのならば覚悟は必要なのだ。


「取り敢えずお前の契約者には、何が起こっているのか位、きちんと説明をしろ。御子とやらの話から、怨嗟の汚染も眷属の魔獣化の関わりも。話す資格も有さない程度の契約者なら、その小僧を諦めさせろ。オレの駒にしてやる」

『そ、そんな‥‥‥』

「‥‥おりる。とうさま」


 やや縋るようなメルヴィンの声に続いたのは、ルーナエレンの小さくも不機嫌な声音で。無表情で淡々と告げていたレオナの青い目に、ほんの少しだけ慌てた彩が浮かぶ。


「あ、そうだな。じゃ、明二刻に結論を聞きに行く」


 ルーナエレンを下ろし少し姿勢を低くしたついでに、レオナは幼い少年のシャツから魔道具のカフスをひょいと手に取り、一度きゅっと握るとそのままメルヴィンへと無造作に投げた。そのまま振り返らずルーナエレンと手を繋ぎ、少し先で樹木に上体を預け僅かに身を起こしているアレンハワードに向かって歩く。


「参考程度に昨夜の魔獣と怨嗟の陽炎の辺りから、今朝の流れも記憶を一部見られるだろ。見せる部分はお前が考えて、せいぜい上手く立ち回るんだな」


 これ以上告げる事はないとばかりにぱちんとレオナが指を鳴らすと、食い下がろうとしたメルヴィンは初老の男性と共に要塞砦内の、菩提樹の元に佇んでいた。


『‥‥‥ぇー、これ‥‥何てお仕置き??』





 * * * * *



 メルヴィンは遠い目になりつつ渡されたカフスを握り込むと、瞬時に脳裏に夕暮れの神秘的な若木の成長から一連の映像が、怒涛のように情報として流れ込んでくる。

 早朝から先程までの内容ももう現実だと思いたくない程の情報量なのに、昨夕の魔獣との戦闘も余りの常識外で、何から突っ込んでいいのか判らない。二度寝したい、等と本気で考えてしまう。


 切実に現実逃避したいメルヴィンの足元で、保護して来た初老の男性ことカーターが微かに身動ぎし、急ぎ足で現実が追いかけて来た。まだ、ランドルフにどこまで話していいものか、氷の魔王と銀の雫の姫の存在もぼかしながらと来れば、伝える映像のイメージは要編集である。


 溜息を吐きながら深緑の美女は、目覚めそうなカーターの眉間に嫋やかな白く細い指を触れさせ、編集後の試作品映像を夢現な状態なのを好都合とばかりに送り込んだ。


 神々しい菩提樹の若木が育つ様、その足元に顕れた黒い陽炎を纏った魔獣、魔の森に染み込んだ怨嗟。そして、陽炎に纏わり付かれた横たわるルディ。

 どれも一応、本当にあった現実。


 思惑通りの映像を見たのだろう、カーターは魘され苦悶の表情のまま、はっと目を覚ました。


『具合はどうかしら?起きられる?』


 内心穏やかではないメルヴィンだが、少し突き放したような語り掛けになったお陰で、期せずして対面してしまったカーターは混乱しながらも必死に身を起こし跪くと冷静を装う。


「はっ!?恐れ多くも古の緑の女王よ。お見苦しい姿をご容赦下さいませ」

『許すわ。それから貴方は時が来るまで、黙するよう我メルヴィンの名において命じます』

「‥‥‥かしこまりました」

『至急ランドルフと話さねばなりません。下がってここで私が呼んでいると伝えて来て下さる?』

「御意に」


 最後に見せたルディの件が気に掛かっているのだろう、カーターは簡潔に応えたものの声音も表情もとても硬い。

 彼は内心の動揺を熟練の仮面の下に極力隠し、静かにメルヴィンの前を辞した。


 そしてメルヴィンがこの後の説明の流れを考えあぐねている僅かな間に、回廊から護衛を二人程従えたランドルフが近付いてくる。


 気紛れにメルヴィンがランドルフの元に顕現し、また勝手に帰って行くのが常なのに、本体の目前で顕現して呼び出して来る等初めてであるが故に、常になく大股で急ぎ歩み寄ってくる。

 心なしか、表情も硬くなっていた。


『良く来たわねランディ、朝早くに悪いんだけど大事な話があるの。こっちにいらっしゃい』

「分かった、其方達はここで待機せよ」


 護衛は心得た様子で主人と大妖精の会話に割り込まず、右手を左胸に当て僅かに礼をすると数歩下がり、周囲を確認出来る様な位置で更に背筋を伸ばす。

 そしてランドルフは無言でメルヴィンの後に続き、巨大な菩提樹の幹に消えていった。


 薄い油膜を潜り抜けたかの様な感覚に襲われ数歩進むと、そこには樹木の内部とは思えない広大なサンルームに、眩いばかりの陽光が差しており、明るく淡い色合いの大きな一人掛けソファーが二つと、ゆったりとした長椅子がある。


 もう三十年来の契約となるが、どうやらここはメルヴィンのプライベートな場所なのか、初めて立ち入る空間だ。

 同時にこの帝国でトップクラスの古の大妖精の私的空間に通された意味と理由を想像し、硬い動きで勧められた長椅子に、メルヴィンがソファーに身を沈めるのを待ってから浅く腰掛けた。


 ランドルフの若草色の眼と深緑のメルヴィンの眼が一度、正面から合ってからメルヴィンは話し始める。


『ランディ、貴方達がこの地の守護する狼の聖獣の末裔だという事は、伝わっているわよね。それはこの地の何を、どんな存在から守護する使命を担っていたか。それは正しく、伝わっているかしら?』


 メルヴィンにしてみれば、数千年前に双子の姉から地上を任された際に事情を知っていたし、あれからそんなに歴史が全て途絶える程の審判は無かった筈なので、だからこそ地上で生きる種族がそれらを失伝しているだなんて想像も出来ない。

 元より精霊や妖精は気紛れ、関心のない相手の世話を態々焼く事もないし寿命や能力も段違いに地上の生き物とは違う。


 本来であればそんな互いの事情故に見過ごしていても仕方ないのだが、メルヴィンはこの地の守護狼と同様に御子を護る役割を頂いた、古の大妖精の片割れなのだ。であれば、その守護するべき対象と関わる事象には、精霊や妖精の気質をそのままに振る舞うべきでは無かったのだ。


 つくづく、自分には自覚が足りなかったのだと、今になって思う。

 どこか自嘲の笑みを浮かべた口元に、ランドルフは気付かず困惑気味に口を開く。


「それは、国境を護る辺境伯ですので。常に外部からの侵略や干渉から、帝国を護るのが使命と心得ております」


 至極真面目な顔でそう言い切るランドルフを見て、メルヴィンは己の心得違いを改めて恥ずかしく思い、薄紅色の形の良い唇を引き結んだ。

 ここからどのように真実を伝え、正しい自覚と方向性をモルガン家に導けるか。それに頭を悩ませながら、やはりこれはかつてのやる気のない自分への『お仕置き』に違いないと、頭を抱えたくなった。


 勿論、自分の今までの行いが全ての元凶ではあるのだが、どこか彼の青い瞳の尊大な存在からのお仕置きにしか思えない今この時。

 着地点をどうしようかと、柄にもなく取り繕った表情の裏で、大いに悩んでいたのだった。





お読み頂き、有難うございます!


あれ?モルガン家への謀略が届かなかった_(:3 」∠)_

次こそは!!


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