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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
31/150

31、紙一重の干渉

更新が遅くなり、申し訳ありません(/ _ ; )


サブタイトルをつけるのが、苦手過ぎますです_(:3 」∠)_ ポテ

朝晩めっきり冷えるようになりましたね。

皆様も、お風邪など召されませんように。


 ぽとりと落ちた小さな光に僅かに気を取られた間に、氷塊に消えて行った黒い陽炎を追い切れず、アレンハワードは息を呑む。間に合わないと確信はあったものの、迷っている余裕は恐らくない筈だ。

 身を低くして一気に飛び出す。


 氷の剣を振り抜くのと、氷塊が砕けて二頭の黒い魔獣が砕けた前脚そのままに、鋭い牙が相対する存在(アレンハワード)を噛み砕かんとばかりに覆い被さって来る。

 だが、二頭の巨体を同時に払えるような斬撃には足りない。

 万全とはいえない己の動きに歯噛みするも、左の魔獣の(あぎと)は何かに弾かれ反動で後ろへと僅かに跳びず去り、首に縋り付いて身を硬くしているルーナエレンの負担を感じた。


 既に魂も魔力も持たない筈の黒い魔獣に対して打てる手立ては、もう火属性の魔術で炭化して動けなくするしか方法が考え付かない。すぐ様高く跳び上がると、粉雪を纏った氷の剣は、緋色に揺らめく炎に姿を変える。


「レオナッ!」


 背後に控えているであろう存在に短く呼びかけ、切り結んでいた一頭の脳天に落下するまま緋色の剣を突き立て、更に魔力を篭めて白い炎を叩き込む。

 一瞬で膨張する頭部を足場にして残る一頭へと跳び上がり、空中で身を捻るように後転し躊躇いなくその着地点を切り裂こうと牙を剥いた赤く濡れた口に、緋色の剣を振り落とす。

 自然落下に身を任せたアレンハワードの身体に衝撃が走り、蔦の蔓が後方から伸び絡み付く。瞬時に絡め取られて後方へと引っ張られ、同時に口内に鉄の匂いが充満していくのを感じながら、アレンハワードは頼れる相棒の仕事を疑う事なく身体の力を一気に抜いた。





 * * * * *



 レオナは限界を超えているにも関わらず、目の前で凝った風への怨嗟の具現と切り結ぶアレンハワードを見守っていた。

 すでに彼は保持している魔力を使い果たしていたが、ルーナエレンの力で何とか平時の半分程度の動きを保っている。それでもやはり生来の半分の気質が風であり、対峙している魔獣に対してそれは悪循環と言えるものだった。風の魔力をそのまま吸収されながら、愛娘から補われる銀色の光で同時に浄化を齎し、互いの命をじりじりと削り合う状況なのが嫌でも己の眼は理解出来るのだ。


 時間を掛ければ掛ける程不利になる戦いに、アレンハワードは浄化よりも動きを止める判断を下したらしい。

 彼の利き手に握られた氷の剣が、緋色のそれになると同時に己に声が届く。


「レオナッ!」


 成すべき事が、彼の意図する事が自然と理解出来る。

 瞬時に闇の力と空間を区切る意思を顕現させ、動いていた黒い魔獣二頭を個別にすっぽり包む。


 密閉された超常の熱量は膨張と爆発の後、閉じ込められて収縮し黒く拳大の石のようになって地に落ちる。

 緋色から白へと色を変えながら、もう一頭の魔獣の口内に落とされた剣を確認すると、自分より更に後ろから蔦が勢い良くアレンハワードへと伸び、瞬時に親娘の身柄を保護したドライアドの行動に、極ほんの少し評価を上げる。


 黒い石と化した二頭分の残滓を回収しに向かう前に、レオナは数歩先に落ちていた親指程の大きさの弱々しく光る結晶をまず、拾い上げた。

 背後から、メルヴィンの切羽詰まったような甲高い声が響いてくる。

 レオナは急いで残りを回収し、踵を返した。


「替われ!!」

『!!!』


 足早に戻って来た黒髪の少女は、力なく仰向けに倒れながらも愛娘を抱いたまま動かない青銀の髪の青年と、その腕の中で同じく反応のない幼い少女の傍に膝をつく。

 魔力の枯渇で生命力を擦り減らし、父親のそれを補うべく幼い少女の魔力も尽きかけている。見ている側から薄桃色の柔らかそうな頬から、どんどんと血の気が失せていっているのが分かる。


 自分にとって失う事など許されない筈の存在なのに、目の前の二人の姿に喉の奥が引き連れるように感じてしまう。見るからに失われていく『人間』の生命力と、その脆さをまざまざと見せつけられ、自らの鼓動が嫌に耳につく。


 心の中でそんな自分に舌打ちをしながら、レオナは躊躇いを捨てて本来の姿に限りなく近い状態に身体を変質させ、ルーナエレンの背に手を着いた。掌に感じるのは、かつての『彼女』に近い命の波動。それに合わせるように、幼い少女へと自身の魔素(いのち)を細い糸を撚り合わせるように馴染むように、ゆっくりと注いでいく。


 掌をその背に触れたのはほんの僅かな時間だったが、きっかけはそれだけで良かったようだ。

 『彼女』の素質や祝福を持って産まれた少女は、その身の内で受け取った魔素をどんどんと膨らませ、自分を経由した純度の高い生命力とも言える力を、全身を使ってアレンハワードへと注いでいった。

 この様子であれば、アレンハワードが動ける程度に回復するのも、時間の問題だろう。


 親娘の様子を立ち上がって少し見守り、静かになったもう一人の存在へ視線を向ける。

 メルヴィンは深緑の瞳を零れ落ちそうな程に見開き、瞬きも出来ないままレオナだったはずの存在に魅入って固まっている。ゴクリと息を呑み、硬直から回復するにつれ頬を染めていく様に若干の寒気を覚えたのは、仕方が無いだろう。


 無言で右腕を優雅に持ち上げ、長い人差し指と中指であくまでも優美な仕草で、ドライアドにぷつりと目潰しをした。


『目があぁぁぁぁ!!!!!!』


 半実体状態で両手で目を覆いながら転げ回る変態を放置し、静かにそっと自らを封じてみる。

 予想よりも能力が落ちていなかったのは、やはり『彼女』の意思なのか。


 そんな事を考えながら、拾った小さい結晶を取り出し、掌に乗せた。


「エレン、これ」


 黒髪の少女が再びすぐ横に膝をついて、そっとルーナエレンの前に掌を差し出して見せる。


「エレンならまだ助けられる。名前をつけてやって」


 アレンハワードの風の魔力から生まれた上位の雷精であれば、血縁の、しかも今は『レオナルド』の魔素を僅かでも含んだ少女との絆は、充分な命の補完になり得る。

 どこかぼんやりとした表情のルーナエレンは、レオナの掌の上にある小さな結晶に華奢な左手をそっと乗せると、コクリと頷き呟いた。


「ルーク‥‥ルークってよぶね」


 ルーナエレンの桜色の唇から優しくそう名付けを告げられると、重ね合わせた掌の隙間から優しい光が周囲にも溢れ、掌に感じていた結晶がふわりと雪解けのように消えていく。

 やがて視界を覆った光が収まると、薄紫の髪を持ち花緑青色(エメラルドグリーン)の瞳を喜色を湛えた、少年と青年の間と言える年齢に見える存在が虚空に跪いていた。


『やだすんごい美少年‥‥』


 いつしか転がっていた変態(メルヴィン)が復活し、名付けを受け生まれ変わった雷精の姿に思わず残念過ぎる呟きを零しているが、その間にも愛娘による癒しを受けていたアレンハワードがぴくりと動いたので、敢えての完全無視に処される事となった。


 ゆるゆると持ち上がったアレンハワードの腕が、ゆっくりと静かにルーナエレンの背中を摩る。

 そして自身の肩に顔を埋め、長く長く息を吐く愛娘の零れ落ちた柔らかい髪をそっと梳る。


 レオナとルークに見守られながら、青銀の長い睫毛が揺れゆっくりとその目蓋が開き、アイスブルーの瞳には疲れの色は濃いものの、しっかりとした生気が宿っている。

 抱き締めていた腕を優しく解くと、そのままルーナエレンの頭に優しく口付けた。


「寝坊してしまったかな」

「‥‥ううん‥‥」


 もう一度よしよしと頭を優しく撫でてから、緩慢な動きながらもアレンハワードは髪を結えていた魔道具の組紐を解き、次いでルーナエレンの手首に結んでいた物も解いて解除する。

 まだ力の入らない身体を無理に動かし、レオナに補助をされながら上体を何とか起こした。


 そして、メルヴィンにアイスブルーの目を向けると、僅かばかり穏やかな声音で礼を述べる。


「メルヴィン、離脱が間に合ったのは君のお陰だ」

『魔王様の流し目‥‥麗しぃ‥‥』

「心ばかりの礼として、君の後ろの少年を助ける手助けをしよう」

『ええぇ!?』


 華麗にスルーされた部分も忘れ、意識外にあった自領の民の状態を思い出したメルヴィンは、声を裏返しながら驚きに身を震わせた。既に命の尾が途切れる寸前となっていたルディは、大地を経由して微量の土の魔素を与えていても回復が間に合っていないのだ。


「ただ、漠然とした対処方法が見えただけなので、万が一という事もある。君はこの少年の命を繋ぎ止めたいと思うか?結果として、彼がもう以前の彼と同一とは言えなくても」


 そう静かに告げるアレンハワード自身も、まだ回復していないが故にその顔色は青白く、声音も少しの逡巡を含んでいた。


お読み頂き、有難うございます!!


私生活の都合により、一時的に更新を日曜日に変えようかと考えております。

変わらずの週一回の投稿ではございますが、焦らずまったり書いていけたらと思っております٩( 'ω' )و


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