29、起点の風
書き始めてから一年が経ちました( ´ ▽ ` )
気合を入れて書いていたら、キーボードがお亡くなりに(泣
更新が一日遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした!_:(´ཀ`」 ∠):
ボソリとレオナに溢された指摘に、頭が痛いとばかりに少しこめかみを軽く揉み解しながら、アレンハワードはもう一つ無視出来なさそうな案件からそっと目を逸らす。
「‥‥幼い雷精よ、一つ尋ねたいんだけどいいかな?」
その声音は若干低くなってはいたが、初対面と思しき呼び掛けられた雷精は喜色を浮かべると、こくこくと頷いた。
「君は、誰を連れて来たのかな?」
『エ??知ラナイ』
そうだよねとばかりに溜息を吐く。
連れて来たのか勝手について来たのかは分からないが、妖精にしろ精霊にしろ基本的に人間や繋がりの無い対象や事象には興味が無い。興味が無いものを記憶したり、助けたりはしない。
そして、横たわった幼い少年も初老の男性も、雷精の意識に留められている様子は無い。
今までこのモルガン領に立ち入ってから出会った誰かに、似通った魔力を持っていた人物が居たのは覚えている。どこで会った誰に似ているのかと少し考えを巡らせて、アレンハワードの気分は段々と沈み始める。
昼食会の後の会談中にレオナに軽く撫でられた、赤銅色の髪をした本来の使者の役割を名乗る筈だった騎士を思い出す。
成る程。高位官僚よりも上位らしきあの騎士の顔はそこまではっきり覚えている訳ではないが、何処となく地面に横たわっている幼い少年と、色こそ似通っていないものの面差しが似ている部分があるように思える。
「ちょっと溜飲が下がった。お前よくやったな」
『褒メラレタ!』
「いや、レオナ分かるけれども。そうじゃなくて」
メルヴィンに対して不快感を持っていたのは確かなので一応同意を示しつつも、今の論点はそこじゃないとばかりに話題を戻そうとしたアレンハワードの的確なツッコミに、レオナは「ふむ」と言葉を切り、再び足元に転がる変態に視線を落とした。
『俺ノ出番?』
「いや、またエレンが怯えるような騒音は要らないかな。レオナ、鼻でも摘んで起こして」
どうせ生理現象なんて関係ない大妖精に、そんな行為が苦痛に繋がらない事は分かり切っているのだし、精々彼女?の美的感覚として自分の鼻を摘ままれる行為自体、苦痛に繋がる程度に違いない。
目を覚ませるきっかけになれば、何でも良い。
「え、触るの?こいつの顔面に?」
「いや、それも分かるけれども。この場所に、不用意に私たち親娘の魔力を与えない方が良さそうだから」
だからお願いと言われれば、ルーナエレンに怖い思いをさせたくない保護者其の二として、否やは無い。
余りゴネていても、ルーナエレンが怖がっている間にこんなくだらない作業を終えねば、お手伝いをしたいお年頃な幼女が前に出て、転がっている変態を喜ばせてしまうのも癪に触るのだ。
出来うる限りギリギリの距離を取って転がるメルヴィンの傍にしゃがみ込んだレオナは、物凄く嫌そうに高く鼻筋の通った造形のそれをギュッと摘みながら、こっそり意識を覚醒させるように微弱な電流を流し込んだ。
『ほぐわぁ!!!』
再びメルヴィンの口から漏れ出た、変な声が意識の覚醒を報せる。無駄に疲れたアレンハワードの声が、何の前置きも無く頭上から降ってくる。
「尋ねたいんだけど、君の分体の根元付近で気を失っているのは何者なのかな?」
目覚めた途端、視界の端に三白眼になってしまっているレオナが居て、耳に届いたのは不機嫌極まりない氷の魔王の様なやや低めの美声。
メルヴィンは無意識に飛び上がるように身を起こし、その場にビシッと正座する。
『はい!当領地の領主子息と、その家臣かと思われます!』
「ああ、君が余計な事言ってくれた所為で、エレンをあわよくば娶せようとかのアレ?」
『止めましたぁあぁ!!そんな思い上った高望みはきっぱりばっさり捨てさせましたぁあぁ!!』
「そう」
無意識の魔力の威圧が冷気となって、目の前で背筋を伸ばして正座待機しているメルヴィンの足元を、薄く静かに凍らせていく。
低温にならないように配慮しているのは、アレンハワードの脚の後ろに隠れている愛娘だけなので、自然と威圧で広がった冷気は徐々に、菩提樹の若木近くの来訪者二人の元にも届いてしまう。
「とうさま、ねてるひと、かぜひいちゃうよ?」
「ああ、そうだね。一先ず焚き火の近くに移動させようか」
魔王から一変して優しく慈愛に満ちた声音で答えながら愛娘に微笑むと、ひょいっと掬い上げるように腕に抱き、メルヴィンの横を素通りしてレオナにそっと愛娘の華奢な身体を受け渡した。
先程の威圧で張られた薄氷をパリパリと踏み締め、まずは横たわる幼い少年の元へ歩を進める。
片膝を付き、胸が上下するのを自分の目で確認してから、そっとまだ細い首元に手を触れる。同時に気付代わりに僅かばかりの魔力を流した、その瞬間。
「!!」
「アレン!!手を離せ!!!」
息を飲む程の勢いで、魔力が引き摺り出される感覚に眩暈を覚えた。
意識を持って行かれ、体勢を崩す寸前で叫ぶ少女の粗暴な声が耳に届くと共に、浮遊感に見舞われる。
ほんの少し前に発した、メルヴィンを起こす際の自分の発言を思い出しながら、ひたすらに愛娘の身を案じ、アレンハワードの意識は宵闇のような昏さに呑まれて行った。
* * * * *
腕に抱く、預かったルーナエレンの華奢で小さな身体がびくりと震えたかと思うと、何かに息を呑む気配がした。
レオナは瞬時に叫び、駆け出した。
「アレン!!手を離せ!!!」
片膝を付いたアレンハワードの影が、不意に禍々しさを滲ませたかと思うと、幼い少年に触れる寸前に黒い陽炎が立ち昇ったのが視える。
この場所は、風の呪いの記憶が色濃いが故に、彼の末裔の魔力は吸わせない方が良いと、先刻彼自身が言葉にしていたと言うのに。メルヴィンがその少年の素性を、この地の守護狼と縁ある領主子息だと告げていたのに。
駆け出したレオナの腕には、しがみついたままのルーナエレンが居る。彼女の身の安全を確保してから向かうべきと考え、そのまま脚に力を込めた。一刻も早く、呪いに侵食されていくアレンハワードの対処が必要であり、その呪いを無意識レベルで対応出来るルーナエレンは、父親の元に在るべきである。そして、いざとなれば理に触れるギリギリまで力を引き出せば、この世で最も安全な場所は自分の元なのだ。
空いている腕を伸ばして崩れ落ちるアレンハワードの襟元を掴み、そのまま勢い良く後ろに飛び退く。見ず知らずの少年よりも、レオナにとってこの親娘は比べられない存在だ。
そのまま距離を取ってメルヴィンの元に一気に戻る。そっとアレンハワードを焚き火の近くに下ろすと、すぐ様ルーナエレンもするりと腕から降り立ち、涙を必死に堪えながらもアレンハワードに纏わり付いた呪いを祓い始める。
まだ、やれる事とやるべき事が出来ている。任せられると判断し、レオナの視線は再び幼い少年の元に向けられた。
そうしている間にも距離を取った少年の身体は、地の底から這いずるように湧き上がる、黒い陽炎に幾重にも纏わりつかれて行き、薄くても幾重にも包まれ、にまるで大きな繭のように黒い陽炎にすっかり覆われてしまった。
『折角来タノニ、コレジャ姫二ゴ挨拶モママナラナイゼ!』
僅かの苛立ちを含んだ雷精の声が響くが、今動ける三者共にこの地上で力を奮うには諸々の理に触れる制約を持つ者ばかり。本分としてはこの視界に映る状況で、護るべき対象はアレンハワードとルーナエレンのみである。
事情が異なるとすれば、メルヴィンのみ。
「とうさま!!」
本来であれば幼く高い澄んだ声は愛らしい呼びかけだったろうに、泣くのを我慢したその声は震えが見える。
それでも必死に呼びかけ、自分へと父の意識を繋ぎ止めようとする力が籠もっていた。
「レ‥‥オナ、エレンが、泣きそう‥‥」
「このバカが!!じゃあ早く起きろ!!」
「ああ、エレン‥‥有難う」
弱々しいながらもお礼を告げるアレンハワードの声に、紫水晶の大きな瞳からぶわりと涙が溢れ出す。そのまま父親の胸に縋り付き、小さな肩を揺らして泣き出してしまう。
それでも、少しでもアレンハワードの身に増した呪いと弱った父親の状態を癒したいと、無意識に淡い銀色の光を小さな身体全体から発し、想いの強さ故かアレンハワードの身体をその光で包み込んでいた。
お読み頂き、有難うございました!
本当に思ったようにお話が進まず、当初想定していたドライアドが分裂してしまったり、オネェでボケ担当になってしまったりと、暴走しております。
これ、双子のお姉ちゃんどーすんだとか、ちょっと今から迷走しそうな予感満々です。
一年を超えても、これからも引き続きゆっくりな更新ではございますが、ゆる〜く頑張ります٩( ᐛ )و
お付き合い頂けると、幸いです♪
次回は、お笑い要素よりシリアス気味な予感です。




