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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
28/150

28、魔の森での邂逅

 明一刻の鐘から半刻も経っていない、朝の空気の湿り気が落ち着いた、魔の森の少し開けた場所。


 氷塊に閉じ込められた魔獣の骸を目の前にした幼い愛娘の、ちょっと難しそうな表情を屈み込んだまま少し上からアレンハワードは見遣ってから、少し不機嫌そうにそっぽを向いているレオナに敢えて軽く声をかけた。


「さて、ドライアドはどうするつもりなのやら。余分な仕事も増えてたし‥‥なるべく早く、説明なり対応なりして欲しいところなんだけどな」


 指定した場所に指定した『種』を植えたというのに、(まさ)しく余分な働きをさせられ、更に呪いまで蓄えが増えてしまったのだ。アレンハワードの口調がほんの少し刺を含んだ物言いになるのも、致し方ない。

 しかも、勝手に極上(ルーナエレン)の魔力を己に利用した所業もある。

 激しく同意を示すように菩提樹の若木を睨みつけ、レオナも形の良い唇の端を歪めるように引き上げ、幾分低い声で嗤った。


「もう充分繋がってるから引き摺り出す」

「へぇ、やっぱり繋げてあるんだ。全く以って度し難いね。もう一回コレを隠そうかとも思ったけど面倒だし‥‥このまま待っているよレオナ」


 親娘の背後に控えるように立っていたレオナはコクリと頷くと、アレンハワードの言外の特急便依頼を了承する。彼が深く慈しんでいる愛娘の視界に、外傷がほぼ視界に映る範囲には無いとはいえ、複数の魔獣の巨大な骸を晒しておきたいと考える筈がない。勿論レオナとて激しく同意だ。

 メルヴィンをとっとと連れて来て、始末の目処がつき次第消し去りたいに違いない。

 当のルーナエレンは分厚い氷塊に圧し抱かれているからだろう、魔獣の骸を特に恐れている雰囲気は見られないにしても、だ。


「移動するまでもない、すぐ終わる」


 それだけ言い残して黒髪の少女はスタスタと菩提樹の若木まで真っ直ぐに歩み寄り、「昼食会」でアレンハワードから貰った肉球グローブを右手に纏う。


「‥‥ふっ!」

『っんっっギャァあ“ぁ“あ!!!』


 短く、息を小さく吐いて、肉球グローブを填めた右手で菩提樹の若木の幹に、正拳突きを捻り込むように撃ち込んだ。と、同時に耳を(つんざ)くようなうら若き乙女?の悲鳴にしては、些か残念なモノが朝の魔の森の木々の間にこだまする。


 一瞬、肉球グローブの製作者でもあるアレンハワードは勿論、ルーナエレンも何が起こったのか理解が追い付かず、思わず無言のまま眼を大きく開き、暫くぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 威力を抑える為、物理にも働きかける魔力を遮るような仕掛けを、その肉球グローブに施した覚えはある。現に菩提樹の若木に、物理的なダメージはほぼ見当たらない。

 でも、何というか、出鱈目な使い方だ。


 レオナに正しく引き摺り出され、菩提樹の根本で転がっている変態(メルヴィン)は、今は完全に目を回してしまっている。その様子から察するに、抑え込まれた魔力を幹にぶつける物理の力は極小にしながら、直前でドライアドの領域空間にのみ響かせるよう、魔力操作を拳に乗せて施したのかも知れない。

 研究者の視線でつい状況の分析という現実逃避してしまう位、有り得ない出鱈目さだ。

 地味に役立たず扱いに、傷付いていたのだろうかと、そこまで考えるに至ってしまう。


 ある意味、衝撃的な光景故に何をどう言葉にして良いのか分からずに声を出せない親娘を、さして気にするでもないレオナは、無造作に肉球グローブを填めたまま転がって伸びているメルヴィンの頭をがしりと掴み、重さを感じさせない足取りでずるずると引き摺りながら戻って来た。


「‥‥連行完了」

「あ、うん‥‥有難うレオナ」


 特急便任務完了とばかりに胸を張る少女に、思わず引き攣りそうになりながら何とか笑みを返したものの、若干引き過ぎて怯えを見せる愛娘が、足の後ろにくっついて隠れようとする様子に気付くのが遅れてしまう。

 そう言えば、メルヴィンはルーナエレンの目の前で絵本の罠に囚われたりと、幾つか既にやらかしている。その所為か、本人(メルヴィン)が思っているよりもルーナエレンの中で、かなり残念な好感度のようだ。


 取り敢えず、眼前に白目を剥いた緑のオネエさんが頭部を掴まれダラリと力なく下げられている状態は、絶対に教育上ヨロシクない。こんなモノでトラウマなど、愛娘に与えたくはないのだから。


 だが、レオナにも怯え気味のルーナエレンが、視界に入ったのだろう。


「起きろ」

『っむっぎょあ“ぁ“あ“あ“ぁ“?!』


 ミシミシと何かが軋む音の直後、再びメルヴィンの口から得も云われぬ悲鳴とも絶叫とも取れぬ声が挙がり、白目を剥いていた深緑色の瞳が焦点を結ぶ。


『はっ?!一体何が?!姫が泣いてる?!』


 二度目の絶叫の(くだり)は、ルーナエレンのような正真正銘の箱入り幼女には耐えられない、恐怖の衝撃映像に違いない。

 大きな紫水晶の瞳を潤ませて、ルーナエレンは父の足に抱き付き小さな肩を震わせていた。


「魔獣の骸も怖がらないエレンが、泣く程怯えるだなんて‥‥‥」

「許すまじ」

『いだだだだだ!!!』


 間髪入れずのレオナによる頭部圧迫を受け悲鳴を挙げるが、降ってくる視線はいずれも冷ややかなものばかりで、寧ろ避難の色が濃い。


 泣く寸前の愛娘を腕に抱きあやすように、アレンハワードはルーナエレンの小さな背中を摩ってやる。


「取り敢えず‥‥‥私に内緒でエレンの魔力を、自身の分体に使った所業と、余分な仕事を私にさせた所業の申し開きは後でじっくり聴かせてもらうとして。目の前のコレに、何か所見があれば聞かせてくれないか」


 アレンハワードの冷え冷えとした声音と絶対零度のアイスブルーの瞳がひたりとメルヴィンを見据え、大妖精はある筈の無い生理現象であるにも関わらず、全身の肌という肌が泡立つような錯覚を覚えた。


『え‥‥?何で、しょう?』


 肉球グローブの拘束からは未だ解かれていないが、ギギギと音がしそうなぎこちない動きで「目の前のコレ」と称された何かを確認すべく、顔を巡らせる。

 そして視界に巨大な氷塊を収め、次いでその氷塊の内部に囚われている何かを認識した。


『これは‥‥?!まさか守護狼?でも、魔獣化してるなんて‥‥』

「守護狼?確か、ここの始祖に関わりがある存在、だったかな?」

『ええ、菩提樹の根元には姉と本来の始祖となるべく産まれる筈だった御子が、地中深く眠っているわ。その地を守護すべく遣わされたのが、守護狼と呼ばれた聖獣であり、ここの領主一族と深い縁がある存在なの』


 メルヴィンの説明に、アレンハワードは僅かに首を傾げ、一瞬の考察に耽る。

 この地を守護すべき存在が、御子の座所の代名詞ともいえる菩提樹の分体を作った場所から這い出し、清浄で極上の魔力を厭うように襲って来たのだ。


 魂のない状態で怨嗟の呪いに塗れ、魔獣となって豊富な魔力に牙を剥く。


 曲がりなりにもこの地を守護する聖獣が、魔獣に堕ちてその悲しき習性に乗ってしまうような、正確なこの土地の歴史や背景は調べていないが、遠い過去に不幸の連鎖があったのだろう。

 しかも、自分の扱う風に呪いは反応が顕著だった事実が、誰による怨嗟か想像に難くない。


 それであれば、その怨嗟の対象にこの地上で最も近しい存在の自分とその愛娘を目の前にしたが故と考えても、合点がいくというものだ。


 深く、深く溜息を吐く。


「アイツ、ほんとここも何やらかしやがったんだか」

「レオナ、汚い言葉あまりエレンに聞かせたくない」


 思わず呟いた悪態に、冷ややかな低い声で端的に告げられたアレンハワードの言葉に、わざと可愛らしく両手で口元を覆うと、レオナは再びわざとらしく咳払いをする。

 それと同時に肉球グローブと拘束を解除してもらったメルヴィンは、ヨロヨロと立ち上がると悲しげな目を氷塊に向けた。


『この三頭は兄弟だったの。群の、最後の生き残り。風を追い払って、結局ここで果てたのだったかしら』


 遠い目をしてそう語るメルヴィンの言葉に、アレンハワードとレオナは心の中でやっぱりかと呟くが、勿論声になど出さない。

 再び深くなった溜息に、ルーナエレンが不安げな色を滲ませた瞳で見つめてくる。


「大丈夫だよエレン。ああ、さっき私達に教えてくれた話を、緑のオネエさんにもしてあげてくれるかな?」


 そうアレンハワードに優しく言われ、ルーナエレンは恐々ながらもメルヴィンに視線を向ける。


「ええとね、からっぽなの。でも、こわいくろいのがいっぱいいっぱいでてくるの」

「空っぽとエレンが表現しているのは、恐らく魂とか命とかの事みたいだ。黒いのは、怨嗟‥‥」

『ああ、何て事‥‥』


 しなりと身体をわずかに傾げさせ、メルヴィンが思わず空を仰いだ途端、耳を劈く雷鳴がその場に轟く。


『おゴォ!アババババ』


 有り得ない声を出したかと思うと、いきなりバターンと勢いよく倒れ伏した黒焦げた変態の醜態を咄嗟にびくりと震わせた愛娘の目を覆い、隠す事に成功したアレンハワードに、レオナは無意識に称賛の拍手を贈る。

 そして、菩提樹の若木の傍には若干衣服が燻っているものの、上質な生地で誂えられたシャツとベスト、膝丈のズボンにブーツ姿の幼児と、上級の貴族に仕えているような雰囲気の、初老の側仕えらしき男性が横たわっていた。


 恐らくだが、この帝国で自然発生ではない風に纏わる現象を起こせるのは、アレンハワードや風の上級精霊や風に纏わるこれも上位の妖精のみだろう。

 要塞砦に入ってすぐに確認したが、どちらもこの領地には存在していなかったと記憶している。

 そこまで考えを巡らせていると、レオナが冷えた声で話しかけて来る。


「要塞砦の菩提樹で、二回ほど雷鳴らしてなかったっけ」

「え‥‥」


 一瞬キョトンとしてしまったアレンハワードの目の前に、胸を張って鼻息荒く存在を主張するような、幼い雷精が居た。


お読み頂き、有難うございます!


今回は思ってたよりもメルヴィンさんが光る回になってしまいました。

おっかしいなぁ。。。


そして、更新日に一定数の方が閲覧して下さっていて、とっても励みになっております。

本当に有難うございますm(_ _)m

何とか書き続ける原動力となってます!!!


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