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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
27/150

27、精霊の気紛れ

 初老の側仕えが朝食の食器を下げに一度部屋を辞したのを確認したルディは、逸る気持ちに頬を上気させながら、出来得る限り静かに客室を抜け出した。

 領都とは空気の濃さが全然違う事に改めて驚いたり、肌を撫でる風の湿度や気配も一々新鮮に思える。何よりも、早朝独自の澄んだ空気も、緑の草花の濃い気配が相まって特別感が胸を満たす。

 国境に程近い深い森の奥に位置するのだから、領都が幾ら自然と融合しながら発展したと言えども当然なのだが、それすらも酷くルディの冒険心を擽って止まない。


 生活棟を一階までこそこそと降りると、微笑ましい一人隠れんぼを見て見ぬ振りをしてくれている大人達の存在に気付かぬまま、ルディは食堂を覗いたり回廊から見える演習場を覗いたりと、興味の赴くまま一処に留まる暇もない。

 不思議と身も心も軽く感じるが、それは領都よりもこ場所の魔素の方がほんの少し波長が合うからに他ならない。正しくこの場所の意味と役割を、歴史の中に忘れて来てしまった領主一族とその眷属は、長らくこの地を唯の辺境砦としてしか認識していなかったのだが、偶然ランドルフの代で得難い縁を他でもない菩提樹の大妖精と結べた。

 それによって、この場所に集う中小の精霊や妖精の気紛れな意向を賜れる。


 確実に、この地を守護する領主一族であるルディは、菩提樹の元に集うそれらの存在に注目をされ、そして知らぬままに呼び寄せられていた。


 回廊を一番奥まで突き進み、導かれるようにその先に進む。

 その視界一杯に、施設内の奥庭部分とは思えない菩提樹の巨木と、爽やかな風に微かな光が踊るような幻が飛び込んだ。


「!!」


 圧倒的な存在感の巨木と、朝にも関わらず蛍よりも淡い小さな光がふわりふわりと舞う光景に、驚きと感動の入り混じった想いが胸に溢れ、思わず息を飲んで呼吸も忘れた。暫く見惚れて動く事も忘れていたが、そのうち遠巻きに漂っていた光の一つがひらりと近付いたので、そっと手を伸ばす。

 ルディを弄ぶように、その光は触れるか触れないかの場所をふよふよと漂い、揶揄うような動きで菩提樹の近くまで誘導した。


 まるで夢を見ているようなぼんやりとした心地でいたルディは、菩提樹の幹の近くで漸くこれが現実であると認識したのか、ハッとなって両手を広げると力一杯、一番近付いていた光をパァンと叩くように掌に閉じ込めてしまう。


(ッテーナ!!何スンダヨー!!)


 急に頭に直接ルディと同年代の少年のような幼い声が響くと、全身にビリビリと痺れるような痛みが駆け巡る。


「いっ!あああ!!」

(ヘッ!挨拶モシナイデ、急ニ攻撃シヤガッテ)


 全身を貫いた痛みはほんの一瞬の事だったのだろう。慣れぬ痛みに堪らず知らぬ間に尻餅を突き、ルディが溢した悲鳴の直後に聞こえた声は、耳元から聞こえた。

 驚き、声のした方を勢いよく見やる。


(セッカク雷精ノ俺様ガ気配ヲ辿ッテココマデ見二キタノニ、出会エタノハコンナ奴ナンテ‥‥)

「へ?‥‥らい‥‥せい??雷の精霊なのか??」

(アア?オマエモッペン痺レタイミタイダナ?)


 そこには、ルディが先程両手で力一杯叩いた時よりも大きめな光が、パリパリと紫電を纏わせて虚空に留まっている姿があり、実体と言える物はなく現象のみが存在していた。

 会話が出来る程に知性があり、適性のないルディですらほんのりとではあるが現象のみで存在を認識出来る状態を保っている。それと同時に不快感を声に滲ませていたあたり、小さくてもそれなりに長く存在している精霊なのだが、ルディは知る由もない。


 だが、それでも目の前の雷の精霊と自称する存在が纏わせる不快感は理解出来たルディは、恐る恐る立ち上がって頭を下げた。


「雷精、さま?申し遅れました、俺は当モルガン領の領主が三男、ルディといいます。あなたのような、力ある存在にお会いしたのは、これが初めてです。お目にかかれて光栄です!」


 挨拶の口上を紡ぐうち、段々と精霊に出会えた幸運と事実に喜びが込み上げ、語尾は自然と興奮したような口調になってしまっていた。

 キラキラと琥珀色のくりくりとした目を輝かせ、胸に左手を当てて腰を折る。

 礼儀作法は習い始めたばかりだが、ぶっつけ本番ながら精霊相手とはいえ上手に出来た。本来精霊にこんな貴族の作法などは関係ないが、無礼から始まった交流だったからだろうか、満更でもない声音が帰って来る。


(オマエ、森ノ守護狼ノ末裔カ。フゥン‥‥チョット変ナ魂シテンナ)

「??」


 すっかり不機嫌の象徴であった紫電を解除した精霊の光は、ルディの周囲を探るようにフヨフヨと漂うと何処か偉そうな様子で、ルディの薄黄色の頭に着地する。じんわりとその部分が暖かく感じるのは、実体は無くとも魔力の塊のような存在だからなのだろう。

 ルディも魔力は領主一族としては平均くらい、持って生まれている。その魔力に、この雷の精霊が干渉しているが故の感覚だとは、これも知る由もない。


(フーン、オマエニモット適性ガアレバ楽シメタノニナ)

「え、それは、おれ、じゃなくて、私と契約、して、くださる、のですか?!」

(ウーン、面白ソウダケド、殆ド見エテナイミタイダシナァ。契約ハ無理カナ)


 雷精にそう返されて、勢い込んで口にしただけに目に見えてしょんぼりと萎れてしまう。余りにも素直な心情を全身で表していたのが、ツボに嵌ったように雷精はゆらゆらと揺れながらルディの目前で留まった。


(オマエノ、ソノ『感情』マンマナ処、面白イナ!俺ハ風二属スル存在ダカラ、風ノ意思ニシカ縛ラレナイ。デモ、暫クハオマエヲ近クデ見テテヤル)

「!!ありがとう!ございます!!やったぁ!!!」


 契約は出来なくても、稀な精霊との繋がりを持てたと大喜びを全身で表すように、ぴょんぴょんと喜びを声高に叫び飛び跳ねるルディに、雷精は思い出したかのように釘を刺す。


(ア、俺ヲ呼ブ時ハ存在名称デアル『雷精』様トシカ呼ブナヨ?俺二名付ケテ良イノハ、姫様ダケナンダカラナ!!)

「え?姫様?精霊にお姫様がいるの?」

(フフン!マダオ会イシタコトナイケドナ!!割ト近クニイラッシャルンダゾ?)


 会った事がないというのに何処か自慢気な声音なのが少し可笑しくて、ルディは思わず吹き出してしまう。


(マダオ小サクテイラッシャルソウダガ、ソレハソレハ愛ラシイト有名ナンダ!!)

「へぇ、いいなぁ。俺も会って見てみたいけど、雷精さまですら姿がちゃんと見えないし‥‥」


 小さな精霊ですら、その姿を目視出来無いのだ。どんなに美しくて可愛らしいかなど、この眼には映らないのだろうと再びしょんぼりとするルディの呟きに、雷精は少し考えるようにふよふよとルディの胸の高さで漂っていた。


(オマエノ魔力量ジャ、光程度シカ見エテナイノカ。ヨシ!!歯ァ喰イシバレェ!)

「へっ!?」


 雷精は少しルディから離れると、再び紫電を纏って目にも留まらぬ速さで腹部目掛けて突っ込んでくる。

 いきなり歯を喰いしばれと言われた瞬間、ルディの身体はまるで雷に貫かれたように弾き飛び、意識は焼け落ちていた。


「ルディ坊っちゃま!!!」


 ルディが回廊を奥まで進んだ辺りからようやく追い付き、尻餅云々の後辺りから幼い主人を陰ながら見守り続けていた初老の側仕えは、突如として雷に打たれた少年の身を案じ、飛び出すがあと少し間に合わない。

 後少し踏み込みが強ければその手を取れたかも知れないが、年齢と共に衰えを実感していたその身体では間に合わなかった。


 そして目の前で幼い主人は、信じられない光景に見舞われていた。


 ルディのまだ幼く華奢な身体は、紫電を纏ったまま菩提樹の幹に叩きつけられる軌道を取っていたのにも関わらず、その衝撃的な光景はやってこなかった。


 小さな身体を突き抜けた紫電が一足先に菩提樹に到達し、巨木の幹をも貫いたかと思うとぐにゃりと歪め、不思議な膜が張った穴を開けたのだ。

 側仕えはそこまで詳細に目撃出来た訳ではなかったが、巨木に主人が衝突する事なく不可思議な穴に吸い込まれた現場を目撃し、躊躇する間も無く己もそこに飛び込む判断を下す。


 一刻の猶予もないと咄嗟に身体が動いたものの、経験した事のない己の存在がグニャリと曲がるような感覺に、意識が遠退く寸前で伸ばした手が小さな手を取った。

 その手の感触に頭の遠い何処かで、どう報告をしたら良いかと冷静な自分が呟いていた。



 

お読み頂きありがとうございます!


ちょっと時間が無くて、今回の後半部分は読み直しほぼ出来ずにあげてしまいました。

また、後日、修正する目論見でおりますが、お見苦しくて申し訳ないです_(:3 」∠)_


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