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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
25/150

25、要塞砦の視察 其の1

 側仕えが運んで来た朝食を、宛てがわれた客室のテーブルに並べて貰うと、習い始めたテーブルマナーもそこそこに急いでお腹に収めた。


 子息達専属の護衛騎士は今回の目的地の土地柄と、急遽決まった極秘の視察にあたる為、必要最低限の人数の同行しか許されていない。なのでぐずぐずしている間に兄が起き出し、探索すると一言言い出せば二人纏めて護衛と行動をするよう、兄の側仕えに言われてしまうに違いない。


 ルディは身体を目一杯動かしたり剣の稽古や鍛錬も楽しいけれど、一人気ままに興味を惹かれるまま、探索するのが好きなのだ。文字の読み書きの勉強も算術も素直に面白いと思えるが、好奇心いっぱいの幼い少年らしさから、集中力がまだまだ足りない。


 必然的に、領都の居城でも庭や鍛錬場など、普段領主の子息など到底立ち入らないような使用人の居住エリアや倉庫、厩や厨房にも潜り込んでは実母である領主夫人に確保される日常を送る、腕白な少年だ。

 モルガン辺境伯家としては跡目を正式には定めておらず、智略に優れ現当主に次ぐ魔力量を誇る十四歳の長男イーサンか、剣術の才豊かで体力も申し分ない十二歳の次男バーナードのどちらかとされている為、六歳の三男ルディは比較的領主子息とはいえ自由な振る舞いを許されている。


 また、領地も広大で豊かな魔の森であり、国境を守る役割を担う土地柄でもあるが故に、相手側が余程の魔力量などの旨みがない限り、わざわざ始祖を(たが)う他領や帝国貴族と婚姻を結ぶ意義もない。


 ただ実のところ、モルガン伯爵家にはルディの上に双子の子息があり、四年前息抜きと称して城を抜け出し、その折に事故で揃って儚くなっている。

 それが彼らが六歳の時の出来事だったので、ルディが窮屈になり同じ轍を踏まない為に、ある程度のゆとりを持った教育方針が取られるようになったという経緯もあった。


 故に、末っ子がどう成長し何を選び取るのか。当人の自由意志をある程度、尊重しようと領主夫妻も現側近達も考えている様だ。今回は完全に勇足での子息二人を連れての現地入りではあったが、一族の力となり子息達それぞれにも心強い助け手が得られれば、という思いに違いはない。


 手始めにランドルフが幼少時、メルヴィンと出会ったこの妖精や小さな精霊が棲まう地で、何かきっかけになる何かしらの出会いがあればと、淡い期待を抱く父親の思惑を知らぬまま、日の出までまだ半刻ほどあるであろう薄暗い要塞砦の施設内へと静かに踏み出した。


 そして朝食の後片付けを終え小さな主人の客室へ戻って来た側仕えは、もぬけの殻となっている室内を幾らか確認して回り、好奇心いっぱいのやんちゃな主人の動向を的確に予測すると、微かに溜息を漏らす。

 ここで主人が危険に曝されるような事は基本無いであろう故の、この開放的な人事配置ではあるのだが。念の為モルガン伯閣下に、報告とお願いをしておかなければならない。

 いざとなったらあの不幸な事故の後に自領の小さな要人向けに開発された『笛』に呼応する、飾りを嵌め込んだカフス釦型の魔道具を目印にと考えながら、初老の側仕えはそっと客室の扉を閉めた。


 生活棟の一階にある厨房の隅まで来ると、領都の城から付き従って来た他の側近達も僅かに交代要員を除いてその場に集まっている。

 場所は違えと毎朝の、簡単な朝議を開始する挨拶をする。


「皆さん。おはようございます」

「おはようございます侍従長‥‥あ、いえ、そのつい」


 にっこりと微笑んで集まった使用人を見渡すと、初老の側仕えは柔らかい声音で告げる。


「私が再雇用でルディ様付きになって、もうそろそろ四年目になるんですから、いい加減慣れましょうよ」

「申し訳ありません、カーター様を前にするとつい‥‥」

「まあ、良いでしょう。今回は来ていませんが、今後ともグレイソンと共に一層励んで下さいね」

「「「はい」」」


 ルディが産まれる前、定年には少し早かったが彼カーターは、モルガン伯爵家の侍従長を辞していた。物腰が柔らかで仕事も卒なくこなし、後輩を育てるのも上手かった彼は城の殆どの使用人の育成に関わる程だったが、メイド長だった妻が亡くなった折に息子のグレイソンに跡を譲り、のんびりと孫の世話を焼く生活を始めていた。

 だが数年後、領主一家に大きな不幸があり、まだ幼い末子のルディ付きの側仕えとして請われ、期間限定で戻って来ていた。


「ではまず最初にルディ様ですが、既に朝食を終え探索に出られております。件のカフス釦はいつも通り身につけておられますので、皆そのつもりで動くように。護衛は当要塞の警邏隊で人員を割くとの事ですので、あまり大袈裟にならない程度に気を配るように。バーナード様の御衣装にも、きちんとおつけして下さいね。次いで閣下の本日のご予定ですが、報告を」


 モルガン辺境伯当人の側近の一人に話を振ると、昨夜遅くまで実弟のラドルファスと酒を酌み交わしていたそうで、弟からの謝罪と愚痴で少々酒を過ごしてしまい、今朝は少々遅くなるようだった。起床後の予定は、契約妖精に目通りをして今後の領内の相談も出来ればする心積りなのだそうだ。


「では、旦那様がお目覚めになりましたら、すぐルディ様が早起きなさり、既に敷地内にて探検中とお伝え下さい。魔道具も身につけて頂いているとも、お伝え頂けましたら恐らく、閣下も何らかの見守りをお付け頂けるでしょう」

「承知しました」

「昼食は無理にお揃いでなくても構わないようでしたら、私はルディぼっちゃまにそのまま控えようと思ってますので、皆さんも何かご用の場合はご子息様方の邪魔にならない様、伝達方法など気を配って下さいね」

「「「はい」」」


 では解散と声を掛け、それぞれの主人へと厨房からお湯や茶葉、朝食などを受け取って下がっていく同僚を見送り、初老の側仕えもその場を後にした。




 * * * * *



 時を少し遡って昨夜の反省会解散後の事。


 領主であるランドルフの為の居室へやって来た実弟ラドルファスの落ち込み様が未だかつてない程だったので、二人で酒量を過ごしてしまった。

 かなり酒には強い自信があったのだが、騎士団長としての責任を常に自負している筈の彼のピッチが速すぎて色々と興味を惹かれ、僅かな情報しか持たぬのにも関わらず根掘り葉掘りと件の二人の話を聞いていたのだ。

 幸い領都の居城や騎士団詰所、騎士団の寮とは違ってこの部屋では実質二人きりで、配慮しなければならない部下も使用人も下げてある。

 滅多にない兄弟水入らずとも言える状態で、二人とも少し気が抜けたのもあるだろう。


 そんな晩秋の長い夜の内、いつしか泣きが入り愚痴も零れ、モルガン領の誇りと称えられる弟は余程堪えたらしい。泣き上戸と化した彼は、なかなかに厄介だった。

 それでも、幼い頃から憎らしいくらいに剣も腕っ節も強く誇り高い弟のそんな姿が、年甲斐もなく可愛らしく思えて酔い潰れるまで付き合ってしまった次第だ。


 勿論現在領内にて起きている魔獣の被害や対処法について等、問題は積み重なっている。

 次代の不安も跡継ぎの決定も、今少し引き伸ばしている現状もある。

 元よりどこの種族でも、魔力や能力の緩やかな劣化が著しいと言われている時世だ。始祖と関わりのある種族と近しい獣が、魔獣と化して領内に発生しているのも、始祖との親和性が薄れつつある所以なのではないかと考察している。

 現状として一族により多くの魔力をもたらすか、新たに上位の加護を得るか。魔獣を討伐出来る策を講じるとしても、今回魔術が有効であると判明したは良いが、そんな上位の魔術を頻繁に行使出来る者など極稀だ。


 思考が答えのない迷宮でグルグルと彷徨うのを一度頭を軽く振って強制的に止め、ランドルフはソファで酔い潰れている弟にベッドから上掛けをかけてやり、上質な外套を部屋着の上から羽織って静かに部屋を出た。


 一階の厨房まで降りて訓練場を迂回し回廊を歩きながら、月明かりに浮かぶ自らの影が視界に入る。ふと見上げると、雲ひとつない夜空に煌々と白銀の月が陰りひとつない姿で浮かんでいた。

 満月だったのかと美しい銀色を見上げながら、少々勿体ない酒の飲み方をしてしまったと自嘲する。折角こんなに美しい月が浮かんでいたなら、弟を宥める一助にもなっただろうにと。


 だがそこで、宵の冷えた空気にぶるりと身を震わせ、考える事を辞める。

 再び回廊を奥へと進み、そのまま菩提樹の見える清水と滝のある自然の広場へ辿り着いた。


お読み頂きありがとうございます!


名付けるつもりもなかったキャラが、何故か追加されてしまいました。

背景考えてたら止まらなくなって、趣味に走る走る_:(´ཀ`」 ∠):

イケオジ、イイ!


侍従長は身の回りのお世話係トップ。側仕えの総括的なつもりでお出かけもお世話が必要な場所は付き従う。

執事は今のところ出しておりませんが、屋敷で政務の補助や人事権も握っており采配を振るうしお留守番役と考えております。

モルガンさん家は辺境伯で格が高いつもりなので、そういうつもりで一応書いております。



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