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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
24/150

24、視えたモノ

ちょっと遅れてしまいましたごめんなさい_:(´ཀ`」 ∠):

 三人で食事を終え後片付けを済ませた頃には、すっかり木々に囲まれた野営地も明るくなり始めていた。

 一見すると、とても平和で穏やかな森の朝の風景のように思えるが、その実昨晩レオナルドが感じた異常はまだ依然として継続中である。


 観察対象であるメルヴィンの菩提樹は、相変わらず著しい成長を続けており、今は数多の気根が始めに植え付けた倒木を覆って絡み合い、しっかりと太く育ち始めている幹を根元から支えられるだけの姿になりつつあった。

 それでもまだ貪欲に地力と魔素を吸い上げ、極上(ルーナエレン)の魔力を核の様にして膨れ上がる生命力の様が、自然な姿からは余りにもかけ離れていてどうにも気に入らない。


 そんな菩提樹の若木からやや離れた場所で、愛娘を抱き膝の上に乗せたまま見守っていたアレンハワードとレオナだったが、こちらに場所と種を植えろとだけ((いとけな)いルーナエレンに)指示して来たメルヴィンが、その後音沙汰がないというのも、更に保護者二人、一層の不信感と不快感を募らせる。


 これではまるで、付近の膨大な生命力を無遠慮に吸い上げ、ここに新たな拠点をこちらの許可も承諾もなしに利用して作らせているとしか思えない。我々保護者に内緒で三歳のルーナエレンを利用しようなど、身の程を未だに弁えていないようだ。

 青筋を浮かせて青い目を細め、レオナは意識的に威圧を高めている。


「‥‥‥どうやら調教が必要そうだな」

「連絡くらい、大人としてきちんとして欲しい処だね」


 無為に時間を浪費出来ないと伝えてあるにも関わらず、相手の頼み事を厚意で引き受けているというのに。本体と同等になるまで、面倒を見させる気なのかと疑える点が、急激に心の温度を下げていく。

 肌寒い空気が益々低くなり、腕の中のルーナエレンは不思議そうに大きな紫水晶の瞳で見上げて来た。


「‥‥‥きのうの、おおかみさんみたいなのは?」

「ああ、そうだね。自領域としての見解を聞こうかとも思っていたけど時間の無駄だし、先にエレンに視てもらおうかな」


 アレンハワードの言葉にコクリと頷くと、膝から降りて手早く片付けをするレオナの元に一度下がる。

 焚き火と菩提樹の若木との間のやや左側に、不自然に下草の生えていない場所があり、アレンハワードは一人その外周に歩み寄る。片膝を付くように屈み込むと、指先の魔力で空に複雑な魔法陣を描き出した。


 美しく青白い光が精密な魔法陣を形作ると一際強く輝き、アレンハワードは無造作にそれを右手で掴む様な動きをした後、目の前の下草のない場所へ向かって掌の中にある何かを放る。

 すると先程まで指先で描いていた魔法陣が強い光のまま大きく拡がり、不自然だった場所に隠された物を出現させた。


「エレン、こちらに」


 父親の目の前に隠されていた巨大な氷塊に驚きながら、ルーナエレンは呼ばれるままに小走りに走り寄る。


「この状態では、視え辛い?」

「ううん。でも‥‥へん。からっぽなのに、いっぱい」


 自分でも上手に表現出来ないのがもどかしいようで、ルーナエレンは首を傾げながらもアレンハワードの傍でじっと氷塊に内包された昨夜の骸の山を見つめた。

 普段あまり見せない程の難しい表情を浮かべ、まるで身体のどこかが痛むかのような苦痛に耐えているようだ。思わずレオナが小さな背中を摩って、宥めるように声をかける。


「空っぽなのは、命?」

「うん」

「じゃあ、いっぱいは?」


 綺麗な形の眉を悲しげに下げ、ルーナエレンは少し考え込みながらも言葉を探る。


「えっとね、なんで、とか。くやしい、とか。つらい、とか。そういうのがいっぱいいっぱい、いっぱいあふれてくるの。でも、ここにはなにもいないし、からっぽなの。でも、ここからいっぱいきこえてくるの」


 過保護が過ぎているのとまだまだ三歳児の語彙力は、負の感情に対してとても乏しい。そうなるように育てているのも事実ではあるが、愛娘が理解出来ない負の感情が膨大に溢れているものをいつまでも見せるのも憚られる。

 あの黒い陽炎と怨嗟の声からして、想像に難くなかったがやはりそのようだ。


「じゃあエレン。これは還れるかな?無理しないといけないのなら、父様かレオナが処理するよ」

「‥‥‥えっとね、いつものとちがうかも。いっぱいが、じゃまするの。とうさまやレオナがけしても、いっぱいはなくならないし、かえらないとおもうの」


 ルーナエレンの口ぶりからは怨嗟が強過ぎて、邪魔をするから魔獣は還せない、怨嗟も還らないという事のようだ。かといって、このままこの場に置いて行く事も無理だろう。

 後はこの魔獣自体が、本当に狼であり、元来の大きさからしてこの様だったかというのが分からない。


 まだ難しい顔をして氷塊を見つめるルーナエレンの頭上で、ちらりとアレンハワードの視線がレオナに向かう。視線だけでの確認ではあるが、レオナルドの力を以って、これを無害に消滅させられるか否かを問うと、少女の姿をした相手は僅かに眉間の皺を深くした。

 恐らくは出来るが今の姿でそれを成した場合、理に触れてしまう可能性がある事と、加減が分からない点が問題なのだろうと当たりをつける。


 場にそぐわないと解っていても、アレンハワードの眉間にも少し違う意味で皺が刻まれる。

 それを見てアレンハワードの思った事が伝わったのだろう。憮然とした表情を浮かべ、ややあってレオナは視線をぷいと逸らしてしまった。


(‥‥‥ここぞという時、相変わらず役立たず‥‥)





 * * * * *





 領都の領主が居を構える城から出た事が無かった六歳のルディは、生まれて初めての遠出であり魔馬仕立ての馬車での高速移動に興奮していて眠れそうになかった。


 要塞砦に到着後、すぐに上等な客室を一室与えられたものの、淡く光る廊下だとか、畜光の原理は分からずとも不思議な遺跡の名残と言われる施設を目にし、やはり幼い冒険心と探究心が胸を熱くした。

 道中小まめに休憩を取っていても、まだまだ六歳の少年である彼にとってはやはり疲労は著しい。幾ら気持ちが昂っていても、発育途上の身体は少し重く感じる。


 彼は側仕えに着替えを手伝って貰いながら、明日からの冒険に希望を膨らませながらベッドに入る。


「おやすみなさいませ、坊っちゃま」

「ああ、おやすみ」


 側仕えが部屋の灯りを落として、静かに退室して行くのを感じながら、一つ大きく深呼吸をする。微かに、柑橘のような爽やかで甘い匂いが鼻腔をくすぐった気がして、自然と頬が緩む。

 明日の朝が来たらきっと兄より早起きをして、沢山探検するんだと決意を胸に、ルディはゆるゆると目蓋を閉じた。


 翌朝、ぐっすりと眠ったルディは生まれて初めて、明一刻の鐘(午前六時)を聴いた。

 ベッドの中で眠い目を擦りつつ、考えていたように早起き出来た事に喜びつつそろりと足を下ろす。


「おはようございます、坊っちゃま。今日はお早いお目覚めでございますね」


 ルディはすぐにベッド脇に洗面を用意してくれた側仕えに身繕いを手伝ってもらいつつ、上機嫌に応える。


「今日は、父上からここを見て回るお許しをいただいているのだ!」

「左様でしたか。ああ、そういえば旦那様のご契約なさっている大妖精様も、こちらが拠点と伺っておりますよ。お会い出来ると、よろしゅうございますね」

「そうなのか?!」

「ええ、こちらは古くからの力ある存在に近しい場所と、有名でございますし」


 母親譲りの琥珀色の瞳をキラキラと輝かせ、側仕えがくれる新しい情報に心を踊らせる。そんな快活な少年の希望に溢れた表情をにこやかに見守りながら、側仕えはそう付け加える。


「朝食はこちらにお運び致しましょう。バーナード様はまだお休み中ですし、旦那様からも食堂までご案内するようには申しつかっておりませんので」

「そうか!じゃあ、部屋で取る」

「かしこまりました」


 十二歳の兄がまだ眠っていると聞いて、益々やる気が漲ってくる。

 どこから見て回ろうかと、椅子を要塞砦の内側に向いた窓際に引いて行き、演習場の奥の回廊の奥はどうなっているのだろうと想像を膨らませながら、側仕えが朝食をワゴンに乗せて戻ってくるのを待っていた。





お読み頂き、ありがとうございました!

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