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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
22/150

22、要塞砦の反省会

 森の只中で宵の一刻の鐘をアレンハワードが聞いてから二刻を経た宵の三刻(午後九時頃)、『龍の背骨』の要塞砦の跳ね橋を渡る、仕立ての良い黒塗りの立派な馬車があった。モルガン辺境伯家の家紋を頂いたその馬車が、建物の正面の広場を廻り正面玄関へと停まる。


 馬車から降りて来たのは長身の偉丈夫である領主当人と、まだ幼い子息達であり、それを緊張して項垂れた面持ちのラドルファスとコナー、無骨な鎧を身に付けた砦に詰める警邏隊の面々が仰々しく迎え入れる。

 片膝をつき右手を胸に当てた礼を取る役職に就いた者達と、警備に立つ隊員は直立不動で正面を向き、緊張した様子で右手を胸に当てていた。

 その中をランドルフ・ガイ=モルガンは良く通る低い声で、出迎えに対する礼を述べる。


「皆、先触れもなく急に立ち寄ったにも関わらず、出迎え大義である。各隊長及び此度の使者を残し、持ち場に戻るが良い」


 ランドルフの言葉に短く応え目礼すると、夜間警備態勢へ戻る者達と交代要員、非番の者達もきびきびとそれぞれの持ち場や自室へと戻っていく。

 先頭を歩くランドルフとラドルファス、少し後を領主子息二人とコナー、続いて警邏隊長の二名。

 大人達の表情は一様に厳しいものであったが、その中であって二人の子息達は初めて遺跡でもある要塞砦へやって来た為、旅の疲れも出た顔色ながらも光源乏しい夜の砦内にも関わらず、幼い瞳を好奇心で一杯にしている様子が微笑ましい。それでもしっかりとした教育を受けている成果として、一見すると静かに大人しく案内のまま歩を進める。


 一行は生活棟の最上階まで案内され、ランドルフが息子達を振り返る。


「バーナード、ルディ。馬車とは言え疲れただろう。先に休むと良い。明日は鍛錬の見学でも、遺跡の案内でも希望があれば朝食の際に聞くぞ」

「はい、ありがとうございます父上!」

「遺跡!?見てみたいです!!」

「ああ、分かった。おやすみ」

「「おやすみなさい、父上!」」


 それぞれの頭を撫で、最上級の客室三部屋のうち二部屋へ側仕えと一人ずつ向かわせる。


「さて、会議室で報告を聞こう」

「はっ!」


 そこから会議室へと移動する大人達の顔色は、それぞれに自然と暗いものになる。

 既に用意されていた会議室へと入り、席に着いた所で従僕がお茶を運び入れ、給仕が終わると従僕が退室して扉の前に警護の騎士が立つ。それを黙って眺めていたランドルフが、ようやく口火を切った。


「夜分で急な来訪、まずは手数をかけたな。ルーファスもコナーも、無理をさせた」


 席に着いている顔ぶれを静かに見廻し、ゆっくりと低く良く響く声音で告げるランドルフに、皆息を飲む。

 頭を下げられた訳ではないが、主君に労いの心が見て取れる言葉を掛けられたのだから。


「勿体ないお言葉です、閣下」


 目礼で応える面々を少しの間見てから、ランドルフはテーブルの上で手を組み、一つ声を落とした。


「して、改めて此度の討伐から詳細を聞きたい。ファング第二警邏隊隊長であったか」

「はっ!ご報告致します!」


 報告を指名されたアスコットが席から立ち上がり、一度領都へ送った報告書の写しを手元に補足しながら話し始める。


 領内に生息分布の確認されていなかったハウンド種の最上位種であるブラックハウンドの群が報告され、第二警邏隊が現地へ確認に向かったという初動から入った。現地からやや離れた場所からの偵察だけの筈が、相手の索敵範囲が予想より遙かに優れていたらしく、接近に気付いた時には囲まれ応戦する形となった事。

 実際に帯剣している剣の刃が殆ど通らず、生息する既存のハウンド種とはあまりに能力値がかけ離れて凶悪だった事。


 有効打が見つからず対処が後手になり始め、負傷者と後衛を撤退させようと画策していた折、氷の槍が撃ち込まれ、我に返った時には既に討伐が完了していたと、アスコットは語る。

 そして、(いとけな)い小さな女の子を片腕に抱いたままの年若き青年魔術師と、その同行者らしき少女と対面し手当まで受けたので、要塞まで『招待』した流れを話し終えた。


「成る程、ファング第二警邏隊隊長。よくぞ判断してくれた。‥‥‥次にルーファス、コナー」

「‥‥はっ!」


 報告を終えたアスコットと入れ替わるように、今度は使者として魔術師と対峙したというラドルファスとコナーが立ち上がる。


「まずは閣下、使者の任を拝命しておきながら結果を得る事能わず、誠に申し訳ございません」

「‥‥ふむ、本日夕刻に発たれたのだったか」

「はい。‥‥相手を測り兼ねた私の責任です」


 苦悩するようなラドルファスの謝罪に、ランドルフは自分の契約妖精の言葉を思い出す。

 彼女(メルヴィン)ですら恐る?相手など誰が予想出来ようか。まして、自国の帝都なればいざ知らず、この辺境領内には水属性の上位魔術である『氷』を扱えるような、上級魔術師はあまり居ない。


「強い魔力を保有する人材の確保は、何処であっても必死だからな。彼の御仁を識る為にも、直接面識を得たいと急ぎ出張って来たが‥‥コナー、その魔術師殿をこの地に留めるに、何か響く様子の物は無かったのか?」

「それが閣下、何も彼の御仁の気を引く事能わず‥‥路銀も物資も支援は無用と。この帝国内での閣下の庇護を匂わせた所、寧ろ不興を買ってしまいました」

「むぅ‥‥‥」


 メルヴィンに損得で動くなと諭されてはいるが、討伐の内容にしろ無所属の優秀な魔術師という人材としても、純粋に欲しいと思わずにはいられない。


「閣下、もう一点ご報告が」


 普段生気に溢れ精悍な顔つきの弟であるラドルファスが、山吹色の目を伏せ辛そうに声を絞る。

 その様子に、何か失敗したのかと思い至るものの報告だと告げているのだからと、ランドルフは静かに先を促した。


「その、コナー殿の方が交渉には向いておりますので、使者としての立場を勝手にお願いしてしまったのです。ですが、どうやら魔術師殿には何やら我らの立場を的確に理解しておられた様で。身を偽った事が、更に不興を増した原因だったのは確実なのです」

「‥‥何と‥‥」

「しかも、みっともなく立場を偽った旨を打ち明けようと動いてしまい、魔術師殿の側近くに控えていた少女に、軽く捻られてしまいました」

「‥‥‥‥‥」


 項垂れる弟の報告内容に、衝撃を受ける。計らずも嘘を見破られ不興を増し、(あまつさ)えこの領内最強の騎士団長が軽く捻られた。しかも魔術師当人ではなく側に控えていた少女に。

 信じ難い内容に、思わずコナーに視線で問うが、鎮痛な面持ちのまま頷き返されただけだった。

 ああ、でもメルヴィンすら恐る相手がその少女なのであれば、致し方ないのかも知れない。


 会議室に痛い程の沈黙が落ちる。

 何かとんでもない相手の不興を買ったのだろう。

 武力でも魔術師とその少女に敵わないし、何か策謀を巡らせようにも相手を何も知らない。この地の主の様な古き妖精すら、相手にならないのだから。


 そこに、躊躇いがちながらもアスコットが声を挙げた。


「ご無礼を承知で閣下、よろしいでしょうか」

「‥‥‥良い、発言を許す」

「はっ!」


 立ち上がって右手を胸に当て、敬意を再度表してからゆっくりと話し始める。


「旅の魔術師殿ですが、とても穏やかな青年でした。出立の際も、態々挨拶に来て下さいました。‥‥とても、お嬢さんを大事にしていらして、その、苛烈な態度を取られるような心配は、ないかと。勿論、こちらが無理を強いらなければ、ですが‥‥」

「‥‥そうか」

「はい、それから、どこにも仕える意がないと仰ってました。何処かの間諜である可能性も、ないと思われます」


 アスコットの発言に、その場の空気が一瞬ピリリとする。

 秋の夜更にしては、空気が凍えたように冷えた。


「そう、直接聴いたのか?」

「不躾ながら」

「そうか‥‥ファング、良くやってくれた。他に、何か?」


 まだアスコットしか知らない内容があるかという含みを読み取り、少しだけ氷のような美貌の青年を思い起こす。

 多彩な魔道具を使っていた事。一目で親娘と分かる、可愛らしい美幼女を溺愛していた事。物腰が洗練されており、恐らく他国の貴族階級の出ではないかという事。造形の美しさだけではなく、その色彩も見た事がない美しさだという事。

 それらを思い出しながら、つと口から言葉が溢れてしまう。


「とても‥‥‥とても、お美しい方でした」


 席を立った状態での発言であり、またアレンハワードとルーナエレンを思い起こす視線は少し斜め上だった為、溜息のように溢れた言葉に集まった成人男性達の驚愕と信じられないと言わんばかりの視線に、アスコットは気付けなかった。


「‥‥そ、そうか‥‥‥」


 無意識に満足そうな頷きを返してからアスコットが着席した頃には、周囲の居た堪れない様な視線はそれぞれ逸らされていた。

 そんな微妙な空気を変えるべく、ランドルフは低く咳払いを一度すると、改まって会議室に集った面々に視線を巡らせた。


「ではこの件は俺が預かる事にする。彼の魔術師殿が我が領内で不当に扱われるような事があれば、それは俺への不敬と心得よ!この旨は領内要所に、密やかに周知させる」

「「「「はっ!」」」」


 ランドルフの言葉に、全員が是と返した事で、夜更の会議は解散となった。





お読み頂き、ありがとうございます!!!


えーっと。

アスコットさんおん年三十歳。バツイチ。

平民可、気立ての良い彼女さん募集中です!(違


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