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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
21/150

21、呪い

溶けそうに暑いですね。

皆様も、くれぐれも体調にはご注意下さいませ_(:3 」∠)_

 すっかり瞬く星が増えて来た夜空の下、乾いた森の空気に焚き火の爆ぜる音がパチパチと時折聞こえる他は、少し遠くで微かな虫の音が聞こえるのみで、静かなものだった。そろそろレオナが愛娘を寝かし付けに離れてから、半刻(四十五分程)程経つ。


 故郷での同じ時節に比べれば随分とマシなものの、日が暮れると流石に気温もグッと下がる。旅装の外套の内側に、焚き火に寄って来た小さな火の妖精を遊ばせて暖を取る。

 幼い頃から北で育ったアレンハワードの、生活の知恵の様なものである。兄弟たちは自分程上手く妖精を扱えず、たまに服を悪戯で焦されたりしたものだ。


 父と同じ白金の髪を持つ二つ違いの兄と、二つ下の弟はあれからどうしただろう。


 常日頃はこんな感傷など抱かないというのに、今日はどういう訳かそんな事を考えてしまう。

 同腹の兄弟だ、自分と同じ直系なのだからもしかしたら兄も、そろそろ身体に異変を感じ始めているかもしれない。兄は短い生涯である可能性の高い純血種の跡取りとして、自分が成人前に魔導師と認められ子爵に陞爵された時分、兄当人より十三も年上の王族の姫を始めとした、五人もの婚約者を持たされていたのを思い出す。

 あの頃の記憶を思い出すと、苦い(こご)りが喉の奥に溜まる気がした。


 祖国(ネヴァン)はどこまで魔導師(じぶん)の足取りを追えていたのだろうか。

 陞爵し貴族家当主と扱われた際、年齢を無視して成人と見做される。故に、あんな事になり祖国を出た。


 自然と深い、深い溜息が溢れる。


 只人であれば踏み入る事も耐えられない隣国との国境(くにざかい)である霊峰まで逃れ、その地を拠点として十月程、世を忍んで上位召喚術式の研究に明け暮れた。何かに急き立てられる様に、寝食を忘れて繰り返し構築と試行と失敗を果てしなく重ねた。

 そして、最終段階まで組み上った術式に魔力を流し、暴発させた所で記憶が途絶えている。


 次いでの記憶はあやふやで、白い淡い光に包まれた無機質な樹木が立ち並んだ林と青い湖。

 そして、はっきりとした輪郭を結ぶ記憶の始まりは、ルーナエレンが膝立ちをした自分の差し出した手に掴まり、初めての摑まり立ちを披露した、正にその瞬間だった。その背景の一部として、今と変わらない少女の姿のレオナが拳を握りしめて、固唾を飲んで見守っていたのは余談である。

 もう一点、記憶が鮮明になってからの相違点として。


 成人前の十四歳の少年としては背もあまり高くなく、何よりも華奢な体格であり母譲りの若草色の瞳だった自分が。身長もいつしか高く伸び、体格も細身ではあるもののしっかりと筋肉も付き青年のそれとなった。

 そして、何故か瞳の色がまるで氷のような、とても透き通ったアイスブルーになっていた。


 故に何処かで祖国に今の自分が見出されたとしても、すぐに同一人物だと認識されないのではないかと考えている。

 仮に精密な魔力の波動を読み取られたとしても、加齢や成長で増減も変化も無い話ではない。


 等と徒然と思考の海に沈んでいるうちに、目の奥に針を指すような鋭い痛みが走り、思わず目蓋をきつく閉じて身を硬くした。


「悪い、ちょっと遅くなった‥‥ってアレン、大丈夫か?」


 声がした方を振り返り、少し小首を傾げる。

 そこには既に大きな黒い猫科の獣に姿を変えた、レオナルドが佇んでいた。獣の姿であるにも関わらず、器用にも眉間に皺を寄せ難しそうな表情をする。


「なぁアレン、お前どこか不調あるだろ」


 静かに焚き火の近くにやってくると、不機嫌そうに確認する様な口調で言い切る。

 その様子が、確信めいていて不穏な響きを持つものだったので、何とは無しに察する事が出来てしまう。


「やっぱりあの陽炎は、呪いの一種なんだね」

「‥‥‥‥‥」

「接触したと言えそうなのは腕と左足。でも、自覚があったのは左足だけかな。‥‥レオナルドは、これが何か解ったんでしょ?エレンには、影響無かったのは幸いだけど、教えてくれるかな」


 アレンハワードは務めて穏やかに、でもレオナルドの中の確信を尋ねた。それでも、言い難いのかぐっと口を引き結んでいる黒い獣の姿に、苦笑いを浮かべる。

 彼ならば大抵の事象は知っているだろうし、方策も立てるのは易いに違いない。でも、超越者という存在は、地上の現象や事象に積極的に手出しは出来ない理があり、そんな中でも彼の感情以上に自分に肩入れしてくれているのは充分理解しているつもりでもある。


「私はそんなに業深いのかなぁ」


 一族の呪いを色濃く受け、血による争いや欲望に晒され研究に没頭して。

 恐らく、一度死んでいる。

 この世界に生ける姿でどのようにして舞い戻ったのかは、残念ながら覚えていない。

 だが、生還し愛するものを手に入れたものの、生来の呪いは解かれておらず、今正に再び死から逃れようと足掻いている最中で。

 そんな身で、更に新たな呪いを身に宿してしまっただなんて。


 思わず自嘲するようにそっと息を吐く。


「‥‥違う。お前は何も悪くない。不運と強運は落差が激しいが表裏一体とも言えるものだ」

「ありがとう。‥‥私は大丈夫だよ、不幸な記憶しか無いという訳ではないんだから」


 普段何かと尊大な超越者が、苦々しく俯いて低く唸るように呟きを溢したのを微笑ましく感じ、これもまた幸せだと思えるのだからと、心の中で付け加える。

 だが、微笑ましいと思ったのが気に食わなかったらしく、レオナルドはぷいとそっぽを向いて吐き捨てる様に早口になった。


「あーもう!さっさと思い出せ!ホントお前面倒臭い!!!」

「うーん、君がエレンの初めての立っちで固まって見てたのなら、覚えてるんだけどなぁ」

「!!」


 懐かしい、そして少し気恥ずかしい話題だったのだろう。黒い獣はびくりと一瞬だけ、毛を逆立てていた。

 どんな思惑があるにせよ、彼が愛娘に害意など微塵もなく側に居る事が、心底有り難くそして嬉しい自分がいる。まだ一緒にエレンを見守って育みたい、色んな経験を共にしたいと素直に思える。

 例え、世界を一瞬で滅ぼす様な相手であったとしても、ルーナエレンを一番に想ってくれる相手なのだから。


 照れ隠しの様に焚き火の反対側へ足早に離れて行き、地にゆっくりと伏せると一回り身体を大きくしたレオナルドは、まだそっぽを向いたままだったが、ボソリと顔を見せないまま付け加えた。


「その呪いは、風のアイツへの、下界に溜まった怨嗟だ。所謂、集団的な『業』ってやつだ。個人の資質云々では無い、ある種理不尽と下界では言われるものだ。でも‥‥そうだな、アレンじゃなきゃ即座にその呪いに呑まれてるだろうし、エレンが必死で祓ったからそれくらいで済んでる、といったとこだ」


 それだけ一方的に言ったレオナルドは、丸くなりながら返事をする暇を与えず更に付け加える。


「エレン、眠ってからも、何度も魘されて泣いてたぞ。オレが見張りをする、今日は側に居てやれ」


 フスンと鼻息を吐き、それきり反応しなくなる。少し不器用な彼の優しさに、先刻までの祖国のあれこれに想いを馳せて凍えた胸が、暖かくなった。


 折角のレオナルドの厚意だ。

 相手の顔は見えないが、アレンハワードは笑顔で応えながら立ち上がり、遊ばせていた小さな火の妖精を焚き火に還す。

 それから、衣服についた土埃をそっと風で払った。


「わかったよ。‥‥ありがとう、おやすみレオナルド」


 ここ最近、旅の中では夜は見張り役として、いつもアレンハワードが外で野営していた。

 夕食までは三人で可能であれば外で摂り、夜はレオナが空間魔法(おうち)でルーナエレンを寝かしつける。旅程の状況に併せて、少しずつ外の世界を体験させる生活だったので、子供部屋にしろ自分の寝室にしろ、アレンハワード自身は久しく使っていなかった。


 久しぶりに愛娘の寝顔を見ながら、しかも柔らかい自宅のベッドで眠れる嬉しさを滲ませた輝かんばかりの笑顔は、レオナルドに向けられているが視界には入っていない。けれど、その声音に隠しようのない喜色が滲んでいては、どんな表情をしているかなどレオナルドには簡単に想像出来ていた。


 アレンハワードの気配が完全にこの場から消えてから、夜空に顔を出したばかりの月を見上げ、再びフスンと鼻息を吐く。


「全く‥‥‥出来る事ならば、もう暫くは滅ぼさず居られるといいものだ。なぁ、セレーナ」


 まぁ、例え滅ぼす事になったとしても、自分同様彼女(セレーナ)も同じ事を考えているのは明白だった。




お読み頂き、ありがとうございました。


ぱっぱは幼少期より女難の相が色濃かったりしました。

これで嫁の記憶無いとか不憫だけど、エレンとイチャラブしてるのでまぁこれはこれで良いか(良くない


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