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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
20/150

20、黒い陽炎の獣

諸事情により、更新が大変遅くなりました。

思うようなペースで更新が出来ない事が多いかもしれませんが、自分の身体と相談しつつゆっくり綴って行けたらなぁと考えております。

よろしくお願い致しますm(_ _)m

 紫紺に染まっていく夕闇の薄暗くなった光も遮る樹々の中、微かに燐光を発する若い菩提樹の気根と下生えに、黒い(しみ)が拡がった様な黒とも紫とも取れない菫の影は、風も無いのにゆらゆらとその身を揺らす。

 その影から這い出した黒い陽炎を纏った三体の魔獣達は、現に顕現し終えると多少大小の差異はあれど後ろ脚で立ち上がれば、どの個体もアレンハワードの三倍近くあろう体躯だった。

 それらが体毛を逆立て不気味にどす黒い陽炎を立ち昇らせると、闇に染まりゆく周囲をより暗くさせ、大きく鋭い牙を並べた顎からは地の底から響くような唸り声を漏らす。濁った赤い獣の眼には知性の光は無く、ただ狂気にのみ妖しく濡れている。


 アレンハワードが身を低く構えると同時に、中央の一番大きなモノを残した二頭の黒き獣がその巨躯をしならせる様に、一気に躍りかかり凶悪な爪を振り抜いた。


『グガァ!!!!』


 凶刃の如きぎらついた爪がアレンハワードに触れる寸前、纏った風が防御として魔獣の攻撃をそのまま反射した。それによって起こった渦巻く風に、勢いのまま跳ね返された黒き獣の爪や前脚が引き千切れ、どす黒い血を撒き散らしながら巨躯と共に吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされながらも、痛みを感じていないのか二頭は失くなった前脚を気にもせず、口から泡を吹きながら尚も敵意を剥き出して飛び掛かってくる。薄暗い中、血を撒き散らし自壊しながら何度も躍りかかって来る様は、異様としか言い様が無い。


 アレンハワードは再び肉薄する二頭を見据え、右の掌を握り込む。

 血を撒き散らしていた二頭は、魔獣とはいえ生き物である。当然その体内にある『水』を掌握し、爆散と凍結を瞬時に展開させる。


 途端に巨体をびくりと震わせ、糸の切れた人形の様に(くずお)れる。全ての活動を停止したそれは、地面に慣性の法則のまま砂煙を巻き上げつつ周囲の樹々をなぎ倒して地形を変えながら地を滑り、やがてアレンハワードよりやや後方の左右それぞれで止まった。

 二頭の全身を覆っていた黒い陽炎がその動かない骸からゆるゆると離れ、地を這いずって残った一頭の元に集まっていく。身構えた最後の一頭の元に集まった陽炎が、一層その黒い威圧感を昂らせ、更に低い唸り声を響かせる。顕れた時よりも、遥かに強い怨嗟の念が陽炎とともに立ち昇る。

 かの魔獣が顕現した時よりも、より明確になった目前のアレンハワードへの敵意が、肌に突き刺さるかのようだ。


 低い低い地響きのような、暗い闇い何かの感情が細波のように辺りに広がっていく。


『‥‥カ‥‥‥ノ‥オウ』


 鋭い牙をギリギリと噛み締める様子は、己が牙すら砕いてしまいそうだ。互いが動かぬままのその数瞬だけで、いやまして行く密度の高い殺気は、先の二頭に比べるべくも無い。

 一気に距離を詰めるべく、対峙する二対は身を低くし跳び出した。

 更に新たな風を身に纏ったアレンハワードの動きは、魔獣のそれよりも格段に速い。


 低い体制から後脚の跳躍で躍り掛かる黒い魔獣の上体と、風の障壁を盾として衝突させながら擦り上げる様に浮かせる軌道を取らせる。重力と自重の力を斜め上に逸らせて作った隙間で、練り上げた魔力で創った氷の刃を右腕と共に、下から斜め右上に振り抜いた。

 至近距離からの氷の刃はアレンハワードの手を離れ、黒い魔獣の胸を逆袈裟斬りのように切り裂きながら傷口に吸い込まれる。そのまま氷柱がその大きな背中を貫き、放射状に幾つも花開く。

 びくりと巨躰を震わせた魔獣の口から、白い息が氷の結晶となって零れ落ちた。


 右腕を右斜め上に振り抜いた勢いで、身体を捻るよう上体を倒し左脚に風を集め纏う。腕を着きしなやかに地を蹴り上げ、そのまま魔獣を斬り付けた箇所を左脚で蹴り上げる。


 右手を着いて背面右捻りを決めたアレンハワードの左側へ、三頭目の黒い魔獣は地響きを立てながら森の樹木を巻き込み横転し、それきり動く事はなかった。




 * * * * *



 戦闘行為が終わってすぐ、大きな瞳に今にも溢れ落ちそうな涙を浮かべたルーナエレンが、アレンハワードの左足にしがみついた。途端に左足にじくりと痛みが走る。


「とうさま!くろいの、はやくとらなきゃ!」


 焦ったように珍しく大きな声を出す愛娘の様子に、自身でも改めて足元を見る。

 先程までは何もなかった筈なのに、ルーナエレンが触れ痛みを認識したと同時に『視え』た。


 横たわった魔獣達を覆っていた黒い陽炎が、左足を侵食するように微かに立ち昇っており、愛娘の小さな掌がそれを懸命に払い落とそうとしている。その想いに応えるかの様に、小さな光の精霊達の微かな光が、陽炎を相殺するように少しずつアレンハワードの左足に染み込んでいった。


 一瞬ルーナエレンにも悪影響が有り得るのではないかと焦りもしたが、不思議な事に愛娘に触れられた部分と光の力は、陽炎に侵食される事は無いようだ。


 最後の魔獣を倒す際、凍らせた体内を砕く為風を纏って蹴撃を叩き込みはしたが、厳密にはその時、風を纏っていた筈なので直に魔獣に触れたとは言い難い筈。風の盾の時は、もっと分厚く強固な風の纏い方と展開をしていたし、現にルーナエレンが反応しているのが左足のみ。


 同じ風を使っていても現れた差異を考え、顔を少しだけ背後に向けレオナに視線を送ると、秀麗な眉根を寄せて難しそうな表情で返される。

 それでも何も言わないところを見ると、確信が持てていないのか、若くはルーナエレンの前で言うべきではない内容なのか。

 いずれにしても、泣きそうになりながらも必死で自分の足をパタパタと(はた)いている愛娘に、場違いな程ほっこりする。

 暫くしてルーナエレンが手を止めて、ようやく大きな息を吐いたのを合図に、アレンハワードはふわりと優しく愛娘の柔らかな髪にその大きな手を乗せ、撫でる。自身を見上げてくる紫水晶の大きな瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちていた。

 両脇にそっと両手を差し入れて掬い、その小さく華奢な身体を抱き上げる。


「と‥うさま、いたい‥‥?」


 見上げてくる真っ直ぐな視線を受け止め、胸が暖かく満たされる。

 自然と頬と口元が緩んでしまう。

 顔を近付け、少し赤くなり始めた愛娘の目尻に口付ける。


「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとうエレン。でもね、君の涙を見る方が、父様は胸が痛くなるかな」


 優しくそう微笑まれて、ルーナエレンは泣き虫な自分を恥ずかしく思ったのか顔を赤くする。

 実の親娘でありながら側から見れば甘やかな空気を醸し出していたが、そんな空気など読む筈もない黒髪の少女は静かにルーナエレンに歩み寄り、柔らかな生地のハンカチを差し出した。

 はにかみながらそれを受け取り、顔を隠すようにしながら目尻を何度も押さえていて、ルーナエレンは気付かない。レオナの、アレンハワードに向けるじっとりとした目に。


 それでも、ルーナエレンが落ち着くまでは何も言わない保護者達は、恥ずかしそうに顔を上げる彼女を見てから微笑む。抱き上げている小さな身体は少し熱くて、心なしか大きな瞳も僅かにトロンとしている。

 泣いた後に渡された柔らかなハンカチの感触は、安堵感と疲れを彼女に思い起こさせたのだろう。


「さて、エレン今日は疲れたよね?植えた樹もまだ、成長途中だし先におうちで休んでるかい?」


 どちらにせよ、倒した魔獣に関してもメルヴィンに頼まれた内容は、ルーナエレンに頼る部分が大きい。

 幼い彼女の活動時間はそろそろ限界だ。

 魔獣の遺骸に関しては、レオナが獣の姿にでもなって威圧を少し解放する程度で警戒出来るだろうし、血の臭いは癪に触るが菩提樹の若木から発する清浄な魔力と風の精霊の力で拡散される。


 船を漕ぎそうになりつつも、ルーナエレンは何とか留まろうと頑張っている様子なので、最後に安心させるように一言付け加える。


「レオナが大きくなって見張ってくれるから、今夜はもう危なくないよ。安心して、お休みエレン」


 優しい穏やかな声音で愛娘の額に形の良い唇を寄せ、良い夢をとおまじないをかける。そっと下ろしてやるとレオナがスッと横に立ち、今にも眠ってしまいそうなルーナエレンの手を取った。

 寝かし付けたら戻ってくると視線で伝えて来たレオナは、空間魔法(おうち)へとルーナエレンを連れて消えて行く。


 遠くから、風に乗って微かに宵一刻(午後六時)の鐘が、アレンハワードの耳に届いた。






ぱっぱはサッカー選手でもカポエラ格闘家でもないですが、オーバーヘッド○ック的なアレをイメージして頂けたら幸いです_:(´ཀ`」 ∠):

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