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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
2/150

2,初めてのご挨拶

サブタイトルが浮かばず、さくっと作れません_(:3 」∠)_

  討伐後、ほとんど時間を置かずアレンハワードを追って来た黒髪の少女が、手荷物から携帯用の薬箱を持って警邏隊の側に寄った。

 あまりの急展開に思考が追い付いていなかったであろう警邏隊は、少女にされるがまま治療を受け入れる。


 その間に、アレンハワードに降ろしてもらった愛娘は氷の屑の山に屈み込むと、震える小さな手でその山に触れた。


「ちゃんと、かえってね」


 アレンハワード以外には聞こえない程か細い声で、ルーナエレンは氷の屑山と化した骸たちに呼びかけ、その呼びかけに応えたかのように一瞬で氷は掻き消えた。


 念の為、アレンハワードによる視覚阻害の目眩し効果により、魔物であった存在は通常の消滅の仕方を偽装した為、彼らは誰もルーナエレンが何をしたのか、解らなかった事だろう。


 アレンハワードは愛娘に歩み寄ると、そっと立たせてスカートの裾の土を払い、再び抱き上げる。

 そこで漸く、警邏隊の隊長らしき人物がアレンハワードに向かって深く頭を下げて来た。


「助力頂き、感謝致します。お陰で隊を脱落する者も出さずに済みました」

「いえ、こちらこそ旅の途中の事。見ての通り幼子もいるため、血の臭いで仲間を呼ぶ前にと思いまして」

「ああ、なるほど‥‥」


 不意に現れた力ある存在を探りながら、ゆっくりと歩み寄って来た壮年の偉丈夫は、アレンハワードの返答に少々瞠目する。


 焦げ茶色の短く刈り込んだ髪に、鳶色の瞳で鋭くこちらを見定めようとする相手の視線を感じて、ルーナエレンはビクリと肩を震わせ、対話している最中だというのに父親の首に縋り付き、顔を埋めて隠れてしまう。


「エレン、ほら失礼だよ。ご挨拶なさい」


 苦笑いする壮年の隊長を前に、少し困ったようにアレンハワードは娘の背中を優しく摩り声を掛けた。

 おずおずと、潤んだ大きな紫水晶の瞳で上目遣いになりながら、羞恥心と人見知りを綯交(ないま)ぜにしたルーナエレンは小声で名乗る。


「‥‥ルーナエレンです。こんばんは、さんさいです」


 ふるふると震えながら、懸命に名乗る幼女の凶悪な愛らしさに。

 父親含め、その場にいた全員の表情がものすごい勢いで緩んだ。

 名乗ってすぐ、父親に再び縋り付いた為、酷く緩んだ全員の顔はバレずに済んだのは余談である。


「申し訳ない、娘は人見知りがまだ激しくて‥‥。私はアレンハワード=サリヴァン。旅の魔術師です」

「こちらこそ、怖がらせてしまって面目ない。俺はこの地の第二警邏中隊を預かるアスコット=ファング。丁度部下の治療もひと段落したようなので、助けて頂いた礼も兼ねて、良ければ我が隊の駐屯地にご案内致します。むさ苦しい所ですが、野宿よりはきっとマシですから」


 負傷者の治療を終え、手荷物を素早く片付けて纏めた黒髪の少女も、足音も軽くアレンハワードの元にやってくる。


「ルー様、こちらへ」


 ギュッとアレンハワードにくっついていた幼子は、下からそう少女に声をかけられると顔を上げ、ゆっくりと地面に降ろしてもらうと黒髪の少女と手を繋いだ。

 そこまでを見守っていた男達に、黒髪の少女は頷いてみせる。


「それではご案内致します。少し離れた場所に馬車と馬を隠してありますので」


 負傷者に肩を貸し、一個中隊と旅の親子達は夕暮れの森を移動し始めた。




  * * * * *



 既に一日の旅の終わりに遭遇したのを鑑みても、三歳の少女の疲労は当然のもの。馬車の中で負傷した男達と少し距離を保った場所に陣取った黒髪の少女の膝枕で、ルーナエレンはすよすよと眠っている。それをうっとりと優しい眼差しで、キラキラと艶やかな薄紫の掛かった青銀の柔らかな髪を梳る少女。

 アレンハワードは愛娘の様子と少女を御者台のアスコットの横で振り返って確認し、再び前方に座り直す。


「色々と私達親子に関しては、不思議に思っていらっしゃる事でしょう。混みいった事情持ちなので、探らないで頂けると助かります」


 一呼吸置いて話出そうとしていたアスコットよりほんの一拍早く、アレンハワードは平坦な声音でそう釘を刺す。

 先制攻撃とも取れる一言に、一瞬告げる言葉が見つからなかったアスコットだったが、何となく不信感と言うより止むに止まれぬ事情がありそうだと感じ取った。


 それ程、アレンハワードの魔術師としての力は先刻の一瞬の討伐で想像出来た。

 警邏隊でも魔術を扱う隊員は居るし、自分も少しの支援魔術なら併用しつつ戦闘をするのだから。

 ただ、魔術を扱う程の魔力を有する人材はほぼ中央に集まるし、自分たちの扱う魔術も術式に魔力を流す事で発動するタイプの物が大多数だ。


 魔物や魔素の多いこの大森林を有するマルティエ帝国は、術式を組み込まれた装備や魔道具が多く普及している部類に入る。

 自分たちとて辺境のこの魔の森の警邏を預かる身。魔物との戦闘にも慣れてはいるが、あそこまでの圧倒した実力は見た事がない。

 しかも片腕に小さな女の子を抱え、使ったと思われる魔術は氷のみ。

 精度も技術も威力も、アスコットの立場や身分では見たことも無いが、きっと魔術師の頂点たる宮廷魔術師にも勝るとも劣らないに違いない。


 そんな魔術師が、まだまだ庇護厚く養育されて然るべき幼い自分の娘を連れ、旅暮らしをしているとなると。

 迫害や嫉妬、陰謀に巻き込まれたのだろうか。


 魔術師当人の人柄は、若そうな割に意外と会話の隅々から隙のない性格が見て取れる。戦い方にも血を全く流さなかった事から、慣れや思慮深さ注意深さが分かる。

 外見としてもスラリとした長身でありながら、身体能力的にも剣士程ではないが身体の厚みもあり、魔術一辺倒という訳でもなさそうだ。

 ただ、この帝国にはない青銀の艶やかな絹糸の髪を首の後ろで一つに結い、背の中程まで流している。

 女性なら目を奪われる事間違いなしな、整った顔立ちに切れ長な目、髪と同じ色合いの長い睫毛に縁取られたそこには心を魅了して凍りつかせるようなアイスブルーの色があった。


「‥‥分かりました、助けて頂いたご恩もあります。詮索は致しませんが」


 アスコットはアレンハワードを観察して、そこまでを口にし。

 一度言葉を切ってから、真摯な目を恩人の青年に向ける。


「報告は我らの義務。今日は負傷者も出ているので、領主様まではお話頂く許可を頂きたい」


 アスコットの義理堅い真面目な性格を垣間見たアレンハワードは、苦笑いを返しながら頷いて見せた。

 旅での出会いは、今の所良い出会いであるようだ。


 

お読み頂き、ありがとうございます!!

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