19、合流地点での遭遇
遅くなりました。
うん、スランプでござる_:(´ཀ`」 ∠):
メルヴィンの菩提樹の元からロックバードが三人を載せて飛び立ったのは、陽の三刻半位だっただろうか。
昨日の夕方、警邏隊とブラックハウンドに遭遇した付近の上空には、先行した雀鷹が旋回して待っていた。
ロックバードによる空の旅は、魔の森の秋の彩濃い景色が目紛しく移り変わる事で、本来風圧で吹き飛ばされるであろう速度が出ているのが判るが、アレンハワードの懐に抱え込まれて居る恩恵なのかルーナエレンは初めての上空での経験に時間を忘れていた。
馬車でアスコット達と要塞に向かった時とは比較にならない程に短時間で、昨夜に本来野営地にしようとしていた少々拓けた場所に辿り着く。
ふわりと風を纏って地上に舞い降りたロックバードが、くるると喉を鳴らしながらゆっくりと身を屈め、三人を背から降ろすと一声高く鳴く。
そのまま三人が少し離れたところで、ふわりと再び風を纏って飛び立った。
「ありがとー!」
滅多に出さないであろう大きな声で、ルーナエレンは飛び去っていくロックバードにお礼を言っている。余程空の旅が楽しかったに違いない。見えなくなる迄手を振っていたが、飛び去る速さもあって直ぐに見えなくなってしまった。
そうして、一行は気を取り直し周囲を確認する。メルヴィンとの待合せ場所はここで合っている筈だし、指示された下準備が必要だ。
レオナに先に夕食の用意をして貰う事にして、アレンハワードはルーナエレンがメルヴィンから受け取った種や木の実が沢山入った小さな巾着を取り出した。それをそのまま足元で見上げて来る愛娘に手渡す。
「エレン、この中から植える種がどれなのか、分かるかい?」
「えっとね、まってとうさま。‥‥ん、これ」
ごそごそと巾着に小さな手を入れ、暫く探っていたルーナエレンだったが、直ぐに事前に説明されていた種を探し当てたらしい。小さな掌の上に、植物の種の形をした親指大の鉱石の様なモノを載せていた。屈み込んで愛娘の掌を覗き込んだアレンハワードは、植物としては不可思議な種をまじまじと見る。
「これを植えるように言ったのかい?」
「うん、りょうてでつつんで、すこしあたためてから、はんぶんうまるくらいあなをほって‥‥‥なんだっけ」
「温める?」
「うん、ふくろからだしたら、エレンしかさわったらダメって、オネエさんいってた」
アレンハワードは少しの間顎に手を当て、メルヴィンの指示に考えを巡らせる。
植えるように言われた種は、普通の植物の種では無い。聖域に生えている聖霊樹に近い質感を感じるが、種の外殻はまるで無機物だ。大きさも、幼児とはいえルーナエレンの親指大という大きさであり、博識であると自負が多少あるだけに、些か不可解な心持ちだった。
「まぁ、あの菩提樹の妖精がエレンに変なモノを渡すようにも思えないしな。良いよ、やってみようかエレン。植える場所に指定はあったのかい?」
「ばしょ?ええと、きいてない、かな」
そうか、と言いつつ愛娘を再び抱き上げると、アレンハワードは静かに周囲に視線を巡らせる。小さな両手で先程の種を包み込み、ルーナエレンも一緒に周りを見回した。
「あ、とうさま。あそこがいい」
「うん?」
夕食の準備を進めるレオナとは反対側の、拓けた場所から少し外れた朽ちた倒木が下生えに埋もれかけた、比較的低い木が疎に立っている所だった。見るからに種を植えるには適さないであろう処だが、ルーナエレンはするりとアレンハワードの腕から地面に降り立つと、自分の膝丈程ある下生えの茂る場所を目指して駆け出して行く。
ルーナエレンが近くにつれ、微かな笑い声と囁くような何かが聴こえてくる。
「ああ、成る程。ほんの少しだけど、此処には居るんだね」
殆どアレンハワードの独り言の様な呟きが、微かに風に乗った密やかな笑い声に紛れ確信する。
きっとあの種の外殻は、ドライアドかこの地に縁がある魔力の塊だ。それをルーナエレンの魔力で解して真綿の様に纏わせ、内包された種にも植える土地にも十分な栄養を与えるのだろう。その分きっと、発芽する植物は特殊で魔素を多分に含んだ、ドライアドや他の妖精や精霊などの拠り所と出来る立派な樹木になるのではないだろうか。
そんな事を考えながら、ルーナエレンの後ろ姿をゆっくりと追う。
下生えが茂る場所に差し掛かる頃には、いつの間にか半透明の小さな色とりどりの蝶々がルーナエレンを取囲み、導く様に足元の草花が静かに道を造った。
西陽も樹々に遮られ、徐々に暗くなり始めているにも関わらず、小さな蝶々の淡い光のお陰で目的の倒木まで然程時間はかからなかった。
「とうさま!このあなは?」
「洞があるね」
ルーナエレンの言葉に導かれるように、蝶々がふわふわと倒木の洞に群がってゆく。僅かに苔に覆われていたその洞に蝶々達が触れる度、苔は瑞々しい濃い緑色になった。まるで、ルーナエレンがここに種を植えるのを手伝ってくれているかの様だ。
ただ問題点は、倒木は元はかなり幹の太い立派な樹木だったらしく、ルーナエレンの身長よりやや低い程度の太さであり、その洞は幹の丸みも相まって種を植えるような作業を自力では出来そうにない点だろう。
勢い込んで背伸びをした処でその問題点に気付いたルーナエレンは、振り返って若干潤んだ瞳をアレンハワードに向けた。
苦笑いしながらそっと愛娘の身体を、両脇を支えて持ち上げてやり、満足気にルーナエレンが種を植える作業を見守ってやる。
そっと開いた小さな両手の掌で温めた種は、夕陽を連想させる様な、淡い橙色とも琥珀色とも云える様な光を纏っていた。
* * * * *
親娘で種を植えてから、すぐにレオナに夕食だと呼ばれてその場を離れ、早めの夕食を終わらせたのが陽の四刻になったばかりの事。
片付けを終え、何気なく先程種を植えた倒木へ視線を向けた三人は、一瞬目を疑った。そして、保護者二人の視線がルーナエレンのふわふわした淡い紫がかった青銀の頭の上で交差する。咄嗟のハンドシグナルが頭上で交わされていたが、ルーナエレンは視線の先の状況から意識を外せない。
(あいつ物理で絞る)
(場合によっては、許可)
保護者達には、ルーナエレンと契約もしていないのにも関わらず、メルヴィンが己の分体とも云えるモノに質の高い魔力を断りもなく利用した事が判ってしまったからだ。その利用にどうしても外せない必要性があり、魔力の持ち主に許可や利用の説明があればまだ良かったのだが、逆にこの保護者の脅威を身に染みて理解出来ているからこそ、ルーナエレンにのみ指示を出し、他の者に触らせるなと言ったと思われる。
結論として、ルーナエレンに渡された種は、正真正銘メルヴィンの菩提樹の種であった。だが、ルーナエレンの特殊な魔力を栄養源としている為か、成長速度が異常に早い。
ぐんぐんと建物の一階分程の大きさに育った菩提樹は、種の時に自身を覆っていた淡い橙色と琥珀色の間の様な光を樹の幹に宿し、薄暗くなって来た周囲に比べて樹自体が発光していた。
最初は幻想的で不思議な光景として、紫水晶の瞳をキラキラさせて成長を見守っていたルーナエレンも、次第に頭上に疑問符を浮かべる様な表情になっている。光の色合いも淡くて暖かい筈なのに、何故だろうか。何かが違うとしか言い様がない不安に駆られる。
「とうさま‥‥なにかきこえる!」
「!!」
微かに脳裏に響くか細い声のような音、それが宿した仄暗い感情。まだそれらをその身に宿した事もないルーナエレンには理解出来ないそれらだが、本能で負の感情を感じ取り思わずアレンハワードの腕に縋り付いた。不穏な雰囲気のみ感じ取っていたアレンハワードも、愛娘の接触により彼女の感じ取っていた何かを強く感じ取り、咄嗟にレオナを呼ぶ。
「レオナ!エレンを頼む!」
すぐさま背後からレオナがルーナエレンを抱きかかえ、数歩跳ぶように下がった。
それからほぼ同時に、倒木と下生えの間に赤黒く燻んだ菫の花が影の様に咲き拡がる。アレンハワードの脳裏に直接、怨嗟の詠が大音響で木霊する。
脳裏へ直接の攻撃とも取れる怨嗟の詠のせいで、拡がり続けていた赤黒い影から次々と顕れた、三頭の黒い獣達の気配に咄嗟に気付けなかった。
怨嗟をそのまま体現した様な暗い陽炎を立ち昇らせたその獣達は、低い唸り声を挙げながら、倒木の影からずるりと躍り出る。その姿は悠に、洞から芽を出した菩提樹よりも大きかった。
我が家のちびっ子達の臨時休校、5月まで伸びちゃいました_(:3 」∠)_ イヤん
事ある毎に、手洗いを連呼しております!
次回は、少しは動きのあるお話が書けると良いなぁとか思ってます。
よろしくお願いします٩( 'ω' )و




