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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
三章
150/150

150、残滓

 


 直接念話で会話が可能になったグランジエールとルーナエレンは、最初はややぎこちなく、けれど元より通じ合った部分がそうさせるのか、少しずつ会話を重ねていた。


 最初は二人の様子をやや気にして見守っていた保護者たちも、特にどちらかへのサポートは必要ないと考えて自由にさせている。


 何よりも、直接自分の言葉でやり取りをする事により、的確に意思の疎通と感情を伝えられる事が嬉しくて楽しいのであろう二人の間にある空気感までが、なんとも微笑ましかった。


 野暮な介入はすべきでは無いだろうと判断したアレンハワードが、ニヤニヤと愛娘達を観察しようとしていたレオナルドの首根っこを掴んで引き離す。


 大人達はその間に念の為、子供達から離れた場所でアレンハワードが持ち帰った翡翠色の小さな珠を調べる作業を開始した。


 残滓とはいえ万が一にも変な邪念や執着を、幼子達に向けられてはたまらない。


 主にルーナエレンはレオナルドという実例付きで特殊な存在を惹きつける吸引力が天元突破しており、グランジエールに関して言えば興味と偶然双方で高確率で口にしてしまう実績を持つ。


 なるべく接触はさせたくないのがアレンハワードとレオナルドの本音だった。


 必然的にルーナエレンが来ないレオナルドだけの領域としている、図書室の中央螺旋階段最上階、尖塔のエリアへアレンハワードはその場所の主を引き摺ってゆく。


 今回に限りメルヴィンとの連絡用にメイヴィスが同行を許されており、彼女は気配を完全に消した状態で螺旋階段の最上階へ至るとすぐ横へ移動し静かに控える。


 弁えた行動を取るメイヴィスに満足気なレオナルドは自分の愛用のソファーへゆったりと腰掛け、向かいに座ったアレンハワードに視線を向けた。


「メイヴィスより格が低いものは通さない程度にはしてある。出していいぞ」

「ありがとう。では、調べようか」


 愛娘ほど物に残された魔力から様々な情報を読み取る能力は高くないが、自分の中に眠る膨大な記憶と知識、それから自分に味方してくれる小さな精霊が満ちた空間魔法の内部の領域。

 更にその中でも()()()()()の空間内。


 自分が語り掛けるだけで、様々な様子が走馬灯のように脳裏に駆け巡る。


 断片的な情景から、時代背景や環境、そして関わる人物や種族を垣間見て文献や記憶を照らし合わせ、照合する作業を繰り返す。


 翡翠の珠を両手で握ってやや俯き長い青銀の睫毛を伏せて没入するアレンハワードを、黙ってレオナルドが寛いだまま見守る時間が暫く続き、ふぅと深く息を吐くと同時に翡翠の珠を再び収納に戻してしまう。


 一言で言ってしまえば、人魚族とは同族だろうと他の種族にだろうと多情で執拗な気質らしい。

 垣間見た幻獣の幼体と遭遇した曰くの人魚は、無責任に愛玩し執着し己が何者であるのかすら分からぬ状態にしてしまっていた様子が見えた。


 その辺りで既にアレンハワードの地雷そのものな存在だったのだが、調べると言った手前これで切り上げるわけにもいかない。


 幻獣と人魚の出会った場所や、その周辺に同種の存在があったかどうか、珠に混じる魂の残滓からそれぞれ、強い残留思念のようなものを拾い上げた。


 と、途端に激しい吐き気に見舞われる。


「う‥‥」

「アレン!無理はするな!!」


 一気に白い顔を青白くさせ、迫り上がる胃液を押し留めようと努めるアレンハワードの横に瞬時に移動し、レオナルドは労るように彼の少し丸めてしまった背中を摩る。


 暫く吐き気が治まるまで静かに背中を摩ってから、荷が重かったかと眉を寄せて思案するレオナルドだったが、何とかアレンハワードは自分の感情との折り合いを付けた様子で、少々ぎこちないものの薄く微笑んで見せる。


「ああ、ごめんねレオナルド。‥‥もう、大丈夫。はぁ、思った以上に生粋の人魚とは性質が相容れないらしいよ」

「ほう、多情とか変態とか粘着質とかは聞いたことがあるが」

「‥‥‥その認識は、概ねで合ってるみたいだよ」

「まじか」


 口内をサッパリさせる清涼なハーブティをメイヴィスがすぐ様用意して、ローテーブルに供される。

 それを一口含んでゆっくりと嚥下したアレンハワードは、カップを置いて眉間をキュッと抑えた。


「まぁ、その辺りはメルヴィンも言ってたな。で、幻獣はどうなんだ?」

「幻獣はそうだね、あまりにも幼い状態で歪まされていたよ。ただ、歪んでいたけれど幼さ故に純粋で‥‥そんな折に君がその、水の制御を崩壊させたようだ‥‥ついでに、本来の姿というのかな、それも目撃してたみたい」

「お?んん‥‥?そうだった、か?」


 未だ気分は優れないのだろう様子ながら、アレンハワードは断片の情景に立派な体躯の艶やかな黒き獅子が翼を広げる荘厳で雄大な姿を垣間見た。


 己の猫の姿と似て非なる、神々しく圧倒的な力の象徴を今際の際の状態で見たことにより、歪みつつある魂に焼き付いたのだろう。


「幻獣でありながら、自覚のないほぼ仔猫のようなものだったそれは、人魚の執着の塊を首の後ろに埋められていたようでね。それにより、溺れず生き残ったのだろうね」

「あの均しで幻獣程度が生き残り、人魚が水に飲まれて行方不明になる‥‥つまりあれか?うちの愛息子が口から噴水したアレは、その人魚の人魚たる所以の何かをパックンチョした??」

「‥‥‥ということになるのかな」


 ギデオンが逆さまにして吐き出させようとしたのは、とても優れた危機管理の感覚を持っているという証明に他ならない。

 その件に関して特別報酬を渡す事も辞さない心算の父親達だが、きっと彼は微妙な顔をするのだろうと想像が出来てしまう。


 苦々しい気分でその後の流れに自分の予想と状況との照らし合わせた結果を、淡々と告げる事にする。


「人魚からしては目印と絆というつもりだったのだろうけれど、自分が想像以上に力を失ったのではないかな。そして仔猫は自らではない力を得た上、強烈な憧憬を黒と翼と猫というものに抱いて歪んだまま突き進んだ」

「あー‥‥‥オレってば罪な男ぉ」


 茶化してくるレオナルドの言葉を黙殺してハーブティーをもう一度口にし、アレンハワードは喉を潤してから話を続ける。


「後は、そうだね。かの幻獣は彼の記憶によると、空間魔法(ここ)よりもかなり下層の住人らしいね。記録にはあまり出現例はないけれど、フェイトリネアだけは最初の絆の成せる技なのか極僅かに逸話が残ってる」

「そいつだけしか出てきてないってことか?」

「かなり過去に遡れば、あるにはあるけれど」

「ふぅん」


 あまり興味がなさそうな素振りだが、レオナルドの事だ。

 アレンハワードの記憶や記録だけに頼らず、この後一人で例の下層へ赴くのだろうと考えられる。


「もし、まだ下層にそれらが存在していても、敵対しないのであればそっとしておいた方がいい」

「何でだよ、落とし前は必要だろ?」

「下手に厄介な相手を増やすことはないと言っているんだよ。エレンの為になるならいざ知らず」

「ふむ、役に立つなら?」

「‥‥‥要相談。忘れないでくれるかな?私との約束」

「ホウレンソウだろ?!覚えてるから!」


 アレンハワードの麗しい(かんばせ)に僅かに苦味が混じると、慌てたようにレオナルドは約束の合言葉をノンブレスで言い放つ。


「現地の目撃例はメルヴィンにお願いしたなら、追々連絡があるだろうから。君に私から言えることは、彼らケット・シーの種族特性が隠遁と影属性と伝えておくくらいかな」

「へぇ、珍しい属性だな」

「そうだね、レオナルドなら遅れは取らないと思うけれど。やり過ぎはダメだと理解してる?」

「はいはい」


 真剣味が足りない返事を返す、正面に座った黒髪の美丈夫の表情を(つぶさ)に観察しつつ、アレンハワードは絶対に何かしでかすのだろうなと少々胃が痛むのだった。







お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


変態人魚と傲慢俺様仔猫のお話をぼかしてますが、要は変態なので。

ただ、人魚さんも幻獣も、子作りとかは肉体に依っているのかはあやふやにしております。


逆光源氏計画?!( ゜д゜)

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