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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
15/150

15、出立

遅くなりました。

皆さまコロナウイルスの影響で、大変だと思いますがご自愛下さいね。

私も幼い息子たちが休校で自宅で暴れまわってて、なかなか執筆出来ません(泣

手洗い、大事!!

 メルヴィンを送り出した後、アレンハワードはルーナエレンを抱き上げたまま周囲の風の小妖精に案内を頼み、アスコットにのみ会いに行く。その間レオナは厨房へ、夕食を包んで貰えるよう伝えに向かう。

 未だ移動中の領主の説得が出来ていないのか、要塞の内部で本来の使者がアレンハワードに接触をしようとしている気配がする為、急遽日暮れより余裕を持って出立する方針に変更したのだ。


 風の小妖精に風で気配を撹乱して貰いつつ、第二警邏隊の詰所へ滑り込む。


「ファング殿」


 事前に隊員達の訓練中、隊長二人が交代で執務に戻るタイミングを確認してあった様に、室内には急な来客にアスコットが鳶色の目を瞬かせた。

 急ぎ来客に立ち上がろうと、腰を浮かせかけた部屋の主人を片手を軽くあげて制する。


「そのままで。我々は、もう発ちますので、ファング殿にはご挨拶しておきたくて」


 使者達との昼食会で冷ややかな終わり方をしていたし、出逢った際に事情を深く聞かない約束も個人的にしていたアスコットは、結果として約束を守りきれなかった事に、胸に僅かな澱みを抱えていた。

 今回の討伐を経て、辺境騎士団の駐屯の先触れと同時に、騎士団内から上役が使者として訪れるとしか聞いていなかった。それが、蓋を開けてみれば領主の実弟の騎士団長と、執務官の頭が自ら出向いて来たのだ。この親娘の事情とやらを詳しく聞いたら、きっともっと話が大きくなる確信が今なら持てる。

 それを、彼等は望んでいない。恩人のそんな心情を察したからこその、申し訳なさ。

 自然とアスコットのやや厳つ目な顔は、眉が下がって情けなく気落ちしている様に見えただろう。


 アレンハワードに抱き上げられていたルーナエレンは、アスコットと出会った時に感じていた近寄り難さがその表情で少し薄くなったのか、するりと父親の腕から降りて、アスコットに向かってトコトコと近付いた。執務机を迂回して、大人二人に見守られながらすぐ脇まで来たかと思うと、長い睫毛に縁取られた大きな紫水晶の瞳を少し潤ませて、アスコットを見上げた。


「ないちゃって、ごめんなさい。えと、おせわに‥‥なりました」


 幼く可愛らしい声音が、か細いながらもしっかりと謝意とお礼を伝えてくる。

 テテテと小走りで父親へと駆け戻り、恥ずかしさからか顔を真っ赤にして足に抱き付いているその姿に、やや緊張感のあったその場の空気が惚けたものに様変わりした。


 アスコットは柄にもなく、顔を赤くして肩を震わせ、口元を手で押さえて内心悶えた。そしてややあって、正気に戻る。腑抜けた表情を客人であり、この少女の父親の前で晒してしまったと気付いたのだ。

 恐る恐る視線を少女からアレンハワードへ上げると、そこには心底愛娘を可愛いと思っているに違いない、この上無く微笑ましい眼差しを自らの足元に向け、口元を優美に綻ばせた美青年が居た。




 アスコットに別れの挨拶を済ませて執務室から退出すると、すぐにそのまま厨房へ向かう。先にレオナがお弁当を用立てて貰う為に、厨房へ出向いていたので合流する。

 すでに夕食の仕込みで厨房内は賑やかになっていたが、レオナが話をつけてくれていたお陰で食堂の目立たない隅のテーブルに、兎耳の年配の女性と若者が待っていてくれた。

 それに気付いたルーナエレンは、再びするりと腕から降りて、二人に駆け寄る。


「おばさま、おにいさん!おいしいごはん、ありがとうございました」

「まぁまぁ、御丁寧に有難うねぇ。もう出立されるのかしら?」


 すぐ側まで駆けて来て見上げてくる幼い少女に、ニコニコと微笑みかける女性の言葉の後半は、少女の背後に立つ青銀の青年に向けられていた。穏やかな表情で、年配の兎耳の女性は夕食の入ったバスケットをアレンハワードに手渡しながら、小首を傾げている彼女に静かに頷いて見せる。


「小さなお嬢様には、小さめのパイと柔らかくしたお野菜のクレープ焼きもご用意してますからね。道中お気を付けて」

「ワイルドボアのベーコンの塊と、腸詰め、こっちに包んでます。味が濃いけど保存がちょっとは利くので、お持ち下さい。それから、さっき焼き上がったばかりのパンも」


 兎耳の若者は、レオナに油紙で包まれた肉の塊を納めた一抱え程の木箱と、その上にパンの入った袋を乗せて手渡してくれる。心なしか、彼の白い兎耳がピンク色に染まっている気がするが、敢えて誰も突っ込まなかった。




 * * * * *



「エレン、おいで」


 挨拶を終え、食堂からそのままメルヴィンの菩提樹がある水場に向かう。

 この場所ならば、小さくとも多く妖精や精霊が居る。彼らの助けがあれば、アレンハワードが多少何かをしても、上手く隠してくれる。


 陽が少し傾き始めた薄雲の広がる空を見上げていたアレンハワードは、左腕を少し上げてから愛娘を呼び寄せた。


「?」


 おいでと言われて、小首を傾げながらすぐ足元までルーナエレンがやって来た時には、何処からともなく雀鷹(ツミ)が上げられた腕に留まっていた。それを見上げて、分かりやすく瞳を輝かせ始めた愛娘にクスリと笑う。


「迎えがね、来たって知らせに来てくれたんだよ?」

「わぁ‥‥!」


 そう話している間に視線の先の空がみるみる翳り、大きな動物の影と羽音が迫ってくる。風を孕んだ大きな翼が、土埃を舞い上げてしまいそうなのにも関わらず、巨大で立派な鳥はふわりと三人の前に降り立った。

 どこか得意げな様子で、くるるると喉を鳴らしている。


「ほぉ、ロックバードの変異種?」

「うん、龍の背骨の背後の岩山にいるって、この雀鷹が教えてくれてね。移動手段として、乗せてくれるそうだよ」

「‥‥‥おおきいねぇ!」


 世間知らずなのか血筋なのかは定かではないが、ルーナエレンはやって来た目の前のロックバードを怖がる様子はない。鋭い嘴も猛禽類の目も、大人でも裕に四人も乗れそうな巨体も、畏怖には値しない様だ。

 目を満ん丸にして見ている間に、先程の雀鷹は再び空に舞い上がり、上空を旋回している。


「案内してくれるそうだから、もう行こうか。エレンは父様の前」


 こくりと頷き、アレンハワードに向かって両手を広げると、ひょいっと抱き抱えられる。そのまま身を低くして待っているロックバードの背に飛び乗ると、すぐにレオナも後ろに飛び乗った。荷物はいつも通り、空間魔法(おうち)に入れてある。

 普段着の質素な生成りのワンピースに、今回レオナが初めて用意してくれた旅装のボアに縁取られたフード付きの外套を羽織り、空を舞う期待にわくわくしながらアレンハワードを見上げる。今までは幼すぎた故に、旅程の道はほぼレオナとお留守番状態が多かった為、ルーナエレンはきちんとした旅装は持っていなかった。

 三歳の誕生月を迎える直前の夏の最後に漸く、外の世界への興味と勉強の為に少しの時間、旅を体験し始めたのだ。この三ヶ月ほどで少しずつ外で過ごす時間が増えてきたところだったのだが、その矢先に今回の討伐に出会してしまい、なし崩しに初のお泊まり体験となった。


 もっともっと、ルーナエレンを隠したまま大事にしていたかったと思わなくもない保護者達だったが、思っていたよりも外の世界に刺激を受け、目紛しく成長しているのを感じる。それに、もう閉じ込めておくのは無理であろう程、今のルーナエレンの紫水晶の瞳は未知の冒険にきらきらと輝いていた。

 そして、外の世界で過ごす新しい刺激は、彼女の成長には必要不可欠。


 それならば、出来るだけ一緒にいて、たくさん笑顔で過ごしたい。

 それがアレンハワード、レオナ、ルーナエレンの三人の共通の、強い想いだった。


 バサリと力強い羽音が数度聞こえたかと思うと、風の魔力を纏ったロックバードは大空へと舞い上がった。





次回は、メルヴィンvs領主のつもりです。

会話通じるといいよね。。。。

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