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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
三章
149/150

149、安息

 

 一夜明け、白熱した議論を纏め一仕事終えた大人達は寝不足ではあったものの、翌朝元気良く上階から駆け降りてきたルーナエレンの姿を見た事によって、寧ろ通常よりも活力を得た状態と言えた。


 キッチンにて軽く朝食の準備を手伝った後、揃ってダイニングにて食卓を囲む。


 その中にはギデオンやグランジエールも居て、ルーナエレンは終始ご機嫌だった。


「おはようエレン、昨夜は遅くに驚かせて悪かったな」

「おはようレオナ。エレンゆめだとおもってたから、おきてびっくりしちゃったの」

「なぅん」


 相槌を打つように可愛らしい仔猫の鳴き声がしたので、保護者達が一瞬ぴくりと肩を震わせるが誰も何も言わない。

 だが、心の中で「お前流暢に話せてただろ!」と全会一致の声を上げていたのだが、ここは幼い男の子の矜持を守る為、ぐっと我慢し平静を保つ。


 きっときっかけが必要だったりしたのだろうが、昨夜ベタベタに甘えてしまった手前言い出し辛くなっていると簡単に予想がついた上に、仔猫の可愛らしい声音をルーナエレンも殊更に好んでいると皆が理解してたので指摘もし辛い現状である。


 ただ、ルーナエレン以外が普通に念話でグランジエールと会話をしているシーンを彼女に目撃された場合、本人達が気不味くなる可能性が大なので、早めの決意なりが必要なのは後ほど念を押さねばならないだろう。


 ルーナエレンが気付かない角度から、レオナルドがその意思を込めて青の瞳を僅かに眇めて黒く微笑めば、ぷいと仔猫がソッポを向いた。

 が、そのソッポを向いた先のギデオンから生緩い視線を向けられ、ほんの少し髭を下げた。


 グランジエールはそれらを大人達の激励としてか冷やかしとしてか測りかねたものの、取り敢えず現状維持はまかりならんとだけは状況を理解する。


 そろりとコニーの様子を仰ぎ見て伺えば、紅玉のクリリとした瞳がこちらを向いていて。

 こくり、と静かに頷かれてしまった。


 どうやら記録の魔導具の編集は既に終わらせており、上映会も待ったなし。

 景色などの観光としての記録のみであれ、解説をするなりすれば自然だろうという気遣いを感じられた。


「こにたんしごできい!」

「君はどこでそんな言葉覚えてくるの」


 場違いに感動するレオナルドの声とアレンハワードの至極最もなツッコミが、この後の動向を決定付ける。


「なぁに?もうじょうえいかいできるの??」

「ああ、そうだよエレン。こにたん頑張ってくれたって!」

「ほんと?!はやくたべなきゃ!コニーありがとう!」


 外に出られるようになった途端の冬籠にそこまでの不満を持っている訳ではないルーナエレンだったが、グランジエール達のお土産や観光にも通じる様々な外の様子を綴った映像は、コニーの編集技術によってかなりの水準に達しているエンターテイメントとなっていた為、とても楽しみな催しになっている。


 勿論すぐ側にグランジエールやギデオン達が揃っている状態でそれの解説が加わっている為、余計に楽しめている事も理解しており、皆の無事があるからこその楽しみだと先週頬を染めてお礼を伝えていた。


『わたくしが食後のお片付けは承りますわ。皆様、いつもの場所に後ほどハーブティをお持ち致しますので、そのまま移動なさっては?』

「メイヴィスの言葉に甘えるか。ほら、カーターも」


 はしたなくならない程度に急いで朝食を終えたルーナエレンがグランジエールを抱っこすると、メイヴィスがにっこりと微笑んで皆を図書室へと送り出し、レオナルドがその最後尾に立つ。


 そしてそっとメイヴィスに確認の目配せをし、若草色の少女は不自然にならない程度に深く頭を下げて見せる。

 メルヴィンに下した命令と指示は、きちんと姉のメイヴィスにも伝わっていると理解して。

 レオナルドは、鷹揚に頷きを返して図書室へと歩き出す。


 これで週末の間に彼方で何かしらの動向があれば、問題なく伝わるだろう。









 * * * * *






「はぁぁ、ケルピーってこわくないの?すごいちからもちだよね?おふねっておもいんでしょ??」


 破壊の映像は流石に事案記録として編集されているので、観光用の方には残されていない。

 グランジエールとの鼻ちゅーだったり、船の先頭から力強く船を曳く海馬の姿、船上からのやや離れた街並みや中洲の様子を見たルーナエレンは、興味津々でギデオンに向かって質問を投げかける。


「そうですなぁ、あやつらは元々魔獣じゃがの、契約主とはある意味親子みたいな関係と思っとる。フェイトリネアでは力のある妖精種と契約をした事で、ずっと使役獣のような存在にはなっとるが。若さまほどの格の魔力や存在は野生の部分が畏怖を持たせる故、この挨拶ですっかり大人しくなったという訳ですわい」

「へえぇ、すごいんだ」


 ニコニコと解説やグランジエールの活躍をギデオンから聞き、終始ご機嫌そうな様子の膝の上の仔猫を撫でる愛娘に、アレンハワードは勿論のこと、レオナルドもカーターも釣られるように柔らかい表情を見せる。


「まだ水上は寒うございますからね、お嬢様が現地に向かわれるのはせめて再来週くらいかと」

「おそと、さむい?」

「フェイトリネアはほぼ水の国だからね、隣国のマルティエは温暖だけれど、それよりぐっと気温が低いんだよ」

「左様で御座います、お嬢様がお風邪を召してはなりませんから」

「えー‥‥そうなの?」


 膝上のグランジエールに問いかけるも、ふわふわでもふもふの毛皮を常備している上に空間の遮断も簡単に行う仔猫なのだ。こてりと首を傾げてルーナエレンを見つめるのみ。


 微笑ましい姿を目の当たりにして、思わずアレンハワードが笑いながら補足をしてくれる。


「グランジエールは今は寒さは分からないんだよ。だっていつもふわふわであったかいだろう?もう少しして転変出来るようになった時は、エレンがお洋服での温度管理を教えてあげる必要が出るかも知れないね」

「??」

「一緒に選んであげたらいいよ」

「おようふく、きられるようになる??」

「そうだよ、ああでもコニーみたいな感じじゃないよ?エレンと同じ、人の子供の姿に恐らくなれるはず」

「ええ?!」


 ガバッと膝上の仔猫に視線を向けるも、あまりにも現実味が湧かない。

 全く想像が出来ないでいるルーナエレンだったが、僅かに髭を下げ不安そうな彩を花緑青の瞳に浮かべたグランジエールに、父の言葉が本当であると実感する。


『‥‥猫じゃなくなったボクは、嫌い?』

「きらいじゃない!‥‥‥え??」

『ごめんね、お話し出来るようになったんだけど、勇気が出なくて』

「そう‥‥なの?」


 急に始まった愛し子達のやり取りを、保護者達は静かに見守る。


『だって、最初ボクは君を傷付けたくないからこの姿になったのであって、本来は牙や爪がもっと剥き出しだったよ』

「うん、エレンおぼえてる。あのときは、ごめんね?」

『謝らないで?ボクの方が、ごめんね?』

「ううん、ううん!ちゃんとみえたから、おこったりしてないの」


 そこまで言うと、ルーナエレンは膝の上で少し所在なさげに不安気に見えるグランジエールを、小さな腕にギュッと抱きしめる。


 あの地下深くで昏い想いに染まっていた雛の心の痛みが、今は綺麗な彩でいっぱいになっているのが視える。


 ルーナエレンはグランジエールの治療中の記憶があまり残っていなかった。

 いつも自分の治癒の魔力を無意識に放出していて、全身全霊で癒していたから。


 アレンハワードが傷付いた時と同じくらい、必死だったのは覚えている。


 当時は庇護する気持ちと罪悪感で、そこまで深く考えていたわけではなかったけれど、同じく父親とその子供として二組の親子みたいな過ごし方をし、同じ幼い子供としての扱いを受けるうち。

 初めての、同じ子供としての連帯感や共感があったのかも知れない。


 それが、姉弟的な感情なのか幼馴染的な感情なのかはまだ分からないけれど。


 初めての、同年代らしき絆だった。


「あらためて、よろしくね?ルーナエレンです」


 ふわりと可憐な花の蕾が綻ぶように、ルーナエレンが笑う。


『改めまして、よろしくね?ボクはグランジエール』


 自然と二人がおでこをくっつけ合い、ふんわりと笑い合った。










お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


大人達めっちゃ空気!

プルプルしながら口を押さえて頑張ってたかと思います、主にレオナルドが!!!

よく耐えた(笑)

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