148、対処其の3
一方的な話し合いの結果人魚の女王を本来の領域に強制送還し終えたレオナルドだったが、実は今回の騒動は大元の原因になっている要素だけを誘き寄せ排除しただけであり、実は頭を取っ払った結果というか影響がまだはっきりとしていない事実には気付けていなかった。
なので、早速帰還しようとしたタイミングでアレンハワードがメルヴィンに向かって尋ねた言葉に、一瞬動きを止めざるを得ない。
「この地域にケット・シーは?」
『うちにはおりません。西もあまり‥‥』
「ということは、水の国だけ?」
『ええ、恐らく‥‥』
怪訝そうに眉宇を顰め、レオナルドはアレンハワードの様子を伺っているが一刻も早く帰還したいのだろう。
何の話か今ひとつ理解していないらしく、小さく首を捻ってこちらを見ているのみ。
少し微笑ましく感じたアレンハワードはふっと息を漏らすように小さく笑うと、眉間に皺を寄せた相棒に近付き皺を寄せたところに人差し指をぶすりと押し込んだ。
「ってぇ!」
「いつもの君はどこに行ったの。もう少し冷静さを戻さないといけないね」
「んだよ、オレは別に」
「有翼の黒様」
「あ"?」
忘れていた言葉を出され、レオナルドの口からガラの悪い声が漏れる。
「同じような事を言う輩が出ないか確認が必要だろう?取り敢えず、生息地域が他にあるかどうか」
「ああ、そうだな。すっかり頭から抜けてたわ」
「ただ細々と隠棲だったりなら必要ないだろうけど、繋がりがあったり同じような思想を持ったりした場合が厄介だからね」
「はぁ、分かった」
「取り敢えずさらりと確認だけにしようか。帰宅したら残滓から私も探るし」
「頼んだ」
ようやく忘れていた事を思い出したレオナルドが、アレンハワードの言にうんうんと頷く。
メルヴィンも少しレオナルドの苛立ちに彼らの顔色を伺っていたが、これならひとまず安心だろう。
『私が把握している部分だけなので、植物が少ない地域は申し訳ございませんが』
「いいよ、それでも十分な範囲だろう?」
『あとは私があちら側との窓口を致します故、お二方ともお戻りになられてもよろしゅうございますよ』
「む」
「ふふ、そうだね。実質来週からまた先行と修行があるだろうから」
「なるはやで片す」
「はいはい。じゃあ後を頼むね」
『畏まりました』
メルヴィンに振った新しい役割は植物を介して同じような思考のケット・シーが他にも存在しているかの調査と、水の領域の女王との折衝。
彼女が何の怒りに触れたのかを理解しどう詫びるのか、メルヴィンから取り次ぎを受けるまでは一応気が抜けない。
週末は子供達を目一杯甘やかして英気を養ってやらねば、普段は元気一杯であるグランジエールの先程の萎れた様子は少々哀れだった。
今頃先に帰したグランジエールは恐らく愛娘にベッタリだろうと予測出来るけれど、思いの外レオナルドからの溺愛も強いので来週の旅程に支障がないと良いななどと考えつつ。
結局来週の状況次第では、早い段階で先行修行行脚を切り上げさせ、皆で出発するのも悪くないかも知れない。
アレンハワードが横に立つ黒髪の美丈夫をチラリと見ると、明らかにソワソワとした様子が見て取れて思わず小さく笑い声を漏らしてしまう。
「‥‥なんだよ」
「ふふ、良い変化だと思うよ?帰ろうか」
「‥‥おう」
そう言い合って揃って姿を消した二人を見送る深緑の瞳にも、心無しか僅かに緊張よりも柔らかさが見え隠れしていた。
* * * * *
レオナルドに帰宅の転移を任せていたので、到着した先には案の定思った通りの光景があった。
二階の共有スペースの暖炉前に幾つものクッション、ふかふかのラグとそこに寄り添って転がり眠るそれぞれの愛しい幼子たち。
いつもより少々グランジエールの甘えたが強く感じられる、ルーナエレンの脇に鼻先を突っ込んだ形。
尻尾の先まで愛娘の足にくっついている。
「おぉう」
「しー‥‥」
目下盛大に癒しタイムの最中であろう姿だったので、アレンハワードがレオナルドの首根っこを捕まえて図書室の地階へと静かに移動を開始する。
この後の予定はグランジエールが持ち帰った記録とギデオンからの聞き取り、そして残滓の解析である。
子供達との時間も大事ではあるが、今は充電中。
起きるまでは時間が多少かかると予想し、出来ることをなるべく早く片付けるに限るのだ。
また探った情報をメルヴィンと共有する為にも、一度メイヴィスとも話しておくかとレオナルドはコニーを通じて彼女を地階へ呼び出す。
そしてカーターもティーワゴンを移動させつつ地階へ来たので、早速情報の共有が始められた。
『こちら、幻獣についての書籍集めておきましたわ』
「収納に納めておった記録の魔導具は、ここに」
メイヴィスは繋がっているメルヴィンから意思の疎通がなされているのか、先回りをして資料となる書籍を集め該当ページにメモを挟んでテーブルに置いているし、その横ではギデオンが預かっている魔導具からグランジエールと共有している旅の記録魔導具を複数並べる。
作業机ではなく談話スペースの広いテーブルにカーターが手際よく軽食とお茶を並べ、それぞれが準備の抜けがないのを確認しつつ皆がその朝食代わりを口にする。
まだ空が白み始めるには早い刻限だが、皆グランジエールの精神的ダメージを思って精力的に動いていた。
「オレとしては、何かしらの補填をさせるべきだと考えるんだが」
「あんまりガメツイのはダメだよ?」
「でもさ、あっちもある程度痛みがないと堪えないし、なぁなぁだなんてダメだろ?誠意大事」
「誠意‥‥」
父親同士が詫びに何を要求するか話し始めると、カーターがそっとカップにお茶のおかわりを注ぎながら一言を添える。
「ぼっちゃまが一番癒されるものがよろしいのでは?」
「あの子が一番癒される?エレンの料理か抱っこだろ?」
「ええ」
そこまで言われてレオナルドが首を傾げている横で、アレンハワードはカーターが言いたいことが伝わったのか頷きを彼に向ける。
「美味しいお魚料理の材料」
「おお、採用」
レオナルドも賛成とばかりに青い瞳を煌めかせており、内心アレンハワードもこれであればある程度穏当に話が進みそうだと少しだけだが安堵する。
まだ記録や残滓の確認を行なっていないので、どの程度の範囲を要求するかは基準が明確ではないが、緩い部類としては問題なさそうである。
話し合いの間にすでに記録の魔導具からの映像はほんの少し早送りで再生開始され、コニーが同時に編集作業を担当しているが、まだまだ冒頭で特に問題は無さそうだった。
それを背景に比較的平和な会話がなされていたが、作業の合間に確認するコニーの優秀さがサクサクと問題の箇所を摘出し、そして別媒体の魔導具へと記録の移植を行う頃には次第に保護者達の麗しい顔から表情が消えていた。
「オレはあの女王の鱗剥いでも良いと思ってる」
「全部は要らないから」
『んふふ、鰭部分も確保なさいますわよね??』
「確か人魚の涙という希少な素材もございましたな」
「オレ達には効かんが生き血も高値で売れるんだろ?」
「儂は水中の行動を助けると言われる加護を付与した宝飾品の噂を聞いたことが、故郷であったんじゃが」
彼らはコニーが次々に編集する美しい景色や事柄版の記録と、報復必須と保護者達が躍起になった部分の秘蔵版を進める間、とても熱心に対処と補償について話し合ったのだった。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
マーライオンにされたグランジエールという衝撃映像から、保護者激おこです。
次回は猫の処遇について。




