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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
三章
141/150

141、有翼の仔猫

 

『ちちうえ、ボクがんばったのでおくすりがたべたいです』


 まんまるな花緑青の眼をぱっちりと開いた新グランジエールの第一声はこれだった。

 ギデオンが労るように持ち上げた腕を、若干ウロウロさせてしまったのも仕方のない事である。


 だがレオナルドにとっては義息子の第一声は予想出来た言葉なのか、ひとしきり頷いて見せる。


「いいぞ、よく頑張ったな。これが欲しくなるってことは、やっぱりこにたんシュートに近い衝撃だったか」

『‥‥‥思い出させないでよ』

「お??」


 第一声より甘えの抜けた念話の声が以前より流暢になっている様子に、ギデオンは何とも言えない表情を浮かべている。

 強制的に成長をさせて哀れに思っているのがありありと伝わる表情に、レオナルドは思わず喉の奥でクッと嗤う。


「ギデオンは本当に良いやつだな、大事にしろよ?」

『分かってるよ‥‥‥』

「??若さま?」


 具体的に何を思ったのか伝わったので、照れが混じった様子のグランジエールが少しそっぽを向いている。


「お前はこいつが幼い時間を犠牲にしたとか思ったのかも知れないが、孵化する前から意識があるんだ。実際の経験値こそ低いが、世に存在してからで言うと緑の女王と同じくらいだからな?」

『バラさないでよ』

「は?!」


 もう長い付き合いをすることが決定している間柄だからこそ、この暴露も仕方ないものかも知れないが、伝える覚悟というものも受け取る側の覚悟も必要だという、情緒の部分が疎いレオナルドの所業。


 ギデオンもグランジエールも少しだけ沈黙したが、それでも頭を切り替えたのか軽く息を吐くと視線を合わせ、気持ちを落ち着かせた。


『ギデオン、まずはありがとう。心配させてごめんね?』

「あ、いや、若さまが無事ならそれで、うん」

『ふふ、ありがとう』


 そこからはレオナルドの腕の中からぴょこんと飛び降りたグランジエールがギデオンの前にトコトコとやってくると、髭を少し下げて視線を合わせるように顔をあげる。


『まだ不完全だけど、ボクの中に可能性の設計図が入った感じなんだ』

「そうだな、設計図も色々だからお前のこれから次第だ」

『だって?ギデオン安心して?』


 以前よりも更にお互い息の合った会話がなされている義親子を見て、ギデオンは気持ちを切り替える。


「前よりちょっと偽装が難しくなったとは思うが、お前自身で切り替え出来るようになってるだろ?」

『ん、ちょっと待って。父上、お手本見せてよ』

「可愛くおねだりしてみ?」

「‥‥‥‥」


 本気で心配したというのに、相変わらずというか更に気安い遣り取りをし始めたレオナルドとグランジエール。

 なんとなく気疲れしても文句は言われないはずだが、ギデオンは軽く頭を振って彼等を見守ることにした。


『パパお願い、ボクにお手本見せて欲しいな?』

「クゥかわ」


 いつの間にかレオナルドの足元にぴとっとくっついてお座りをし、キュルンとおめめを潤ませて見上げながらのおねだりは効果抜群だった様子である。


「ドヤァア」


 意気揚々と本来の状態を解放してすぐに引っ込めるという曲芸を目の前で見せるレオナルドに、ギデオンはくらりと立ちくらみを起こした。


 ギデオンは猫は割と好きだ。

 グランジエールの仔猫の姿も愛らしくて好ましいと思っている。


 だが、ケット・シーのこの件のせいで、少しだけ苦手意識が芽生えそうだと思いながら、遠くで慌てたグランジエールの幼い声を聞いた気がした。







 * * * * *






 時間はほぼ経っていないのだろう、眼を覚ましたギデオンはまだ船の与えられた個室の天井が見え、そこに心配そうなグランジエールと頬に肉球の跡をつけたレオナルドが映り込んでいたことで現実に戻った事を知る。


「儂は‥‥‥」

『ごめんねギデオン、悪ふざけが過ぎちゃったね。体調はどう?』

「わりぃ、調子に乗ってあてちまったな」


 生憎ストッパーとなる存在がここには居ないものだから、加減をまだ覚え切れていないグランジエールではレオナルドの暴走をコントロール出来ないらしい。


「ああ、なんとも」

『ボクびっくりしてさ、見て!こんなの出せるようになった』

「は?」


 レオナルドの本来の魔力に当てられて倒れたらしい自分に驚いた主人は、思わぬ覚醒をしたと嬉々として報告してくる。


 視界に映り込んだグそんなランジエールの可愛らしい姿の背中に、半透明の小さな翼が揺れて見えた。


「儂、頭打ったかの?」

「いや、寸前でグランジエールが留めてベッドに着地してたぜ?」

「なんと‥‥‥」


 半透明の小ぶりな翼はグランジエールの意思で動かせるらしく、目の前でふわりと身を翻す。


「あれだな、有翼の仔猫爆誕だな!」

『黒くないけどね』

「お前それ‥‥‥」


 腹の底は真っ黒だろと言おうとしたレオナルドは、期せずして花緑青の瞳の奥の圧に口をつぐむ。

 もう愛らしい笑顔の裏が見え隠れしている。


「ん"ん"、まあ大丈夫だろ。ミニチュアとはいえオレの翼と同じ形状だし、どう見ても圧倒的に力の強い新種にしか見えん」

『言い方ぁ』

「可愛い可愛い」


 わざとらしく話題を変え、義息子を愛でるレオナルドに毒気を抜かれて深く考える事を諦めたギデオンは、ベッドに横になったまま固く大きな手のひらで目元を覆った。


『大丈夫?まだ辛い?』

「ああ、平気ですわい。少々切り替えに時間を頂戴するが‥‥」

「お前も逞しくなってくれて、ほんと助かってるぜ?」


 悪意のない本音なのが伝わるだけに、それ以上言葉を告げられない。


 深く考えられないのであれば、この後の方針ややるべき事を話す方が建設的だと自ら思考を方向転換したギデオンは、上体を起こして義親子たちを見た。


「さて、そろそろギデオンも時間を停めた空間は障りが出るかも知れんからな。手筈はいいな?」

『はい、釣られた相手が出た場合は空間ごと捕え、威圧をする』

「そうだ。もし相手が理解力のない低脳だった場合はそのまま処分、抵抗する技量がある場合は」

『使えそうなら採用試験!使えなさそうなら心胆寒からしめろ!』

「若さまになんて言葉を教えるんだ‥‥‥」


 思わず口から溢れた言葉にもうギデオンは後悔はしない。

 言わねば伝わらない相手なのだ。

 幸い自分は気に入られているらしく、これで咎められることはないと確信を持てる。


 むしろ、遠慮がない方が余計に喜んでいる節まである。


「今週末はアレン様にご報告だな」

「はぁ?!いや、ちょ」

『ボクは子供タイムだから邪魔しないでねパパ!』

「え、待て待て」


 アレンハワードの名前を口にした途端、レオナルドの態度が面白いほどアワアワし始めており、少し意地悪な気持ちが湧き起こる。


「そうじゃの、若さまは魔導具の修理があるしの」

「はぁ?!お前ちょっとそれ言ったら」

『パパ??やっぱり壊したの?』

「え、いや」


 爆弾投下によってレオナルドは帰宅後お説教コースが確定した模様で、誤魔化そうにもギデオンの身につけている魔導具でももう記録がとられている状態なので。


 今週末はゆっくりと過ごすことが出来そうだと、少しだけ溜飲を下げたギデオンだった。






お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


ちょっと最近迷走中です_( _ ́ω`)_

でもグッとレオナルド&グランジエールと、グランジエール&ギデオンの仲が良くなってるのが書いていて楽しい(笑)


そろそろ猫対決!

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