140、内なる変化
きりが良いところということで、短めです。
痛い表現は難しいです_:(´ཀ`」 ∠):
自分の身に何が起きたのかを思い出すという行為もすっかりと忘れたグランジエールは、いつしか永年とも思えた孵化する前の繭の中に居た。
心地良いような窮屈なような、疲れて傷だらけの己の状態を補完するような、身を縮めて丸まり薄い意識で呼吸を行う。
だが呼気と共に胸に染み入る魔力は脆くなった自身のそれには刺激が強過ぎるのか、無数の針が突き刺さるよう。
茨の鶴で撫でられたように、焼け付く痛みが絶えず苛む。
元より土の気質が強いグランジエールは痛みに対し高い耐性を持つが、それは外皮から伝わるそれに対して。
身の内側へのこういった痛みには、耐性は働かないらしい。
例の冷凍爆弾も実に酷かった。
だが、あの爆弾とは違う次元の刺激というのだろうか。
生身の器官が対応出来ない故の破壊の痛みが、崩壊が連続で続く状態に必死に本能が対応を試行錯誤する。
繋がっている魔素の純度と純粋な質量が、自身に宿ろうとしているのは本能が理解している。
だが、それに対応する術がわからない。
その対応が可能になるのは、確実に存在のあり方が別次元になる必要があるのだろう。
義父が求めるパワーアップは、原始の龍種の始祖が精霊や妖精の王に匹敵する存在と成り得た自分では足りないと言っているのだ。
下手をすると神の末席に着けと指し示しているのかも知れない。
ルーナエレンを護りながら全てを差配するには、必要な力だと求められている。
全ての痛覚を遮断し原因に思考を巡らせ、永い時間傷付きながらあらゆる可能性を試す。
それでも、時間とともに自己再生の能力よりも早く物理的に崩壊しそうな勢いだった。
辛い、冷たい、尖った感覚が内側からグランジエールを苛む。
前にもあったこの感覚は、どう対処してもらったのか。
洗浄して幕を張って刺激の少ないもので栄養を補給して貰った記憶が朧げに蘇る。
そしてお薬と言って小さな花の蕾のような砂糖菓子を、そっと口に入れて貰った。
溶けて、解けて、身体だけではなく心に響いて混じった感覚。
(ああ、あれとおなじなんだ‥‥‥)
そう思い至った途端、グランジエールの物質体を苛んでいた魔素は、精神体と心核へと染み込んでいく。
そこからは急速に貪欲に質の良い与えられた魔素をぐんぐんと吸収し、黒ずんでしまっていた繭も真珠のような色合いに変化する。
未熟で経験不足な精神体は、レオナルドに与えられた試練を無事に吸収し己のものにしたことにより、箱庭の住人の規格からは些か外れた代物になりつつある。
だが、レオナルドの後継者と指名されてしまったのだ。
後戻りは出来ない。
有翼の黒獅子の息子は龍種の始祖であると今後の史実に残るとしても、それはきっとあの書庫に収まるものだろう。
使えないしまだ読み取れない設計図が体内に組み込まれたので、いずれ肉体が相応しい状態になれば解放されると思われるが。
それが今ではないとだけ理解し、格好良いといいな喜ばれると良いなと気分が高揚する。
先刻まで苦痛と絶望にも近い感情で染まりそうになっていた幼いグランジエールの心は、今や晴れやかなものとなっていた。
* * * * *
「心配しなくても大丈夫だって、ギデオン」
「むぅ‥‥‥」
レオナルドの隔離を展開した船の部屋は、時間経過は外界と隔たっている為いくらでも時間がかかっても問題ないと構えているものの、幼い仔猫への試練は厳しいのではないかとギデオンは思ってしまう。
ただ、超常の存在がついているのだから、心配は必要ないのだろうけれど。
どうも、常識というか良識が自分たちとは別次元である為不安は拭えない。
「抑え気味だった俺の魔力と領域の魔素をな、ちょっとダイレクトアタックさせてみたわけよ」
「は‥‥?」
破壊の神の魔力と神域の魔素をダイレクトアタックと言われ、ギデオンの声が低くなる。
「ただな、一回あいつエレンの逆鱗に触れて口内に劇薬氷爆弾をシュートされたことあってな?」
「は?!」
あの小さな女神の逆鱗も気になるが、シュートした爆弾の響きもえげつない。
「似たような状況になると思うんだわ」
「それは大丈夫と言わないが?!」
「まぁまぁ」
含み笑いを堪えているのか、レオナルドの肩が少しだけ揺れているがギデオンは気付かない。
ただ、強烈な印象だったが故に感覚も記憶の繋がり方も恐らく比較的簡単に成功すると思っているレオナルドは、終始余裕そうな表情である。
「その後の治療でめっちゃ甘えたちゃんになったグランジエールがな、お薬としてエレンの砂糖菓子を貰ったんだ。ほら、お前にもやったろ?あの砂糖菓子」
「む?ああ、解けるような蜜のような、花の砂糖菓子か」
「そそ、あれ。神界に繋がる魔素もちょーーっと含まれてるような代物なのよ」
「は‥‥‥?」
ニヤリと綺麗な形の唇のはしを持ち上げて笑うレオナルドから爆弾を落とされ、自分もすでに意図せぬ変化を施されてしまっていたと理解する。
「‥‥下々のものには、理解が及ばない世界なのだろうよ。儂はまぁ良いが、若さまは?」
「大丈夫大丈夫、エレンを護るためには必要だくらいにしか捉えないし」
「ハァァ‥‥」
言われた通りの反応と思考なのだろうと容易に想像出来るので、色々と言いたい気持ちを抑えてギデオンは溜息を吐くしかない。
「お、あいつほんとに筋がいいな!そろそろ終わりそう」
少しの間を置いてからレオナルドがふとそう言い出したので、ギデオンは項垂れてしまっていた顔を上げ主人の姿に視線を送る。
心なしか白練色のふわふわとした体毛も、艶が増している気がした。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
毛艶が増したのは気のせいなのかも?(´・ω・`)
次回は変化した姿を大公開?




