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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
三章
134/150

134、プロローグ

長らく更新が空いてしまいました。

ぼちぼちと描き始めましたので、よろしくお願いいたしますm(_ _)m



 


 カーターの手配した手形を持って無事に国境を渡り、マルティエ帝国モルガン領から隣国へ入国したギデオンは初めての正式な国越えを体験し、しみじみとした口調でその心境を吐露した。


「儂等の祖国がどれだけ他所に興味が薄いか、自分らに無頓着であったか‥‥改めて、身に染みたわい」


 溜め息混じりの呟きは、彼がドワーフという種族というだけで不躾な視線を集めまくった挙句、国境の関所でとても悪目立ちをしてしまったが故だろう。


 一見厳つく強面に見える年配のドワーフが、動物を複数連れて移動をしているのだから目を惹かない筈がない。


 そして今、何故か何処からともなく猫が現れ、遠巻きにこちらを伺ってはしばらくして離れていく。そんな状況が、数時間絶え間なく続いている状態なのだ。


 猫が多いという情報は事前には知らなかったが、町の人々の間や通路のあちこちに違和感なく居る事から、普段から見慣れた状態だと意味している。


 しかも、同じ猫を見る事がないという、ある種の猫の楽園のようだ。


『ここのとくちょう?』

『公ではございませんが、人魚族の統治だったと記憶にございますぴよ。猫は、水場の多さによる益獣の扱いなのではないかと愚考いたしますぴよぉ』


 逞しく育つ可能性を感じさせる大きめの四肢を元気に動かして足元を歩く仔猫と、そのまろい頭の上に鎮座する青い珍妙なひよこの会話を聞きつつ、ギデオンは決して近付いてはこないものの明らかに此方を伺っている様子の猫たちに剣呑な視線を送る。


『なんかあったら、蹴っ飛ばしてやるわよ?』

「やめんか」


 サイズを縮小され背中に旅の荷を乗せた風のチェリー姐さんが鼻息も荒く口走れば、即座にギデオンがピシャリと止める。

 なかなかに良いコンビネーションが取れるようになってしまったと、幾分がっくりと肩を落とすギデオンだったが、絶えず猫たちの視線を浴びるという状況が続いていた為、これがこの地の常なのだと判断をする。


 もう移動の為の船の手配も、宿の予約も出来たのだ。

 国境の辺境伯爵家の元家令であるカーターの手腕と伝手の賜物であり、彼がかなりの有能な人物である証拠であった。

 まさに神の采配と思える状況に、自分も肩を並べている事実が不思議でならない。


 獣人族の亜人が多くいたマルティエでは言葉を話す動物もある程度居るし、『竜の寝所』は妖精も精霊も他と比べればかなり存在する為、この一向もそこまで奇異の目を向けられる事はないのだが、ここはもう他国の町だ。


 国境に程近いとはいえ、今までの感覚では難しいだろうと気を引き締めているのはギデオンのみらしく、旅の道連れ達はある程度の気楽さで話をしながら道をゆく。


 それもその筈、彼らはサリヴァン家の既存の認識阻害の魔導具をこっそりと身につけていた。


 隠すべき存在が桁外れである為に使えていないだけであり、本来世界水準を遥に上回る最先端の魔術の技術が組み込まれている。


 故に目立っていてもそこまで気にしていない訳なのだが、当然目立っているのは事実なのだ。


 人の配慮を感じる控え目な視線と併せ、不躾な猫達の探るような視線。


 この街は船で運河を渡る手配をするだけに立ち寄ったに過ぎないので、ギデオンは先を早くと皆を急かして船着場まで辿り着き、水上の人となってから漸く深く嘆息した。









 * * * * *








 水の国であるフェイトリネアは北西にネヴァン、北東にオクリウェート、西にカルトボルグ、東にマルティエと言った風に全ての国に隣接する稀有な国だ。


 源流を天山アルブシエラの霊峰に持つ大河と、そこに点在する大小の中洲を領地とする人魚と水の勢力の地であり、北から南への一方通行の流通ではあるもののそれを司って潤っている。


 西と東は比較的物流が他よりもスムーズである為、商人の出入りも多く物も多い。


 土地柄肉よりも魚を食し、大型の動物は水棲のものばかりで、本来は飼い慣らすことが出来ないとされる海馬(ケルピー)を使役するのが王家らしい。


 船の中で資料を読みながら軽くエールを飲んでいたギデオンに、トトトっと軽い足音で白練色の仔猫が寄ってくる。


 船の揺れをものともせずに資料を読み込む姿を見て花緑青色の目を少し眇めると、仔猫ことグランジエールはぴょんと座席に飛び乗った。


『フナヨイだっけ?しないの?』

「生憎と儂はそんな繊細なタチではないな。んで、どした若さま」

『うん、ちょっとね?あとどれくらいのってるかんじ?』

「そうさなぁ‥‥」


 資料の束の中から簡易な地図を引っ張り出すと、ギデオンはエールの入った杯を横の木箱に置いて膝に地図を広げ、顎鬚を摩りながら口を開く。


「さっきの町がここで、この河の支流、ここに入った辺りが目的地だ。下りではなく遡上する形になるので、川の形がルートに関係するのだろうと思うぞ?」


 無骨な太い指で地図を指し、辿らせながらまろい顔を寄せてそれを目で追う仔猫に示していく。


『へぇ、かわをのぼれるの?』

「ああ、普通だと無理だろうがケルピーが引いている船だからな」

『なるほど』


 内心、野生を忘れていたとしても元々魔獣であるため、ケルピーがグランジエール達にどんな反応をするのか心配していたギデオンだったのだが、一見穏やかに見える挨拶の鼻ちゅーで諸々が解決されたのを肉眼で見てしまった。


 船頭を務める壮年の男も自分の相棒であるケルピーに対し「今日は嫌に大人しいじゃねえか」と驚いていたので、ケルピーはグランジエールとの挨拶段階で確実に威圧(洗礼)を受け力量差を実感したのだろう。


 水上を穏やかに抜けていく風に髭をそよがせ、グランジエールは一頻り地図を確認した後ギデオンだけに聞こえる声で小さくみぃと鳴く。


 念話ではなくわざわざ肉声で鳴く意味を咄嗟に見出し、ギデオンは静かに視線だけで周囲の気配を辿る。


 その行動は主人の意図に沿っていたらしくご機嫌に白練色のしっぽが揺れているが、視線の先にある存在を見つけて思わず溜息が漏れてしまった。


 鋭く不躾な視線をこちらに向けてくる、片耳の折れた灰色と茶色の斑ら模様の成猫。

 何処となくこちらを下と見ているのが理解(わか)る紅い瞳。


『あれ、いままでのなかでいなかったね。つかまえていいか、かくにんしてほしいな』

「ふむ、船の飼い猫であるか否かの確認というわけか。承知した」


 ニンマリともいえる程、花緑青のまろい目を細くしたグランジエールにギデオンは僅かばかり悪寒を覚える。

 あの猫も気の毒に、と相手がどんな存在であろうと関係なく哀れに思う。


 資料や地図を手早く片付け、立ち上がったギデオンの肩にぴょこんと飛び乗った主人をそのままにさせ、刺さるような視線を背中に感じながら船員に先程の話をするべく席を離れ歩き出す。


「飼い猫ではない場合は『あんしんして、ボクがちゃんとはなしをつけるから』‥‥了承した」


 被せて言われた言葉に、捕獲も全てするんだろうなと感じ取ったギデオンは少しだけ声を落とし、程々にしてやってくれと溢さずにはいられなかった。


 折悪くそんな遠い目をしていたドワーフを見て、一人の船員が声をかけてくる。


「お客さん、どうしたい?なんか不都合でもあったかい?」

「あ、いや‥‥船内で猫を見かけてな。うちのが興味持ったみたいだから、ちいっと尋ねようと思っておった」

「へぇ?可愛い仔猫ちゃんだなぁ!偉いべっぴんじゃねえか」

「ああ、ありがとうよ。灰色と茶色の斑模様と赤目の成猫なんだが、この船の猫か?」


 船員は特徴をギデオンから伝えられ、少し考えるように首を捻る。


「うちのは三毛でさぁ、女っぷりのいい肝っ玉の座ったお嬢とその子供達2匹よ。お客さんがいう特徴のは、いねえと思うがなぁ」

「そうかい、手間ぁかけたな」


 いいってことよ!ゆっくり楽しんでくんな!と気のいい言葉を残した船員を見送って、人気が周囲に無くなったところで。

 ギデオンの肩からストンとグランジエールが床に降り立つ。


『じゃあ、ボクたちすこしあそんでくるから。おへやにもどってていいよギデオン』

「ああ、お手柔らかにな‥‥」


 思わず優雅に歩き去る後ろ姿にそう言葉をかけてしまったが、仔猫はゆらりと尻尾を揺らすのみで離れていく。

 物理的に騒動を起こさない能力があるのを知っているだけに、この後がとても心配になってしまうのは仕方がない事だろう。


 僕達と言っていたので、青ひよこもチェリー姐さんも一緒に何かをするのかも知れない。


 少々胃がシクシクと痛んでくるが、ギデオンは考える事を放棄した。




お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


次回は囚われた猫を予定してます。

グランジエール「ボクこどもだからわかんないなぁ」

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