129、有意義な週末
深夜遅くまで大人達が工房でギデオンの戦鎚に関して色々とやり過ぎ、翌朝には一見無手に見えるが少々洒落にならない過剰戦力を持った形状記憶の腕輪が出来上がっていた。
「魔力の登録でギデオン専用になる!よって問題なし!」
一番悪ノリをしてあれこれと手を加えまくったレオナルドはそう言い切ったが、一夜明けたその他の良識を持ち得る三人が、何処となく後悔を滲ませた顔になっている。
「ギデオンさん、取り扱いに慣れるまでは、外部制御の仕組みでも加えておきます?」
「うむぅ、外で試していないが‥‥必要かも知れん。お願いしよう。それにしても‥‥」
レオナルドが張り切った結果としてギデオンの戦鎚は盛り込んだ機能に応じて、希少な素材が惜しみなく組み合わせられている。
柄だけの状態であっても明らかに上質な素材で仕上げられたそれは、腕輪に形状を変形した後の見た目もそのままだと窃盗や良からぬ輩に目をつけられる可能性も高くなる。
仕上げの魔力登録だけではなく防犯として、認識阻害も組み込まれた。
モノクルを使用したカーターであれば認識阻害の魔術式が起動していても見分ける事が出来るが、外で一般的な人族が普通に見た場合には、立派だが古びて少し無骨な革の腕輪にしか見えない。
「後は、こにたんが在庫の革を色々見繕って、革ベルトや付属させるポーチを製作してる。今、エレンがそこに『収納』と『重力』とか、あと『回復』の魔術式を仕込んでる筈だ」
「腕輪はちょっと盛り過ぎたよね。鍵でもあるから、常に身に付ける前提にしてしまったし」
「仕方ないだろう。実質外で良識あるのはギデオンだけなんだし、変な鹿もいるし」
精霊でありながら妖精よりも生身の鹿に近い大鹿が、今回からグランジエールの外の活動に追従する。
聞いた相手がレオナルドなので、何処まで相手の性質を信じていいのか今いち判断がつかないが、アレンハワードやルーナエレンにはまだ会わせられないので折を見てお話するのだと責任者が言っているので、今は敢えて何も言わないでおく。
青水晶の大精霊はレオナルドに齧られひよこにされた上、本体も半分以上を没収されグランジエールに隷属となった話も聞いたが、自らが根付いていた大地の古龍の雛に呑まれたようなものなのでそちらはあまり心配はいらないだろう。
「ギデオン殿のお手持ちの貨幣に加え、この一週間分の予算の四割をマルティエ帝貨の金・銀・銅貨にそれぞれ一、四、五の分合でご用意しております。尚、フェイトリネアでは恐らく帝貨をそのまま利用出来ますが、今後のカルトボルグに関しては少々事情が異なる事が予想されます」
「あそこは、まだ基本的に遊牧のままなのか?」
「近頃は東部の国境地帯に小規模の町が幾つか出来ているそうですが、それ以外ですと物々交換が多くあまり貨幣は喜ばれないと、商人が申しておりました」
カーターが前主人であるモルガン辺境伯爵家で面識のあった商人から得ていた話を、ギデオンだけではなくアレンハワードにも伝える。
「あそこはなぁ、アレンにはちょっと鬼門かも知れん。歪んだ風と、魔素の沈んだ大地で大陸で一番地表に魔素が無い」
「慈愛の聖獣が遺した祝福で、辛うじて続いているって文献にはあったよ」
「今どれくらい当時の祝福とやらが働いているのか、もう怪しいもんだけどな」
朝食を摂り終えてコニーとグランジエール、ルーナエレンが二階に移動するのを待ってから、工房で反省会ならぬ隠蔽や今後の修行の先を相談していた大人達は、レオナルドの言葉を最後にとりあえず明日の早朝に送り出す路が決まったと判断し、各々作業を再開する。
「少し、上で調べ物をしてくるよ。用があったら、声をかけて」
「わかった。じゃオレはちびっ子達の方行ってこよ」
「畏まりました」
「うむ、儂は手持ちの既存の荷物の選別と偽造を、もう少しばかり考えよう」
やりきった感を満面の笑顔に滲ませたルーナエレンが二階から降りて来たのにカーターとギデオンが気付いた時には、もう昼前になっていた。
* * * * *
「エレン」
集中してコニーが作成した革ベルトや鞄に着ける便利道具用に、豪華になり過ぎないよう気を配りながら似た革紐に小さめの水の魔石をビーズのように通して飾り紐を作っていたルーナエレンだったが、呼びかけられて顔をあげる。
「なぁに?」
ニコニコしながら歩み寄ってルーナエレンの手元を見たレオナルドが、感心したような声を出してかがみ込んだ。
「お?!これは、水出す目的と、温度変更に火か?近過ぎて、干渉するんじゃないか?」
「え、ほんと?うーん‥‥」
「革がちょっと魔力の流れを少し阻害してるから、間に魔力伝導率の良い素材を少しだけ挟んでみるとか?」
「ちょくれつになってもだいじょうぶかな?かげん、むずかしい‥‥」
ルーナエレンが自分でも僅かではあるが野営を経験したが故に、生活用水の不便を解消すべくちょっとした魔道具を作ろうとしているのだと理解して、レオナルドは少しだけヒントを与えてみる。
「基本聖獣の末裔とかの獣の革であれば、魔力を帯びる。今回のこの革はどうだ?」
「あ、いろがにてるってだけでえらんじゃったかも」
「ふむ、後は魔石同士が擦れない為のパーツをメイヴィスに頼んでみるとか。蔓や繊維、後は染料もありか?」
「わぁ、いろかえられるの、いいね!しょくぶつのひもも、ちいさくふさにしてもいい?」
柔軟な発想で次々に試そうとしているルーナエレンに、クスリと笑みを溢して一つだけ注意をする。
「良いと思うぞ?ただエレン、思い出してくれ。これ使うの、ギデオンだからな?」
「あ」
「可愛いのは、後で自分用に作ればいい。ただ、あいつが身に付けた姿をちゃんと想像してやれよ?」
「はぁい」
そんな会話の後、すぐに立ち上がってメイヴィスを探しに裏庭に向かうルーナエレンの足元にくっついて移動しようとし始めていたグランジエールの首根っこを、レオナルドはヒョイと掴んで愛娘の後ろ姿に声をかける。
「あ、オレちょっとグランジエールと話があるから借りるな。図書室の一番上に居るから」
「わかった〜」
「にゃあぁ」
不満げな鳴き声に一瞬振り返ってこちらを見上げて来たが、レオナルドが笑顔で仔猫の手をとって振ると、それを見て良い笑顔で小さく小さな手を振り返してから行ってしまう。
「さて、親子の交流会です」
『あ、あとでもいいのにいぃ』
控え目に文句を溢すグランジエールをそのまま腕に抱え、レオナルドは二階から図書室に入り中央の螺旋階段へ歩き出す。
少し離れるだけで未練たらたらの様子を見せる仔猫に向かって、最上階のソファーへどすんと雑に座ったレオナルドが圧を載せた美貌を近付ける。
「で、お前何で念話使ってエレンと会話しない。仔猫ちゃんのがエレンから抱っこして貰えるとかだったら、教育的指導が必要になるかも知れないなぁ?」
『‥‥‥‥‥‥』
「会話、したく無いのか?」
仔猫の姿でありながらはっきりと憮然とした様子で俯き髭を垂れさせているグランジエールを見ながら、レオナルドは笑いそうになる頬を内心必死で緩めないよう力を入れ、義息子が答えるまで待ってやる。
『‥‥‥‥て、これ‥‥ちがうから』
「んん〜?会話、したかったんだろ?良いじゃねえか」
『だって!まだボクのちからではなすのとは、ちがうから!』
「‥‥‥‥」
息を止めていないと、真面目な表情が保てない。
なにこれ一丁前に男の子かよ。
可愛いじゃねえか!!
これが父性か!!
「真面目っていうか純情っていうか‥‥」
『だって!ちちうえとはきずながあるからいいけど、ボクはじりきでがんばって、そのうえでおはなしして、ボクをしってみてほしいから!』
「ぐぅかわ!!!分かった特訓してやるパパに任せとけ!!!」
『!!ありがとうございますちちうえ!』
暑苦しい特訓を施されたグランジエールは少しだけ何かを掴んだ気がしたものの、階下からお昼ご飯だと呼ばれ特訓を已む無く中止する。
呼びに来たのが他ならぬルーナエレンだったために。
尚、ギデオンの戦鎚とベルト、ポーチと生活魔術を組み込んだ魔道具セットは昼前には無事に完成していたが、グランジエールの自力での念話はあと少しかかりそうである。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
レオナルドさん、父性に改めて目覚める!
がんばれ男の子(笑)




