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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
二章
128/150

128、やっぱりの改築

 

 子供達二人が新設の採掘エリアに居たのは実質そう長い時間では無かった。


 食後のお茶のタイミングで、グランジエール達の旅の景色や様子を鑑賞する流れが先週末に出来ていたし、先程採掘場から戻った際には既に収納内のお土産や記録の魔導具は大人達が回収済みだったのが分かったので、検閲や編集が必要ならばやはり鑑賞会は夕食後だろう。


 グランジエールの予想では、レオナルドが悪ノリしていた逆急流降りのあたりが要編集なのでは無いかと思っている。


 明日一日はギデオンの鍵になる魔導具作成や意見交換などが主流になるだろうし、採掘場でやる気を見せていたルーナエレンはきっとギデオン達の作業の場に同席するに違いない。


 皆の行動を予測した上で自分がどう動けばより自然にルーナエレンと一緒に居られるかを考えながら、グランジエールは横に立つ彼女の足に自身の自慢の白練色の身体をすり寄せる。


 それだけでふわりと微笑んだルーナエレンが、仔猫姿のグランジエールを抱き上げ屋敷に向かって歩き出す。


 西側のテラスが見えて来た頃、屋敷の北側と思しき場所から土煙と共に大きなドオォンという音が上がり、幼い二人は思わず肩をびくりと揺らして顔を見合わせる。


 この空間魔法(おうち)内で何かしらの襲撃や攻撃的な行為が有り得ないのは良く理解しているルーナエレンは、少しだけ放心した後軽く溜息を溢す。


「あっち、おふろかな‥‥」

「に」


 時間的にもそろそろ入浴を済ませて夕食の支度をし始めるタイミングでもある。

 グランジエール達の居る週末はきっと食後の団欒タイムを長く取る為、様々な事を先回りで済ませる傾向がある事も理解しているので、思いついたら即実行!とばかりにレオナルドが動いているのだろう。


 興味を惹かれた幼い二人はテラスから屋敷に上がらず裏庭側に周り、すぐに賑やかな遣り取りと濃厚な土の魔力と火の魔力を肌に感じる。


 視線を少し彷徨わせて黒髪の長身の美丈夫と大好きな青銀を見つけると、ルーナエレンは嬉しそうに歩み寄った。


「ああ、おかえりエレン、グランジエール」

「見てみろ〜?ちょっと楽しい改築作業だぞ〜」


 アレンハワードの足元に寄り添って身体をくっつけ改めて現場に目をやると、ギデオンに寄り添った小さな火の精霊が中規模程に大きくなっていて、当の本人は北の氷狐がいた洞窟付近の小川から支流を引いて溜池と椅子や四阿をせっせと整えている。


 ギャラリーが増えた事に気を良くしたレオナルドが、大きくまぁるいお目目を瞬かせている子供達に見せつけるように、屋敷の外側から既存の浴室付近の壁に鷹揚に片手を当て、さっと横に撫で払う。


「わぁ、大胆な改築‥‥」

「ふわぁ‥‥」


 図書室や工房のある屋敷中心部の塔の右横エリアは浴室と脱衣所と諸々水回りも纏まっていたが、新たに裏庭側に溜池を望める玻璃の大きな二重の引き戸が取り付けられ大きくなった浴室が見える。

 そのまま石畳とウッドデッキのテラスが溜池と四阿に続き、日除けにもなりそうな緑の回廊と浴室部分の屋根が変形して続いている。


 びっくりしてルーナエレンが浴室へと駆け込み天井を見上げると、モルガンの要塞砦で気になった天井の光を取り込んだ様な不思議な玻璃のような魔石の様な、明らかに煉瓦や石材や木材ではない光沢あるものになっていた。


 夕暮れ前の日差しは上からは入ってこないが、明らかに陽光が透けて床に模様を揺らめかせる、あの時嬉しくなって見惚れた「素敵」があった。


「レオナ!すごい!ありがとう!ステキ!」

「うんうん」

「へぇ、これは凄いね。ギデオンさんに聞いたの?」

「‥‥バラすなよ、せっかくエレンが感動してくれてるのに‥‥」


 話題に出されたギデオンはまだ四阿付近を丹念に仕上げている様子だったが、皆浴室へと仕上がりを見にやって来ていたところに、脱衣所側からカーターが顔を覗かせる。


「おや、皆様こちらにおいででございましたか。丁度良いお時間ですね。まずはお嬢様からで如何ですか?」

「はーい!とうさま」


 去り際にカーターが湯船にお湯を溜める魔道具を起動させ、素早くルーナエレンとアレンハワードの着替えやタオルを用意してくれた。


「じゃ、オレとこいつは後だな。ゆっくりあったまれよ〜」

「にゃぁぁ」


 咄嗟にルーナエレンにしがみついこうとしていたグランジエールを素早く取り上げ、しっかりと腕に捕まえてからレオナルドはサリヴァン親娘に手を振って浴室を後にする。


 キッチンへ連れて来られたグランジエールがレオナルドにちょっとしたお説教をされたのだが、それは男同士の暗黙の秘密として扱われたのをルーナエレンだけが知らない。







 * * * * *






 賑やかな夕食を終えて上映会も大好評で、ルーナエレンは目に見えて興奮してしまって寝付けるのか些か不安になる程だったのだが、メイヴィスとカーターがグランジエールと一緒に寝る前のお世話をしている間にパタリと子供同士の体温を分け合う様にピッタリとくっついて眠ってしまった。


 明日の予定はギデオンの鍵を完成させ、ついでに旅に持ち込む魔道具や魔術式も色々と仕込むつもりでいる。


 そして明後日の早朝、再びレオナルドがギデオンとグランジエールを外へと送り出す予定となっているのだが、正直マルティエ帝国内はそろそろ見る場所も採取すべきものも終わりかと思っていた。


 地階の工房へと移動した大人達は、拡張した浴場付近の地下部分がギデオン専用の炉がついたエリアに変化していたのを興味深く見て周り、使用するであろう本人に要望や改善点を聞きつつ使い勝手を確認しながら予定について話し合いをする。


「グランジエールが送ってきた植物に関しては、既にメイヴィスが有用性や危険の有無なんかをひっくるめて確認後、嬉々として管理を始めてる。例の魔虫に関しては排除済みだし、空間の防御結界に引っかかる仕様に書き換えたから万が一でも即滅するだろ。支流も正したし問題がすっかり無くなったという訳ではないが、現地の者が今後は努力して現状から這い上がって貰うしかない。んで」

「次ってことは、春からの移動は出国。北と西どちらにするか、だね」

「ギデオン、オクリウェートは今どんな感じだ?」


 愛用の道具に魔石を利用した便利そうな魔術式をアレンハワードに組んで付与して貰ったギデオンは、作業台で嬉々として自身の戦槌の柄になる部分を造っていたが、レオナルドに自国の状況を問われて作業の手を止める。


「良く言えば平和そのものと言えよう。刺激が無く向上心も無い。人族よりは長寿故、我が王は生に飽いておられるのじゃ‥‥」


 しんみりと、だが辛辣な言葉を吐いて俯くギデオンは虚な目を手元に向ける。


 その場にいる者の視線を一身に受けたのが分かったのか、ギデオンは咳払いを一つして顔を上げ苦い笑みを浮かべる。


「本来の探究心ある者や行動力がある若者は、皆外へと向かい中心部は高齢化が進んでおってな。中高年の中でも偏屈で変わり(もん)と言われる儂の様なのが、外で貴殿等に出逢うた訳よ」


 裏庭の作業からすっかり口調が砕けてきたギデオンは、もうアレンハワードやレオナルドを過分には恐れていない様子だった。


「あらかた物作りを極めたつもりの、過去の外しか知らぬ矜持の高い者ばかりの国故。尊い雛達が見るものは余り無かろうな」


 アレンハワードも含まれたような言葉だが、あらゆる知識を収めたサリヴァンの者が求める価値は特にないと言い切る様に、アレンハワードは腕を組んで少し考える。


 ギデオンは長く変化のない澱んだ国だと匂わせたが、ドワーフしか持ち得ない技術や知識も確かにある筈だ。それを尋ねたり学んだりするのは、と思考を巡らせていたがレオナルドにぽんと肩を叩かれ顔を上げる。


 視線の先には、眉間に皺を寄せつつも苦く仄かに笑うギデオンがいた。


「儂で良ければ幾らでも、技でも知識でもお教えしよう。儂自身も、この歳になって知らぬ事だらけで学べる事がこんなに嬉しいと、今更感じておるわ」


 自己紹介時の弟子入りは固くお断りしたものの、互いに得られるものがある事に喜んだのはアレンハワードも同様だった。


「そう、ですね。エレンもすっかりギデオンさんに懐いた訳ですし」

「いやぁ、あんなに尊い姫様に懐かれるなんざ、弟子らが知ったら何を言われるか‥‥」

「娘達を、よろしくお願いしますね、ギデオンさん」

「おぅ‥‥」


 少々しんみりとした空気になったところで、レオナルドが勤めて明るい声を出す。


「んじゃ、春は取り敢えず西か!水都(フェイトリネア)経由で草の国(カルトボルグ)まで、ゆっくり素材巡りでどうよ」

「そうだね、前は大河を降るだけであまりフェイトリネア自体、見ていなかったし」

「水の国でしたら、モルガンでも交流のある商会も幾つかございます。魔道具の流通にも、私めでよろしければ見繕いましょう」

「カーター頼もし〜い!」


 その夜はいつもより少し遅い時間まで、地階の工房で大人達の交流が続いていた。







お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


メルヴィンちゃんがすっかり存在感を消してますレオナルドさんの教育が行き届過ぎです。

でも気を抜くと変態みが顔を出すので、容赦ない対応をぱっぱも咎めません。


グランジエールの次の行き先は、水の国に決定。

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