125、保護者増員
緊張しながら挨拶を交わし促されるままにテラスへと誘われると、庭を望めるテーブルセットにお茶の用意がしてあった。
「何だよ、ここで面接なのか?」
「カーターさんが、こっちで話した方が脱線しないで済むのでは?って」
「ああぁ‥‥‥」
視界半分が庭を望める向きで、正面にアレンハワードと名乗った青銀の髪色の美貌の青年が座り、その横に当然のように黒髪の美丈夫がどかりと座る。
「ギデオンさんも、座って下さい」
「カーターは?」
「もう、来るよ」
親密そうな二人の会話を黙って聞き、邸宅からもう一人ここに出てくるらしいと推し図る。
そしてさして間をおかず、初老の執事風の男性が静かにやって来たのだが、その横を勝手にティーワゴンが茶菓子や軽食を載せて追従しているように見える。
「は?」
もう常識外の世界だと割り切る決心をした筈なのに、勝手に動くティーワゴンとその後にギデオンの目は釘付けにならざるを得ない。
勝手に動いていると思ったが違う。
カーターと呼ばれたであろう執事風の初老の男性の腰ほどの背丈がある雪兎の、服を着たぬいぐるみが自立しワゴンを押しているのが見えたのだ。
「お待たせ致しました。ようこそ、ギデオン殿。カーターと申します。以後お見知り置きを」
「あ、こいつはマルティエの狼の獣人の血を引いてる。我が家の執事、だな」
「こっちはコニーという。ちょっと信じて貰えないかも知れないけど、魔導人形で娘のポシェットなんだ」
「は‥‥‥?」
もとよりギョロリとした目の眼光鋭いドワーフであるものの、今は驚きで目一杯開かれ愕然としているのが伝わるが、アレンハワードとレオナルドが上手く反応しなくなったギデオンに首を傾げていると横からこほんっと咳払いが聞こえた。
「お二人とも、少々飛ばし過ぎではございませんか?」
「いや、カーターもこにたん連れて来といてそれ言う?」
「おや?‥‥‥わたくしめも、すっかりここに馴染んでしまっていたようです」
三人が軽妙なテンポで会話をしている間にも、コニーがぴょこぴょこと動いて料理の乗った皿や取り皿やカトラリーをスムーズに配膳していく。
「ちょっとね、私たちのここでの暮らしは色んな意味で秘密が多いから、早めに慣れてもらうには出し惜しみしない方が良いかと思って」
「慣れろというか諦めろというか」
「おや、レオナルド様がそれを仰いますか」
「本当にね」
「ええぇ、どうよギデオン。こいつら酷い言いようだと思わねぇ?」
「‥‥‥‥‥」
ほんの少しだけ落ち着きを取り戻したギデオンが三人の会話から関係性を必死に導き出すものの、主従関係でありながらも身内といった気安い雰囲気と、非常識とも思える現象に対する耐久値が皆異様に高いようにしか思えない。
カーターと名乗った執事風の初老の獣人種の男性は、血は濃くないのだろうけれど只者では無い雰囲気が見て取れる。
だがレオナルドの話を遡って思い出してみると、とある魔導師というフレーズがあり、ギデオンの記憶が正しければ直近で魔導師の噂を聞いたのは魔導王国ネヴァンの、まだ幼い少年という話だった気がする。
自分が祖国でまだ高い地位に縛られていた頃に得た知識なので、時の流れ的にもしやと思い当たる。
ネヴァンの魔術や学術に関する特殊な家柄、青銀の髪に常軌を逸した程の高度な空間の構築や魔導人形。
死亡説が濃厚で近頃ではとんと噂にも出なくなった魔導師と、血肉と魔力が云々と。
次々に巡る思考と与えられた情報からの想像と予想に、ギデオンは血の気が引く思いで背筋を伸ばして顎を引き、正面の青銀の髪の美しい氷の大精霊のような青年に問いかける。
「よもや、このような場所を生み出される程のお方が、魔導師様とは‥‥‥」
やや掠れた低い声が漏れたのだが、対面する青年は苦笑いを浮かべて首を振る。
「私はもう、亡くなったものも同然の身なのです。ただ、未練がね」
「ここに居る理由は、さっき見ただろ?オレたちの至宝」
「いつレオナルドの至宝になったのかな」
「ええ、良いじゃないか!義理のパパになりたぃっったぁ‥‥」
しんみりしかけた空気を、バシッという音が一瞬でぶった斬る。
顔を向ける事なくアレンハワードが横にいるレオナルドの頭を叩いたのだが、どう見ても実体のある人族。
よく見えなかったが、叩いた際に魔力を纏わせていたのかレオナルドの頭がちょっぴり凍っているのが見える。
取り敢えず、ギデオンはここでの力関係をなんとなく察したのだった。
* * * * *
幸いな事にギデオンは祖国でも比較的高位の技術者で知識も見識も豊かな人物でありながら、研究と後継の育成と現場を大事にする気質が強く、今現在の祖国の政治の中枢と距離を取るどころかグレーでありながら他国に勝手に住み着いていた長老クラスの人材である。
それらの即戦力になり得る為人の情報はすでにレオナルドからそれとなく伝えられていたのだが、想像以上に順応力があり現状を読む優れた分析能力と思考能力もあるのか、ちょっとした会話だけで正確にアレンハワードの素性を理解してしまったようだ。
だが、当のギデオンは次々に持って来られる規格外な登場人物(人外)に、可哀想なくらい固まってしまっていた。
そろそろちょっと手を緩めるかとレオナルドとアレンハワードが視線で会話をしていたところ、室内に入っていた愛娘がテラスの前の大きな窓からちょっぴり顔を覗かせ、ギデオンに対しての興味で紫水晶のキラキラとした瞳を彼に向けているのにその場の皆が気付き、必然的にほっこりとした空気に包まれた。
「エレン、おいで」
自己紹介をされた最初の時から終始穏やかな雰囲気の氷の大精霊の如き美貌の青年は、幼い女の子に向かって自然とより柔らかい声で呼びかける。
全身で愛しく大切な存在なのだと、皆にもダダ漏れな程だが身内しか居ないので構わないのだろう。
仔猫姿のグランジエールをその華奢な腕に抱き締めたまま、呼ばれるままにアレンハワードの横へとそろそろと歩いて来た女の子。
ふわふわと柔らかな絹糸のような薄紫と青銀の混じる髪の毛は、父親であるアレンハワードの持つ彩とそっくりな輝きがある。
「こちら、ドワーフ族のギデオンさんだよ。ご挨拶を」
「は‥‥じめ、まして。ルーナエレン、です」
人見知りなのだろうか、それとも単に恥ずかしいだけなのだろうか。
モジモジとしながらも大きな瞳をやや伏せて少し腰を落とし、目礼をする愛苦しい姿での挨拶を受けて、ギデオンはもう色々と許容量を超えまくっていた様々な事を一旦棚上げする事にした。
大人達が至宝と言ったのが、この目の前の存在なのだ。
これは、いけない。
この小さき女神の如き存在を、全身全霊で護るべき存在だと瞬時に心に刻む。
「宜しくお願いする、ルーナエレン嬢。儂はギデオン」
「ギデオンはね、グランジエールが外で活動する時も助けてくれる人なんだ。あと、遺跡の調査や彫金、細工も凄腕らしいぜ?」
「え、ほんと?」
腕の中のグランジエールをレオナルドに渡し、自分も父親に抱き上げられて膝に乗せられながら聞かされた内容に、ルーナエレンはまぁるく大きな愛らしい瞳を更にキラキラと輝かせた。
「すごい!ギデオンさん、エレンのね、せんせいになってほしいの!」
「ええ?!思ってたより引きが強いな!負けるなグランジエール‥‥」
テーブルに身を乗り出さんばかりのルーナエレンの様子を見て、レオナルド義親子が揃ってやや不満気な表情を全面に出していたが、アレンハワードは愛娘の滅多に見せない積極的な態度にニコニコと笑顔を綻ばせている。
「これは、文句なしの採用一択だね」
「知ってた‥‥」
ルーナエレンの人見知りを秒殺する人材の採用が、決まった瞬間だった。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
久々のおうちメンバーは捗ります。
グランジエールくん、内心ちょっとぐぬぬ‥‥な感じ。ふぁいとぉ!
次回はギデオンさんの鍵魔導具。
何が良いかしら?




