122、探索ツアー 其の2
夏休みの宿題って、親になっても呪いとしか思えない今日この頃。
夏休み終了のカウントダウンが聞こえます_:(´ཀ`」 ∠):
義理とはいえ強固な絆を得ているグランジエールには、やはり義父の意図はほぼ正確に辿れてしまっていたらしい。
結局ギデオンによってあっという間にチェリー姐さんまで搭乗可能な船が組まれ、青く美しい洞内と海からの潮の流れ、そして奥山からの途切れぬ水の流れが度々ぶつかって複雑な流れのうねりがあったり。
また、高低差や幅の増減に仕掛けや罠が色々と目白押しでずぶ濡れになったり。
青ひよこが言っていたように、これはきっと夏に身体的にも心情的にも涼しい良い催しと成り得るものだった。
補足としては、罠や仕掛けが数パターン組み合わせを試行錯誤した結果、二回目の挑戦でチェリー姉さんのみ脱落となり帝都の地下洞窟待機になったものの、幾多の試行錯誤の後にすっかり一部アスレチックと化した美しい青の洞窟探索は、その日全てを使って終了となった。
「若さま‥‥妥協を許さない性質?なのか?」
「あぁ、儂より研究熱心というか」
辛うじて最後まで探検に付き合ったギデオンも、帝都地下洞窟で留守番役となっていた大鹿の夜営の準備を手伝いながら嘆息する。
もちろん思わずそんな問いを溢したと思われるチェリー姐さんの気持ちに、何とは無しに答えを返したギデオンだったが、恐らく義父である艶やかな黒髪の美丈夫に対する行動も大きいのではないかと考えている。
チェリー姐さんはまだ直接面識はない為、レオナルドの事を知らないからこそその言葉は尤もなものだが、知るものからしてみれば万全を期して自らの修練にも繋げている仔猫の姿は、正直少々常軌を逸していると捉えられる可能性もあるだろう。
それでもまだ空間魔法でグランジエールが身を置く環境を見ていなければ、意外と生真面目で直向きに修練を積む仔猫の真の目標は理解出来ない。
滋養のある土地の凍えを知らぬ新鮮で瑞々しい大地の恵みと、冬眠はしなくとも冬に備えて脂肪を蓄えた野生の獣の薄切り肉を、チェリー姐さんが操る粘質な溶岩をコントロールした簡易窯で蒸し焼きにし、挽いた粉と地下水で緩く溶いた生地で、薄焼きの皮をパン代わりに焼いていく。
手際良く次々と夕食にする男飯を作るギデオンの横で、感心したような興味深そうなチェリー姐さんの様子を感じて、そっと卓の端にオクリウェートで馴染みの香辛料を加えたタレを置いておく。
とはいえ大鹿がギデオン達亜人種と言われているドワーフと同じ食生活があったかといえば些か自信が無かったのだが、心無しか喜色が大鹿の濡れたくりんとした瞳に浮かんでいる気がする。
帝都の地下洞窟であり青水晶の本拠地で本体のお膝元であるにも関わらず、無遠慮に勝手に小さな露天風呂を作ったり現在ギデオンとチェリー姐さんが居る食事及び調理スペースを拡げたり、眠る為の寛ぎ空間を設けていたりとやりたい放題なのだが、青ひよこ本人がグランジエールに半ば取り込まれた状態の隷属である為あまり力が振るえなかったのだ。
更に龍脈の支流の私的流用や管理者側としてあり得ない杜撰なあれやこれやの懲罰の結果として、本体であり依代である青水晶も、以前の膨大な群生ではなく半分の規模に物理的になってしまっている。
なので結果的にスペースにはかなりの余裕があり、今回の滞在に際して心地良い空間造りを結構な本気度で構築し、ある種の秘密基地の様な絶妙の足りなさ具合を持った夜営拠点が完成した。
『あすのゆうこくには、ちちうえがおむかえにきてくださる。るすばんぐみは、ひよこさえよいのであれば、ここで待っていたらいいんじゃないかな』
チェリー姐さんの用意した小規模な露天風呂を堪能し、美味しい男飯をモリモリと食べたグランジエールは、翌日の予定を皆に話し終わった頃には花緑青の大きなお目目をしぱしぱさせ始めていた。
* * * * *
朝日は射さずとも程々の爽やかな朝を迎えたグランジエール一行は、朝食の用意を始めようと動き出した頃に突如やって来たレオナルドに、揃って困惑していた。
この中では青ひよこが一番グランジエールの義父であるレオナルドに面識があるが、諸々な事情で余り良い印象を彼の方に持たれていない為、挨拶以外に言葉が全く浮かばないのも無理はなかった。
『ちちうえ!おはようございます!きょうはおはやいんですね?』
『お、おはよう御座いますピヨ』
義息子であるグランジエールとその下僕の青ひよこの挨拶を受け、旅の野営で使用する一般的なテントを改良したそれから出てきたグランジエールと下僕を、レオナルドは上機嫌で優しい青の眼差しで見遣る。
その優しい瞳が、何だかんだと自力で外でも活動出来るように、カーターやアレンハワード達が持たせた便利魔道具レベルで過ごしている姿を認めてくれたのだろうと感じられて、くすぐったそうにはにかんで笑んだ仔猫は相手に駆け寄って飛び付いた。
「おう、お早う。今日はお前の課題の具合を先に確認したくてな、面接もあるし。そうそう、朝食の差し入れもあるぞ〜」
視界に青水晶の群生地の激変を認めながらもある種の秘密基地となったエリアを楽しそうに眺め、視界の隅っこで固まっている大鹿をチラリと視線だけで一瞥する。
レオナルドが指定した火の精霊ではあるのだが、実質どんな個性なのかまでは把握していない。ただ、少々青水晶と因縁めいたものがあったり、温泉をこよなく愛好しているという俗っぽさが嫌いでは無かった。
どうせ義息子の側に置く精霊なのだから、色んな意味で飽きないのがいいと考えたのも事実だ。
先程の一瞥で確認しただけだが、名付けでの従属のみの関係のようでありながら、相手の精霊側がほぼ抵抗をしていないが故の主従関係らしい。
それでもきちんとグランジエール自身に火の魔力が馴染みその身に深く根付いた様子なので、第三の課題自体はクリアと言えるだろう。
第二課題のギデオンとひよこを正式に従えろという課題も、サリヴァン親娘との対面を経ればほぼ完了になるので、次の課題を設定してこの週末に通達しなくてはならない。
青ひよことチェリー姐さんを除く、ギデオンとグランジエール分の朝食が詰められた籠をひょいとテーブルに取り出して置き、遠慮がちにやや離れた場所で控えていたギデオンを呼び寄せる。
そして勝手知ったると言わんばかりにレオナルドも朝食の食卓につくと、グランジエールにあれこれと給仕をしてやりつつ自らもたまに摘みつつ、本日のレオナルドが考える予定を伝え始めた。
「まず、朝食後。この帝都地下洞窟から東へのルートを全員でハードモードで行う!オレが引率するからには、安全安心を保証する!」
キリリと表情を引き締めて人差し指を麗しい容貌の前で立て、良く通るやや低めの美声で宣言する義父の様子と発言を聞いて、グランジエールは予想通りのアトラクション扱いだったかと、義父の思考を読めた事実に満足そうに髭をそよがせる。
風の素養はネヴァンに住まうもの以外にはほぼ持ち得ない為、グランジエール自身も躍動感ある船での急流降りもどきの冒険は、ちょっとした風になったような擬似体験が出来た様な気分が味わえて気に入っていた。
それを義父と一緒に体験出来ると聞いて、もぐもぐと咀嚼をしながらも自然と笑みが溢れてしまう。
「一通り楽しn‥‥ゴホンっ!体験と検証が終われば、鹿と三者面談。それが終わればギデオンとグランジエールはオレと撤収。ひよこと鹿は明後日の朝まで、節度のある自由行動。質問は?」
口振りから全員強制参加の絶叫アトラクションを察した隅っこのチェリー姐さんは、主と仰ぐ事になったグランジエールの義父という圧倒的な存在に、言われた内容も相まってガチゴチに固まって青褪めざるを得なかった。
逆急流降りという地獄を超えた後には、三者面談という恐ろしいワードが待ち構えているという。泣きたい。
「なお、泣いても強制参加だから!」
無情なパワーワードが降り注いだ事により、チェリー姐さんは涙をグッと堪えて顎を引き、ぎりりと奥歯を噛み締めて耐えるしかなかったのだった。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
毎度遅刻魔で本当に申し訳ありません_:(´ཀ`」 ∠):
次回は三者面談まで行けたら良いな。




