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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
二章
118/150

118、大鹿

 

 早朝の湯煙烟る静かな湖畔に、硬質でいて重い衝突音が響き渡った。


 それは静かな周囲の空気を盛大に震わせ、衝撃波を生み出し、周囲に軽い爆風を起こす。


 幼い仔猫に対して尋常では無い破壊力を伴った過剰攻撃だったが、グランジエールの纏う『隔絶』の魔術には微塵も影響は見られない。

 どちらかと言えば、突進のスピードを載せた上大きく立派な角ごと振り被って頭突きしてきた側の方が、ダメージが見られる。


 その証拠に大鹿は一瞬、グランジエールを睨み据えていた眼光が揺らぎ、ほんの僅かではあるが足元がふらついていた。


 想定していた筈の展開には程遠く、強烈な攻撃を強固な何かしらの術で受け止めた仔猫に対しより警戒を強くした様子で、体制を立て直す様に瞬時に数歩後に下がって此方をじっと睨みつけてくる。


 背後から不意打ちで声を掛けられ咄嗟に先制攻撃をしてしまったものの、相手に全く通用していないのだから大鹿が警戒するのも当然である。


 だが、突進攻撃を難なく防いだ上反撃に出て遣り返すでもなく、声を掛けてきた時のまま此方を見上げてくる仔猫を、油断なく観察しつつ言われた内容を反芻した大鹿は問う事にしたようだ。


「従えるって、何。あんた、見たままの存在じゃ無いだろ。何者だ」

『ああ、ちょっとまってね。‥‥これで、どうかな?』


 隔離を使って極力相手から気付かれない準備をしていたので、大鹿はグランジエールの力量や魔力が感じられず、それでも突進からの渾身の一撃を動かないまま防がれたので、見たままの(いとけな)い存在ではないと判断したようだ。


 強い警戒を含んだやや野太い低い声が、一見とても愛らしいと称される外見の堂々とした仔猫にぶっきらぼうな言葉で問うと、相手はけろりと待ったをかけ僅かに可愛らしい髭をそよがせる。


 途端にぶわりと周辺に濃厚で強烈な密度の高い魔力が拡散され、大鹿は上から途轍もない重力を課され立っていられない。震える四肢が、自分の意思とは裏腹にがくりと折れるのをどうにも留められない。


 精霊でありながら性質から大鹿としての物質体(マテリアルボディ)を持って久しいが故に、全身から大量の冷や汗と震えが止まらない。


「ぐっ‥‥がはっう‥」

『若さま!』

『ん?なぁに?』


 呼吸もままならない状態になったらしい大鹿を内部で見ていた青ひよこが、慌てた様子で飛び出しグランジエールの前に躍り出て顔面にへばり付く。


『抑えて下さいですピヨ!あまり大きな魔力をここで解放しては、面倒事が増えますピヨ!!』

『え?そう?』

『引っ込めて下さいですピヨ!もうライフはゼロですピヨ!』

『ええ?はやくない?』


 放出した魔力を引っ込めろと言われたグランジエールは、ちょっと不満気ではあるものの素直に青ひよこの言動に従って限りなく控えめながら通常モードにまで魔力を抑え込んだ。


 そして顔面に張り付いた青ひよこを少し勢いをつけて顎を上に振り、頭上に飛ばす。


 二人の遣り取りを大鹿は、自力で抑えられない全身の震えと得体の知れない畏怖を持て余すような、心無しか青ざめた面差しで窺い見る。


 青いひよこに関しては、どこかで記憶に引っ掛かる誰かと似ていたが、何故その姿が変わっているのかが理解出来ない。


 ただ、恐らくマルティエの帝都地下の存在なのだと当たりをつけたが、その存在が『若さま』と呼ばう強大な魔力と実力を内包していそうな仔猫とは?と考えを巡らせ、次第に全身が勝手に震えたのは仕方の無い事だろう。







 * * * * *






 従える方法は何も指示されていないが、どこまで此方の内情を話すべきかとグランジエールは少しだけ悩んでいた。


 齧られるのは御免被るので少々大袈裟に威圧を掛けはしたが、思っていたよりも早いスピードで自分は成長しているらしく遣り過ぎ感は否めない感じになってしまっていた。


 目の前にはガタイの良い大鹿が、ブルブルと震えながら四肢を折り身を低くして此方を伺い見ている訳だが、これが二代に渡って青水晶の大精霊を齧っていた実力ある精霊と考えると。


 何となくだが、しっかりと本人を識るまではサリヴァンとは関わらせたくない気がした。


 そして、恐らくだがレオナルドもこの大鹿の能力を利用したとしても側近くには早々には置かないと判断しそうである。


 どうしたものかと考え、青ひよこも姿を顕したからには多少は事情を双方で擦り合わせするべきかなぁと思考を着地させた。


『うーんと、きみもきづいているかもだけど、このひよこはていとのちか、あおすいしょうのだいせいれい。あ、しゃべっていいよ』

「‥‥‥‥‥随分とご無沙汰というか、姿‥‥変わり過ぎではないか?」

『こここここれは、深い事情があったのピヨ!止むに止まれぬ、深い!!深ぁい世界の不条理に翻弄され』

『で?きみは、なんでかじるの?』

「そ、それは‥‥‥」

『うん、それは?』


 そこからの自白タイムは脱力というか居眠りせざるを得ない、さして深くない事情とやらが暴露された。


 曰く先代の青水晶はその当時、本当に表面の塩分が超好みだったとかで偶に齧りたくて我慢出来ない状態になる相性の良さだったそうだ。


 ちょっと想定していた範囲内の回答ではあったが、内心「猫のまたたびみたいな感じ?」というのが正直な感想だった。


 代替わり前に本気で口説こうとラッシュを掛けたところ、思ったよりも速攻で代替わりをされてしまったらしい。

 結局代替わり後もあの塩味を忘れられず、齧りに出向いたらこれまたなかなかの相性だった。というのが犯行の動機と吐露してきた。


『おめでとう?』

『待つですピヨ!!!!』


 少々冷やかしてみるも本気のツッコミを返す青ひよこを観察し、滔々と馴れ初めを頬を染めながら語っていた大鹿も観察する。


 自分は種族的に伴侶に合わせた性別に固定されるであろう事が何となくではあるが判明しているが、精霊同士のこういった繁殖だとか一族の系譜だとかはまだしっかりと学習していない。


 妖精に至っては番だの契約だの、精霊よりも物質体に比重があるだけにより箱庭の多くの種族に近いけれど、精霊となると伴侶や眷属、また継がねばならない役目を負う立場がある場合の事例は、目の前の青ひよこくらいしかまだ知らない。


 ただ、どんな種族だとしても相手がある上での話なのだ。

 一方的な熱量だけで押し付けたり無理強いする関係は、結果どこかしらに歪みを生じるのは世の常だろう。


『うーんと、まずきみにさきにつたえておかないとなのは、このひよこのげんじょう』

「?」

『げんざいちょうばつちゅうにつき、かくをボクがのんじゃってます』

「は??」

『そのうえで、ボクにれいぞくしてもらってるんだけど、ほんたいもはんぶんくらいぼっしゅうちゅうなんだよね』

「え???」

『あとね、ボクまだすごいヒヨッコなので、しゅぎょうちゅうなんだ。だからちちうえからチカラになるたいしょうを、していされてこうしてまわってるってわけ』


 そこまで話を聞いた大鹿は、段々と顔色を悪くさせてゆく。


 勿論まだまだ年若い青水晶のちびっ子相手に、今すぐどうこうと考えていた訳では無かったのだが、今の内から愛でて押しかけてそのうちどうにかする算段だったのは言わぬが華なのだろうけれど。


 それも加味して、仔猫様が言うところの「父上」が、自分を物騒な響きの何かに対象指定したが故に今目の前にお座りしているのだという。


 しかも、マルティエの幼いとはいえ重鎮である青水晶の核を、飲み込んでいると言う恐ろしい話。


 これが真実であるならば、自分に従えと最初に言ったあの台詞。


 まさか自分も食べられる????


 段々と与えられた膨大な魔力と見せつけられた強大な力に、どんな方法で従えば良いのかとグルグルと目が回って来た。


『まぁ、ひよことはおたがいにいろいろとかくにんして。ボクこじんとしては、たべるせんたくはかんがえてないよ。それで?きみがどんなふうにやくにたてるのか、プレゼンしてくれるとたすかるかな』


 然も楽しそうな弾んだ念話の可愛らしい声は、大鹿には心底恐ろしく感じたものの、自分ではどうしようもない大きな存在相手に、大鹿は無意識にグッと喉を詰まらせた。










お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


ロリポップ認定なひよこさん。

先代には見事に逃げたれたものの、ひよこにとってはある種の擦り付け疑惑?


あまり話が進まなかったぁあ_:(´ཀ`」 ∠):

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