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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
二章
114/150

114、発覚

 

 初冬の月の折り返し、第三週の明の日の早朝。


 先程レオナルドが帰ってしまったので、改めてやや冷えた潮を含んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、意識して頬に集まった熱さを逃す。


 白練色の毛並みに上気した顔色などはっきり言えば毛並みの下の事なので、誰に見られた所で気付かれる事は無いのだが、どうしても青ひよこを喚び出す前に気持ちを落ち着けたかった。


 僅かばかりの時間ではあったが冷えた潮風で気分を持ち直したグランジエールは、足元に視線を向けてポツリと『ひよこ』と呟く。


 すると視線の先の地面から、ぼこぼことモグラでも出てくるのかという土の盛り上がりが発生し、その割れ目からピョコりと青いひよこが顔を出した。


『お呼びでしょうか〜ピヨ!』

『‥‥‥‥‥‥』


 崖に続く沿岸部は、ほぼ例外なく岩が多い硬い地盤が続いているのだが、そんな地面をまるで畑の柔らかい土の様な現象を起こし、しかも別れた時より若干艶々したふわもこの短い綿毛のような青い羽毛が土塊の欠片を頭に乗せ、あざとくキュルンと丸い瞳で上目遣いのまま挨拶をして来た一応大精霊である青ひよこ。


 あんまりな絵面に「その気の抜ける語尾は必要なの?」と溢れそうになるのを、心にグッと留め置く。


 その現実逃避(ツッコミ)と脱力感にちょっと無言になってしまったグランジエールだったが、一つ深呼吸をしてから瞑らな瞳で見上げてくる舎弟予備軍其の一(レオナルド命名)を見る。


『おはよう。こんしゅうもよろしくおねがいするよ』

『はぃですピヨ!』


 やや葛藤もあるものの、そういうものだと飲み込んだグランジエールは元気に返事をするひよこを改めて労った。


 そして一旦気持ちを切り替えるように咳払いを一つ、改めてレオナルドの残した課題や提案を話し始める。


『このしたにあるどうくつって、どんなものなのかしってる?』

『ええ、ええ、勿論ですピヨ!立ち入れる者が限られてはいるのですが、とても綺麗な地底湖があるのですピヨ!少し離れておりますが、私の寝ぐらとも繋がってるのですピヨ!』

『ねぐらって、あれ?ていとのちか?だったよね?』


 青ひよこの言葉に驚きの声を漏らしてしまう。


 この東の果は丁度南北で言えば中間よりやや北、そして帝都は中央より更に北西に位置していたと記憶の中のサリヴァン家にあった地図を思い浮かべ、そのほぼ帝国を横断した様な距離が繋がっているという話に驚きが隠せない。


『龍脈は大地の生命とも言える魔素の大元の流れであり、太古の地龍様の恩恵ですピヨ。本流より少し上層に、支流が幾つか伸びて枝分かれ、帝都の地下にはちょっとした溜まりがあるのですピヨ。お陰で私の青水晶が育ち、こうして力のある精霊として存在出来ているのですピヨ!』


 自慢げに小さな胸を張って鼻息荒く誇らしげな口調で語る青ひよこの話に、グランジエールは少しだけ嫌な予感がしたが、気分良く講釈を垂れる嘴をあえて邪魔せず頷く事で続きを促す。


『この土地は本当に古龍様の恩恵が深く、潤沢に龍脈の支流から魔素を得られた上に寝所にある尊い御身体も、永い年月を経て天地に物理的にも恩恵を下さっているのですピヨ!』


 確かにマルティエは他国に比べ、大地に魔素が潤沢で豊かな植生も種族も有名であり、食物生産も群を抜いている。

 西の隣国ファイトリネアを経由し、その西隣のカルトボルグにも自国産の穀物を出す程である。


 そんな話を最近ルーナエレンの横で習った記憶があったので、青ひよこが意気揚々と語る内容も理解出来た。


 だが、そんなに豊かな魔素や地力が有ったのにも関わらず、何故自分がここまでの永い間、孵化しなかったのか。

 そんな疑問がどうしても湧いてくる。


『ゆたかなくにであるのは、ボクとしてもうれしいけれど‥‥ちょっとぎもんにかんじてしまうな』

『どうされたのですピヨ?』


 得意げに語っていた青ひよこに向かって、少し首を傾げて教えを乞うような口調で話しかけると、途端に年上の様な雰囲気を醸しながら「何でも聞いてくれ」と言わんばかりにひよこは尋ね返す。


『しりゅうによって、だいちがゆたかになったのはいいことだとおもう。ただ、ほんりゅうのほうはもんだいなかったの?ボクにながれてくるえいようって、ほんりゅうからだったとおもうんだけど』

『御子様が眠っておられた深さを思うと、左様ですピヨね‥‥』

『ボクがおぼえているかぎり、えいようがもんだいなくめぐってきてたのって、わりとしょきだけだったきがするんだよね』

『ぇ‥‥‥‥』

『‥‥‥‥‥‥』


 青ひよこはまだ大精霊としては文字通りヒヨッコの部類なので、実際の初期って言われてもここ最近の数百年程度しか知らない。

 既に支流が潤沢に地表近くに張り巡らされていたし、自分が受継いだ青水晶ももう立派な佇まいだった。

 ドライアドの双子の菩提樹の大樹も既にあの堂々たる姿をしていたし、緑も絶えず大地を潤していた。


 そして、その状況に慣れ過ぎていたので、皆あまり龍脈の本流を気にしていない。


『ああっっ!!!!』


 もしかしてもしかすると、雛の孵化がここまで遅れた原因の一つを知らぬ間に自分達が気にも止めず放置していた可能性を認識し、青ひよこは羽毛を逆立てて縮み上がった。


 間違いなく、パパに報告案件である。


 グランジエールは無意識に深く溜息をついた後、小さな声で義父を呼んだ。







 * * * * *






 別れて即呼び出しを喰らったレオナルドは、地面にめり込むほどに這い蹲っている青ひよこを前に珍しく険しい表情で腕を組み、仁王立ちしていた。


「お前個体の問題ではないとオレも理解はするが、本気で杜撰過ぎないか?」

『お、仰る通りでございますピヨぉぉ』

「メイヴィスは、まぁこいつを守護してセーフモードだった訳だから仕方無いが‥‥先代青水晶とメルヴィンとエルフ供は本気で管理不行き届きでギルティだ。自身で見極めてからと思っていたが、ひよこ。お前はグランジエールに隷属せよ。エルフの能力は四割程度、強制的に削られるだろう。その分を龍脈の本流に戻し、支流は本数を二割にまでに絞れ」

『か、畏まりましたぁぁ』


 レオナルドは洞窟の話がこんな結果を引き出すとは考えても見なかったが、古龍の本体からの需給があったにも関わらず龍脈からも不適格に恵みを抜き取り享受していたマルティエの管理者達に、無意識にだが苛立ちが湧く。


 恐らくだが支流の張り巡らされ方が余りにも作為的な拡がり方なので、どの段階でそうなったのかは定かではないが穏当な配分ではないし一部への恩恵は計り知れないものだったのは明らかだ。


「ひよこ、お前の本体の核も一部没収する。もう少しグランジエールが育ってからになるが、喰わせるぞ。まぁ、隷属とはいえ絆は出来る。そこまで使えなくなる事も無いだろう。ああ、冬のうちにメルヴィンの樹もちょっとばかし折ってくるわ」

『ち、ちちうえ』

「平気平気、あいつねーちゃんよりも根っこめちゃ拡げてるから」

『たしかに、かんりふゆきとどき、なのでしょう。でも』

「庇う事はない。本気で存在意義を全く感じない程のやらかしだ」


 レオナルドから感じられるかつてない冷ややかな感情は、龍脈の本流が弱っている原因に対しての憤りと、不当な状態でも生き延びていた義息子への慈悲なのだろう。


 はっきりと言ってしまえば、現在の世界的に魔力の不足が生じている原因の一つでもあるのだ。


 いつもであればここで全てを壊し再生を待ったであろうレオナルドだが、今回ばかりはルーナエレンやアレンハワード、そしてグランジエールという家族を得て自分の感情も育ち始めている為、それはしたくない。


 ただ、龍脈の回復は途方もない時間が必要であるし、回復してからもきちんと主要な場所へそれらが巡る確証もない。


 懐深くに囲った存在達に、不利益が降りかかる状況を作った者共に対して忌々しいと感じていると、足元に暖かな何かがくっついてきた。


『ちちうえ、ボクはいまにうまれてくることができて、よかったと、おもうんです。ほんとうです』

「グランジエール」

『だいじょうぶです、ちちうえ。いまだから、ちちうえにもあえたのです』

「そうか‥‥お前、世渡り上手だな」

『ふふ、そうですか?』


 レオナルドはしゃがんでグランジエールが擦り付けてくる額を大きな手のひらで撫で、少しだけ表情を緩める。


「はぁ、仕方ねぇな‥‥もうちょっとオレも頑張るか〜」


 未だ這い蹲って震える青ひよこを一旦放置して、二人はこの後の予定を相談すべく視線を合わせて頷き合った。







お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


観光パートにする筈だったのに、青ひよこ隷属ルートに。。。

メルヴィンさんの所にも、後できっちりポッキリやりに黒いのが出張します。


最近、閲覧してくださる方が増えたり、ブックマークをして下さる方が少し増えたりして大変有り難く感じております。

とっても筆者のモチベーションも上がってます(о´∀`о)

本当に有難うございます♪


ゆっくりな更新ではありますが、引き続きぼちぼち頑張っていきますので、宜しくお願い致しま〜すm(_ _)m

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