104、蒸し風呂リニューアル
調査や伝達に向かう前に、先ずは壊した物は責任を持って修理しなければいけない。と言う訳で。
メイヴィスが遺跡内に存在する植物を介して弟へ連絡を取っている横で、ギデオンに蒸し風呂改造計画のプレゼンを通訳の青ひよこを通して行うグランジエール。
サリヴァン親娘の所有している膨大な書物や資料を、ルーナエレンにくっついて廻っていた期間でかなり知識として吸収していたので、その中に該当する参考資料や文献などもあったのだろう。
本当はレオナルドも話に加わりたいのだが、自分がその場に留まっているとギデオンと青ひよこの緊張が酷くて話が進まないだろうと予測出来る為、単独で遺跡内を少し散策してくると言って現場を離れている。
なんという事は無い。
空間魔法に帰る前に、土産話の一つに、ここのドワーフ達が調査したり関わっているというカラクリとやらを観察しておこうと考えたのだ。
アレンハワードとカーターなら、新しい観点から技術の統合を図った上で新しい『魔導具』どころか、更に進化した面白い物を作れるのでは無いかと期待が膨らむ。
若しくは、アレンハワードやルーナエレンに対応出来る、認識阻害の方法や手段の模索にも新しいアプローチが増える可能性もある。
等という諸々の期待と欲が八割かたもあるが、勿論念の為外の森の下見も含んだ散策だ。
森を枯らし侵食する藤という事であれば、姉のメイヴィスは平気でも下手をすればメルヴィンは飲まれるかも知れない。
国境付近とはいえ領地の山肌をいつから枯らされて居たのかも気付いていなかったのだから、上回る力量であるか、微調整がとても巧みな相手である可能性もある。
周囲に潜んでいるだとか、悪意だとかも併せてチラリと読み取ろうと考えていたのだが、報告の通り小規模な森枯れとその周辺の淡い紫が散りばめられた景色が、ある程度近付かねば認識出来ない状態で存在していた。
冬の最中の風景だとしても、周囲の生き物の気配を含め異様な程に何も感じられない。
集落自体は生活感はそのままで、忽然と住人若しくは生き物だけが姿を消した様な雰囲気だ。
そんな状態を眺めて森の少し上空から眺めていたレオナルドに、下の方から聞き覚えのある声が呼びかける。
『ご無沙汰しておりますレオナルド様!』
「おぉ、来たか緑のオネェさん」
『れ、レオナルド様!ご勘弁下さいぃ〜!!』
ルーナエレンの呼び方を真似て呼ばわれた相手は、情けない声で返してくる。その様子をチラリと視界の端に写したが、以前と変わらず嫋やかで胸の豊満な色気ある妙齢の女性の姿だったので、間違った呼び方ではない。
「お前、アレをどう思う」
速攻で会話のキャッチボールをぶった斬り、レオナルドは無人の集落に目を向けた。
『気配や魔力の残滓も含め、十中八九ここは藤の蔦の集落かと』
「見たまんまかよ。誰も居ないが?」
『左様でございますね‥‥』
「‥‥‥何時からこの場所に集落が出来て、この状態に?」
敢えて答えられないだろう質問を、メルヴィンの横に降り立ちながら投げかけてやると、明らかに青褪めた顔をやや俯かせた美女が狼狽えて僅かに躊躇いながら口を開く。
『‥‥執政や、それに連なる氏族についてはその、青水晶が帝都にて管理しているものとばかり‥‥』
「へぇ、そうなんだ。とでも言えば良いのか?寝惚けすぎだろお前ら。逆に聞くが、どれくらい時間を遡ったら、お前ら正確に把握出来てんだ?何を見て何を守ってきたんだ?」
『ぐっ‥‥‥』
矢継ぎ早に被せる様に放たれる鋭い質疑に対して、言葉を詰まらせ唸るだけのメルヴィンのその反応に、思わず吐きたくもない溜息が出る。
周囲の植物や内部の魔術に干渉して大凡の時期を観測すれば、判明する事象も幾つか出るだろうがそこまでアドバイスが必要かと視線を向けると、メルヴィンは硬い表情で軽く首を振った。
『申し訳ございません。これらこそ、本当に我らの怠惰と認識の甘さが招いた事態なのですね。内部の結界は保ったままの方がよろしいですか?』
「そうだな。解放の是非はこちらでも検討しよう。精々励め」
『畏まりました』
鎮痛な面持ちで胸に手を当てて深々と頭を下げた後、メルヴィンが結界の外側の藤に絡みつかれた木の幹に触れ始めている。
どうやらアドバイスは必要なさそうだった。
* * * * *
外の森の確認を済ませて遺跡に再び戻り、カラクリなどをある程度見て周ってから洞内の拠点に戻ってみると、ドワーフ達の蒸し風呂がリニューアルされていた。
以前は焚き場があった場所と蒸気を貯める湯殿にあたる部屋が仕切られていたが、改装後はグランジエールが得た弱い火の属性の魔術式を利用して床に地熱を留め、焚き場の釜はそのまま利用したようだ。
焚き口は煉瓦造りに仕様を変えられ、その上には大人の顔くらいの大きさの石が崩れない様に沢山積んである。
そしてその少し横に大人の腰あたりの高さがある岩を繰り抜いたような水槽があり、中を覗くと小さくて透き通った水の低級妖精が数匹、楽しそうに泳いでいた。
「へぇ、この水槽自体に浄化を刻んでるのか。なる程、エレンの護符と似てるな?」
『はい、しようじはここからよこのねっしたいしに、みずをかけます』
「ふむふむ。水槽から溢れた水は真ん中の水路を通って‥‥おお?!地熱で温くなってる!面白いな!」
『見て下さいませ!その先にもう一度浄化の護符を通って、洗濯場に繋がってるのですよ!』
「おぃぉぃ、なんだよその素敵仕様!こりゃ帰ったら、うちでも似たようなの作らなくちゃな‥‥‥」
『ほんとうですかちちうえ!』
故意ではないもののほぼ内部破損させてしまった施設のリフォーム話が、蓋を開けてみれば壊れ性能の最新式となっていた。
褒められてニコニコのグランジエールと、それを持ち帰り再現させた場合の同居人達の賞賛を妄想したレオナルドのニコニコが、もう本当に親子っぽいとやや外側で見ていたギデオンには感じてしまう。
ちなみに、ずっと青ひよこさんの自動翻訳は常時起動している状態なので、先進的な技術や発想力や知識、そして土や魔術を行使する力量に対して、本気で尊敬はしているもののイマイチ締まらない雰囲気になっていたりする。
『ボクもはじめてのことがおおかったですが、ギデオンのつちのまじゅつはすごかったですよ!』
「ほぉ、そうなのか」
急に話題に自分の名前を挙げられて驚きつつも、素直な賞賛の声に頬を掻く。
「いや、若様?の考える技巧がこの辺りじゃ知らないもんだったからな、つい張り切っちまった」
自分の拠点内の改装工事でしかもかなりの利便性が向上した上、技術的にも知識欲も満足行く共同作業だった様子で、レオナルドの不在中に幾分グランジエールとドワーフ達が打ち解けていた。
負傷していたドワーフ達はレオナルドが戻ってくる前に復調し、ギデオンやグランジエールと青ひよことメイヴィスに戸惑っていたが、目の前で繰り広げられた蒸し風呂改装工事にすっかり没頭した事により馴染んでしまっていたのだ。
ギデオンが仲間達と蒸し風呂の試運転をするべく離れるのを待っていた様に、グランジエールがレオナルドの足元へと身を寄せる。
それを自然な動きで片腕で掬い上げ、レオナルドは義息子を抱き上げた。
大型獣の仔猫の特徴とも言える太い前脚をレオナルドの肩に乗せ、囁く様な念話を送る。
『ちちうえ、ボク、ギデオンとならなかよくできそうです』
「お!分かってるじゃないか。後はエレンがどうかなぁ」
『うーん、すこしなれたら、だいじょうぶじゃないかなぁ?』
「そう思うか?じゃあ外の伝達も終えたら一度顔合わせに戻って来い」
ギデオンの引き抜きは決定事項となったが、まだ本人達の意思を確認していない。
仔猫は可愛らしく小首を傾げ、義父に問う。
『え?ボクがゆうかいするの?それともちちうえ?』
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
レオナルドとグランジエール義親子、随分仲良しになってきました。
そして需要のないおっさんデレ。
次回はやっと存在感なしのエルフさん回の予定です。多分??




