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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
二章
103/150

103、ころりん

 


 首根っこを不意に引っ掴まれたギデオンが何事かと目を白黒させている間にも、ごく僅かだった振動と妙な音は次第に大きくなりながらどんどんと近付いて来る。

 初見の場所であっても空間をある程度把握出来るレオナルドだが、洞内のこの拠点が物理的に二重構造などでも無く他の遺跡の大部屋などとも被っていないと把握している。


 そうなれば、この音と振動はどんな構造のどんな場所を通過していて、何処へ向かっているのか。


 不明な状態の今でも特に脅威も危機感も湧かないので問題はないのだろうが、不審さに思わず優美な眉が寄せられて眉間に皺が刻まれた。

 一方のギデオンの方は背後から急にがっしりと首根っこを掴まれて動きを止められ、黙したままのレオナルドの動向が読めず固まっている。


「あっ!あいつ」


 背後から何事か気付いて若干慌てたようなレオナルドの声が漏れ聞こえたが、既に疑問で思考を埋め尽くされていたギデオンが何かしらの反応を返すより早く。


 ズドオォォンっという重量物が急落下したような轟音が轟いた直後、蒸し風呂と聞いていた施設の隙間という隙間から、ぼふりと煙らしきものが立ち上り、一拍後に施設正面の壁がバターンと内側から外へと倒れて来た。


 緊迫とは違った、何とも言えない微妙な空気が辺りを支配するが、レオナルドの「コントかよ」という漏れ出してしまった本音らしき呟きにギデオンは首根っこを掴まれているにも関わらず力一杯振り返る。


「へ?!」

「‥‥‥悪い、これうちの愚息ちゃんとその舎弟かも。きちんと修復させるわ〜」

「‥‥‥‥‥はぁぁ??」

『ええぇ!?!若さまぁっ?!』

「あ、お前ら動くなよ?オレが拾いがてら中も見て来るから」


 掴まれていた首から手を離されたギデオンが呆けたようにコクコクと頷いているので、背後も一応振り返る。振り返った視線の先のメイヴィスも、植物の蔦っぽいのを伸ばそうとしていたの慌てて引っ込め、高速で首を縦に動かしていた。


 レオナルドの想定では、魔虫の侵入経路をほぼ辿った形で、お外に行っていた雛組が遺跡内のこの拠点へと戻って来たと考えられる。

 そして先程の煙は、蒸し風呂の焚き場か湯釜付近に衝突するように落下して来た可能性が高い。


 念の為自らも防御の為の空間隔離を纏い、現場に一人歩き出す。


 一部倒壊し建屋の歪みはあるものの、さすがドワーフの技術者が加工した施設ともいうべきか。二次災害的な倒壊が起こる気配はないけれど、煤や灰や埃と様々な破片で喉をやられそうだ。


 レオナルドは取り敢えず()()()達に問題がない事を気配で察知し、素早く片腕を軽く振るう。

 風が先程から舞い上がっていた粉塵をある程度巻き上げ纏めて閉じ込めると、凝縮させて手元で凝固させ固定と隔離をかけた。


「派手な帰還だなぁ?変なモン全部煙突掃除しながら落ちたって感じだが、どうした?」

『けほ‥‥ちちうえ、ただいまもどりました』

「おぅおかえり。で?」


 ころりと蒸し風呂の施設から転がり出て来た白っぽい塊が、ゆるゆると姿を解く。仔猫が青いひよこを腹に抱えていた様子で、よく見ると若干花緑青の瞳が小さく左右に揺れている。


「くくっ!目が回ってるな!」

『めがまわる??‥‥よく、わかりませんが‥‥とちゅうから、ころがってしまって』


 言いながらもまだ平衡感覚が戻らないのか、戸惑った念話の声に幼さを感じて意外と好ましいと感じる。


「ひよこは‥‥何だ、気絶してんのか?精霊のくせに?」

『とちゅうまではもぐってすすんでいたのです。でも、よくないものでよごれていたので、ボクたちあわててしまって』


 まだ詳細な説明は上手に出来ていないが、通気孔の内部の状態がどうであったかはきちんと保護者(レオナルド)に伝わった上、結果的に煙突掃除と問題のある『汚れ』を現場の分も併せて除去出来た形になった。


 落下時には凄い衝突音がしたが、曲なりもどちらも極めて強い土の属性が本性だ。怪我の心配は無用だろう。


 レオナルドが収穫(?)した塊により、ほぼ何があったのか大凡の把握が出来たので、グランジエールが外で何を見て来たのか、その報告を促す。


「まぁ、無事で何よりだ。んで?外はどうだった?」

『はい。ふじのはなと、かれたかけたもりと、いくつかのむじんのしゅうらくがありました』







 * * * * *






 グランジエールの藤の花と枯れかけた森、無人の幾つかの集落という単語を聞き、肩を揺らしたのは一番背後に控えていたメイヴィスだった。


 彼女(メイヴィス)は孵化する前のグランジエールと永い時間地中深くに居たけれど、双子であるメルヴィンから極々プライベートな部分以外は知識の共有が可能であり、先程から嫌な予感がしていた。


 ただ、今の自分が動くのではなく、この件の確認は(メルヴィン)を差し向けるべきだと考え、レオナルドにそう進言する事にする。


「メイヴィス、どう考える?」


 どう切り出そうと一瞬思考を巡らせていたところ、同じような答えが見えたと思われるレオナルドから先に問われ、恭しく首を垂れて返答した。


『恐らく、お考え通りかと‥‥。愚弟に森を探らせます。森自体をもしも搾取している藤となると、わたくし自身では、まだ触れずに居た方が良さそうですし』

「そうだな。メルヴィンと青ひよこ(長年サボってた奴)の領分と言えるな。では、メルヴィンに至急現地調査させろ。ひよこ、黒壇の小枝(ウィカーエバ二)の居住地は把握しているか?もし知らなければグランジエールに助けを乞え。帝都の菩提樹の根(ロートリンデン)と併せて、先程の状況をきっちり伝えておけ」

『畏まりました、愚弟を直様向かわせます』

『ぴ、ピヨ!』


 気絶していた青ひよこも、グランジエールの前脚によるお腹ぷにぷにで意識を取り戻したばかりなのだが、状況をうまく把握出来ていないとは言い出し難いので返事が若干挙動不審気味になる。


 恐る恐るグランジエールを見上げるひよこの視線に気付いたレオナルドが、こほんと咳払いをして視線を集め、ニヤリと端正な容貌に邪悪な彩を浮かべた。


「本人は多分語らないから勝手ながら言っておく。アレンはエルフが大嫌いだ」


 色々と語弊はあるかも知れないが、只管に、ただ只管に事実なので堂々と言い放つ。


「ただアイツはいくら苦手で嫌悪感があろうとも、恐らく初対面の相手に向かって礼儀を欠くことは無い。それでも、どうしても相性というものが悪いんだ。祖国(ネヴァン)の上層部の有力な家には、エルフと同等な資質を有する家が幾つか有る。その中でもアイツは、更に特殊な氏族の先祖返り。そんな祖国内ですら、異質な子供として育った可能性がある。オレとしてはもう、必要以上に煩わせないでやりたい」


 言外にサリヴァン親娘への深い愛情と共に、なるべくエルフに関して情報を近付けずに内々に処理しろと伝える。

 そして、グランジエールを青い眼が真剣に、ひたりと見る。


「お前はまだ雛だが、エレンを護りたければ矢面に立つという覚悟を決めろ」

『はい』

「なぁに、心配は要らない。お前のバックにはオレが居る。思うようにやればいい、エレンに嫌われない範囲で」

『‥‥‥ちちうえ、ナイショにしたらいいですか?』

「バレなければ?」


 愉しそうに嗤うレオナルドだが、メイヴィスは知っている。


 ルーナエレンが他者の感情をある程度読み取れる事、サリヴァン親娘は特に勘が鋭い事。何よりも膨大な知識と記憶を継ぐ血筋なので、ナイショの仕方が果てしなく難しいという事。


 情緒も能力もまだまだ発展途上なグランジエールは、なかなかなスパルタ教育を施されるのだろう。


 メイヴィスにとって幼い二人は、ほぼ等しく尊く、そして生涯掛けて全身全霊を以てお仕えすべき存在だ。


 その片方が今、『黒』に染まろうとしている。


 忙しなく脳内でそんな考えを巡らせ、くぅっと涙を堪える仕草を見せたメイヴィスに向かって、レオナルドが冷ややかな視線を向ける。


「いや、ソイツ割と最初から黒いし」

『ちちうえひどいです!』


 可愛らしくぷんぷんしながら言う(いとけな)い声が、何となくレオナルドの主張が正しいと裏付けていた。





お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


あっれーギデオンさんどこ行った??

ギリとはいえ、似たもの親子になりそうなレオナルドとグランジエール。


次回は久々のオネェ回のつもりです。

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