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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
10/150

10、説明と釈明

 昼食会を欠席する事が保護者たちによって決まっているルーナエレンは、そのまま空間魔法(おうち)で昼食を摂らせ、全体的に萎れて前髪の一房が白くなったメルヴィンを、お守りに任命し待機させる事にした。事後承諾で先程レオナが彼を連行して来たので、現在再びアレンハワードの前に正座していたりする。


「ドライアドのメルヴィンと言ったね。私と娘については其処(そこ)のがポロッと話したらしいけど、それが世間に広がった場合の影響を、君は正しく理解しているのかい?」


 穏やかな微笑みを浮かべている麗しき青銀の髪の青年だが、そのアイスブルーの瞳は至って極寒の色合いを湛えている。

 黒髪の少女に対しても底知れない畏怖を感じたが、彼からも同等の威圧を感じ、メルヴィンは震え上がる。名前を呼ぶ許しも出していない人間のはずなのに、かなり古い妖精でこの地の妖精の首領ともいえる自分が、ここまで畏怖を感じるだなんて。これが正当な、自分よりも古い眷属の先祖返りというものなのか。


 ぷるぷると怯えながら、アレンハワードの言葉を取り零さないよう、必死に耳と意識を傾けているメルヴィンを、つい先程まで同じように正座でお説教を受け背筋を凍らせていたレオナも、仁王立ちで控え頷いている。

 メルヴィンの、古からの眷属の先祖返りがこれ程の力量なのかと怯えているという事態を理解しつつ、敢えて訂正もフォローもしてやらない。

 何よりもまだ、アレンハワード自身が正確に思い出していないからではあるが、傍観者であり管理者である側面からは、態々教えるべきではない。


「マルティエはこの龍の背骨を含む龍の寝所がある為、他国よりも魔力の希薄さに関して、そこまでの深刻さはないのかも知れない。だが、他国はもっと魔力の減少による影響で、土地の豊かさに繋がる小さな妖精や精霊が中々居つけない。国にもよるが、人口の二割程度しか魔力保有者が産まれないのが現状だ。マルティエでは、どんな状況かな?」


 この帝国は亜人が人口の六割を占めている。元々龍の寝所である魔の森付近に高い魔力を持つ種族が、部族単位で纏り小さな規模の国を幾つも作っており、それが長い歴史の中で小競り合いを繰り返し、序列が出来て帝国となり、それぞれの小規模な国は領地となった。亜人と言われる獣人も、先祖が聖獣という系譜がはっきりしているパターンだと、比較的人間と変わらない姿をしており、魔力も他の亜人より高いという。


 古の山の末神と地龍から、恐らく魔力の高い龍人が統治する筈だったと想像出来るが、実際は龍人は生まれず現在森の賢者が龍の背骨の尾の先端にあたる高い山と森に、帝都を築いている。

 龍人以外のこれらが、アレンハワードが故郷で魔法と魔術の研究をしている中で書物から得た知識だが、現在の状況は分からない。


 このモルガン領の領主がもし聖獣の系譜であり、人間に近い姿をしている場合。一族の魔力の底上げを願っている人種であり、その実力も妖精と契約を持っている段階で、推して知るべしではあるが。

 記憶にあるこの帝国の知識と、今日得た様々な知識や状況などの流れを加味してから、少し表情を和らげアレンハワードは続ける。


「モルガン伯は、恐らくなのだけど‥‥聖獣の裔なのだろう?」

『!!!』

「鷹の翼はね、他の裔よりかなり魔力も高いけれど、短命でね。目的のある旅の途中で、魔力の高い血族を増やすなんて役目も出来ない。何よりも私の血を引くと言う事は、私の眷属の呪いも受継ぐ事になると理解して欲しい」

『そんな、呪い‥‥‥だ、なんて』

「本当だよ、私の一族の直系は多少の違いはあっても、二十五歳を越えられない。魔力が高ければ高い程短命だしね」

『貴方、でも、先祖返りなんでしょ?じゃあ魔力だって相当‥‥‥』


 アレンハワードは穏やかに微笑み、その薄い唇の端をほんの少し上げて右手の人差し指をそっと唇の前に立てた。


「お願いだ。少しでも娘の為に旅を続けて先に行きたいんだ。領主を説得してくれると、嬉しい」


 話し合いを始めた時の凍える様な雰囲気はすっかり消えていて、願いを口にしたアレンハワードの表情は焦るでもなく何故かとても穏やかに凪いでいて、メルヴィンは言動以上に時間が無いのだと爆然と悟ってしまった。

 色んな事象を記憶にある限り探してみるが、きっと土地柄もあるのか短命の呪いも魔力の高低に寿命が短くなるなんて関係する話は聞いた事がない。

 思わず、項垂れてしまう。つまり、自分には彼に無理強いする事は出来ないという事だ。


『‥‥‥‥分かったわ。ダーリンはちゃんと諦めさせる。勝手にごめんなさい』

「聞き分けてくれて助かるよ」

『ただ、姉にも関わる事でお願いがあるの!!近頃この龍の背骨の範囲ですら、上手く魔力が循環しなくて。魔物すら様子が変なの』


 深緑の瞳に真摯な願いを込め、メルヴィンはアレンハワードを見上げる。

 魔の森でもかなりの影響力も実力も持っているであろうメルヴィンでも、感知出来ても正せない異変となると。

 この森に入ってすぐ、正に警邏隊に遭遇した際にルーナエレンが感じていたものだろうと察する。原因については調査も何もしていないが、『還す』事はルーナエレンが出来る筈だ。

 そう思ってメルヴィンの後ろで腕を組み、こちらを向いて立っているレオナに視線を送ると、同じ考えなのが分かった。


「出来る範囲でなら、手助けすると約束するよ。さて、使者殿が私の『眼』の範囲外周に触れるぎりぎりまで来ているようだ。一先ずこれを躱す。話はそれからだ」

『ありがとう!それで十分よ!!』


 萎れかけていたメルヴィンだったが、それなりに双方共に前向きな話合いが出来た事に満足したのだろう。輝くような笑顔を見せていた。




 * * * * *



 程なくして客室に、使者の到着を報せる先ぶれとして、アスコットがやって来た。


 勿論、アレンハワードの『眼』や『耳』としていつの間にか龍の背骨に棲まう小妖精達が勝手に報せてくれるので、お昼寝明けのルーナエレンに一旦部屋に出て来てもらい、新しい絵本を渡して読んで待っている旨を確約済みだ。内緒で、人が来た時以外は空間魔法(おうち)に居ても良いと話しているし、メルヴィンも一緒に居てくれる事も含めてルーナエレンは納得している。


 部屋に誰かが近付いて来ればメルヴィンにも分かるし、アレンハワードが部屋に戻って来ればそれだけでルーナエレンには感知出来る。

 今朝の大泣きから、一人で参加した朝食会で冷気を垂れ流しながら、どれだけ愛娘だけが全てか話しているアレンハワードの親バカ魔王っぷりも短時間で拡がりつつある様なので、大丈夫だろう。


「じゃあ、エレン。お利口にしていてくれるね?」


 やや大きめの絵本を小さな両手で抱え、ルーナエレンはこくりと頷くと父を見上げて微笑んで、小声ながらも送り出す言葉を紡ぐ。


「いってらっしゃい」


 客室の扉の向こう側で親娘を見守り待つアスコットも、微笑んでいるルーナエレンの様子に心配半分安堵半分というような少し微妙な表情だ。

 何より自身も含む救援の件での使者の来訪なので、当然隊長としての参加義務がある。警邏隊のいち隊長である自分よりも高位の騎士が使者として遣わされているので、今朝の様な泣き止まぬ幼女にオロオロする事態にならずに済むならそれに越したことはないのだが、いかんせん不慣れな場所で客室に一人残されるルーナエレンに、少しばかりの不安が残るのだ。


 そんな心情を知ってか知らずか、アレンハワードは見送る娘のいる部屋の扉を閉め、上衣の懐から小指の先半分程の小さな魔石が付いた組紐を一本を取り出すと、ドアノブに一度掛けまた直ぐ組紐を懐に仕舞った。

 途端に一瞬ふわりと小さな魔法陣が浮かび、扉に吸い込まれるように消えた。


 魔法陣が消えた扉からくるりと身を翻したアレンハワードは、何でもないような顔でアスコットに視線を合わせる。アイスブルーの瞳はすっかり凪いでいて、愛娘の留守番に何一つ憂いは見られないようだ。

 その視線を合図と受け取ったアスコットは、今度こそ安心して顔合わせをする会議室へと、彼らを案内するべく先頭を歩き出した。



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