協力者を確保しましょう!
「で、どうなんです? ちょっとは役に立ちそうな情報、手に入ったんですか?」
持ってきてくれたクッキーを自分でもつまみながら、イルマは単刀直入に聞いてくる。この子のこういうストレートなところ、気に入っているのよね。無駄な気を使わなくて済むというか。
「ぜんぜんよ、やっぱり魔女の情報なんて、文献にのこしたりしないものなのね」
「表に出る情報ではないでしょうね」
デイルも考え深げに頷く。人目のないところでは途端に幼なじみの気安さに戻るイルマとは真逆で、デイルは執事としての距離感をいつでも気にかけているみたい。
私よりもひとつ年下の十六歳だというのに、デイルはもうしっかりとその辺をわきまえているらしい。
「でも、社交界でもそんな情報、聞いたことがないわ」
「あったり前じゃない。公爵家と王家に魔女の呪いがかけられてるなんて、上位貴族では有名な話なんでしょう? そんなナーバスな状況の人に、わざわざ魔女の話なんてしないと思うよ」
「こら、イルマ。言葉を慎むようにいつも言っているだろう?」
「だってお兄ちゃん、こんな書庫の本ばっかりずっと探してても、時間がいくらあっても足りないじゃない」
「イルマ!」
イルマを諫めようとするデイルを、私はあわててとめた。
「いいのよ、デイル。イルマの言う通りだわ」
「申し訳ありません」
「ううん、むしろ言ってもらえて良かったわ。確かに、書庫の本から得られる情報なんてたかが知れてる」
そうよ、もうそんなに時間は残されていないんだもの、もっと効率よく情報を得る手段を探さなくちゃ。
「さっきイルマ、公爵家の人間に『魔女』の話をわざわざする人なんていないって言ったわよね」
「うん、普通に考えて、私だったら相手が嫌がりそうな話、しないと思う」
もしかしたら、王家と公爵家以外なら、今でもそんな話は聞けるものなのかしら。それは、探りを入れてみる必要があるわね……。
「ねえデイル、ローズ様とカンヌ様にお茶会のお知らせをしてくれるかしら。相手の都合がつくところで、なるべく早く」
「かしこまりました」
「あっ、なるほどー。お二方は方向性が違う情報通ですもんね。確かにいいかも」
デイルにいくら諫められたところで意にも介さないイルマは、あっけらかんとそう言って笑った。
それにしても『方向性が違う情報通』とはよく言ったものだ。
ローズ様はゴシップ系の噂話はなんでもござれ、なにをどうやって情報を集めているのか、公開されている婚約情報はもちろんのこと、不倫、破局、片思いから恋の進展情報まで網羅していると聞く。ちょっと怖い。
そしてカンヌ様は、ホラー系の噂話が大好きなのだ。猫のあくびまで霊現象と結びつける、なんて不名誉な噂が流れたこともあったけれど、玉石混合だとしても、価値ある情報に行き着く可能性も高い。
この二人の協力が仰げれば良いのだけれど……。