頼もしい二人
タイン王子にぶっちゃけてしまったわけだから、もう隠れてコソコソする必要もない。
翌日から早速私は調査に没頭した。
タイン王子は「自分も調査する」「君だけの問題じゃない」なんて食い下がってくるけれど、今のところはうまいこと言って、毎度お引き取り願っている。
だって、困るじゃない。
一緒にいる時間が長くなればなるほど、隠し通すのは難しくなるわ。
私が前世の記憶をそっくりそのまま持っているだなんて、タイン王子に知られたら、きっと彼は罪悪感を持ってしまうだろう。
それはイヤだし、タイン王子を危険な目に合わせるのもまっぴらごめんなの。
こんな強力な呪いをかけることができるほど凄腕の魔女だもの。もしかして300年経った今でも生きてるかもしれないし。
調査の過程で新たな呪いをかけられたなんてことになったら、目も当てられないもの。なんせタイン王子はこの国でたった一人の王子様。絶対に危ない目にあわせたりしない。
私は今日も、自邸の資料室にひきこもる。
今はとにかく情報が欲しい。
呪いを解く本をあれこれ探して、書いてある方法を試したりもしてみたけれど、本に書いてある解呪くらいでなんとかなるようなヤワな呪いじゃないらしい。
だから今は、300年前のあの頃のことをできるだけ調べている。
解呪の本に書いてあったの。オリジナルな呪いは、呪いをかけた本人にしか解けないものが多いって。ただ、その血縁者や一門のものなら、解呪できる可能性があるとも書かれていた。
だからまずは、テールミオン様が依頼した魔女が誰かっていうのを特定するのが喫緊の課題だ。
ただねぇ、当時だって魔女の話題なんてタブーだったのよ。
私はメイドだったから、もしかしたら上流階級のお嬢様たちは闇ルート的ものでそんなブラック情報が流れていたのかもしれないけれど。
「そろそろお茶になさいませんか? 根を詰めすぎですよ」
「デイル」
私の執事、デイルがティーセットを持って現れた。言われて窓から外を眺めてみれば、もうずいぶんと日が傾いている。
確かに夢中になり過ぎたみたいだわ。
「ありがとう、ああなんだか体がバキバキだわ」
「もう、昔っからお嬢様は何か始めると際限がないんですから!」」
首をコキコキと鳴らしていると、苦笑するデイルの後ろから、ぴょこんとイルマが顔を出した。
淡い紫の髪と瞳が特徴的なこの兄妹は、私付きの執事と侍女だ。子供の時から一緒に育って、いまだに幼馴染みたいに仲良くしてくれている。
もちろん、前世の記憶もちの私からみたら、可愛い甥っ子、姪っ子のようにも思えていたのだけれど、今となってはこの二人の協力なくしては呪いの調査だってままならない。
本当に頼もしい二人だ。