ごめん。やっぱり僕は、君を愛せない。
「ごめん。やっぱり僕は、君を愛せない」
泣きそうな顔で、目の前の男が小さく告げる。
「愛せない」ですって。なんて残酷な言葉なんだろう。
努力したけど無理だった。暗にそんな言葉を投げられて、私はひとつため息をつく。
「わかってるわよ、そんなこと」
生まれ落ちた瞬間から私の婚約者だった男は、沈痛な面持ちでそんなことを告げるけど、そんなの三百年前からわかってる。
あなたは私を、きっと一生愛せない。
「こんな気持ちのままじゃ、君とは結婚出来そうもない。婚約を解消したいんだ」
言うと思った。「僕は君を愛せない」だなんて、婚約解消の決め台詞としてはサイテーなんじゃない?
「バカねぇ、できるわけがないじゃない」
でも仕方ないことだわ、だって愛なんて、努力して生まれるものじゃないものね。第一、貴方が私を愛せる筈がないんですもの。
痛む胸をそっとおさえながら、私は酷薄な笑みを浮かべる。
「貴方だって知ってるはずじゃない、私たちが婚姻しないと国が滅ぶのよ」
「君こそ分かっていることだろう。魔女の呪いだのなんだので婚約するなんてバカバカしい、そんなの何百年も前の言い伝えじゃないか。気にする方がどうかしてる」
「まぁそうかもね。でも、言い伝えを無下にして、本当に滅んだらどうするの? どう滅ぶかなんてハッキリしてないのよ。戦争? 災害? 伝染病? なんにしたって、苦しむのは何の関係もない国民だわ」
ほらね。何も言い返せなくなるじゃない。もう何十回おんなじ会話したかわかんないわよ。
「でも、貴方の言い分もわかるわ。このままいくと私たち、来年の今頃には結婚しないといけないものね」
そう、タイムリミットは刻々と近づいてる。
「心配しないで。貴方がそうやって悩むから、私、もう随分と長いこと魔女の呪いを解く方法を研究してるの」
「えっ」
弾かれたように、私の婚約者……タイン王子が顔をあげる。そんなに驚かなくてもいいじゃない。
「私だってこのままじゃいけないと思っているのよ。少しだけ手がかりも掴めてきたわ。タイムリミットまでに間に合うかは分からないけど、結婚しなくて済むように、私だって頑張ってるのよ」
「……」
なによ、その驚愕の表情。ぬか喜びさせちゃ可哀想だから今まで言わなかっただけ。私だって、ちゃんと考えてる。
「だから、毎週わざわざ、愛せないって言いに来なくていいのよ。貴方は貴方の愛を育めばいい」
「僕は……!」
「呪いは、愛人を持っちゃいけない、なんて言ってないわ」
だって、私を苦しめるための呪いだもの。むしろ推奨されるくらいだろう。
本当にムカつく呪いだわ。