第五話 序盤のマップとはこんなものだ
王都周辺のハリア草原は、言わば最序盤のレベル上げマップだ。
突くと前蹴りしかしないワイルドチキンを始め、予備動作の長い酸を吐きかけるしか能のないブルースライム。
そして基礎的な動きを周知するのに便利なゴブリン。
その中で狙うならゴブリンだろう。
ハリア草原に出る前に剣鬼は冒険者ギルドで1つの依頼を受けている。
常駐討伐クエスト ゴブリンの間引き
期間 無期限
報酬 10体毎に500エネルと
下級の武器防具装飾品箱の中から
ランダムで1つ。
内容 最近ハリア草原のゴブリン生息数が上昇傾向にある為、その間引きを冒険者にお願いしたい。
受注条件 無し
序盤における金策クエスト兼装備拡充クエストを兼ねている、まさに初心者支援の為にあるクエストと言っていい。
おかげ様で、ハリア草原の人口密度は凄まじい事になっているのだが、流石24時間AI監視体制に加え、大容量サーバーの有無は無駄ではない。
序盤における過密地帯にはチャンネルをAIが臨機応変に増やすことで、その供給をうまく賄っているようだ。
適度に人はいるからPTを組めるし、険悪になるほど過密ではない、素晴らしいさじ加減である。
さて、己も参戦だと息巻いて、ますばと、ベースレベル上昇に伴うステータスポイントを振ってしまう。
ベースレベルは5に上がっているため、所得ステータスポイントは20。
それをSTR5、DEX10、AGI5という風に割り振りっていく。
SFOの装備には時に必要ベースレベル以外で、ステータス値を満たしていないと装備できないものがある。
物理装備ならその多くがSTRやDEXとなるだろう。
STRに関しては副次的に貫通倍率よる、スキルや通常攻撃のダメージアップにも繋がる為、全く上げないという選択肢はない。
DEXに関しては生産系への影響以外にも、ダメージを与える際に発生するダメージの最大ダメ、最小ダメの乱数を調整する効果がある。
具体的には検証結果曰く、与ダメージ時、最大値に対し、最高で40%の減算が認められたと。
つまり運が悪いと与ダメが4割減る。
この悪魔の乱数、その最小幅を緩和し、最大10%の減算まで揺れ幅を縮める事が出来るらしい。
更に検証がややこしく全容が明らかになっていないものの、クリティカル判定にも影響を与える、物理において大事なステータスとなるのは最早語るまでもない。
そしてAGI。
これは多少の身体的行動速度の増加及び、AVOIDと呼ばれる特殊判定への影響。
そして"ダメージのクールタイム"と呼ばれるSFO特有の判定を短くする効果及びクリティカル抵抗に影響を与えるとされている。
現状剣鬼の構想している戦闘スタイルなら、AGIとDEXをメインに装備要求ステータスに問題ないくらいのSTRを振るのが理想だ。
最悪課金で振り直しが可能な為、渋る理由もない。
「これでよし。後は課金システムから女神の祝福を購入、使用、と」
女神の祝福、戦闘所得経験値にプラス50%の補正、ドロップ率に25%の補正、及びインベントリの増加の効果をもつ課金アイテム。
補正期間は現実時間で1カ月であり、値段は1980円と効果を考えればそう高くはない。
実質的な擬似月額制ではあるが、ガチャシステムが第一世代より法律上禁止されたとはいえ、かなり優しい値段設定だろう。
ついでとばかしにゲーム時間で一時間戦闘所得経験値が30%上昇する見た目丸薬の課金アイテムと、ドロップ率が15%上昇する課金アイテムを10セットずつ購入し使用する。
どちら10セットで1500円、単価だと180円となる。
「やるからには課金とはいえ惜しまず全力だ」
「……王都から先ずは離れるか」
拠点近くは流石にチャンネルが増えていても人が多く効率が悪い。
更に言えばエンカウント率も人の集まる場所から遠ざかるほど高いと、ベータテストの検証で判明している。
時折まばらに生えている広葉樹を幾つも過ぎ去り、幾人かのプレイヤーを通り過ぎた頃、ようやく立ち止まる。
マップ機能には周囲にプレイヤーの反応はなく、敵シンボルを表す赤い光点が散在しているのみ。
「この辺りでよさそうだな」
そう呟き様に片手剣を抜き、おもむろに近くのゴブリンへと近づく。
––––烈斬
こちらに気づき、両腕を上げて威嚇するのを尻目に剣士クラスの初期スキルを叩き込む。
ベータテスト時では実に通常攻撃約2.2回分の威力。
流石にそれだけでは削りきれなかったようで、興奮した様子で殴りかってきた一撃を冷静に半歩身を引き回避。
そのままがら空きの肩口を上段よりなで斬り、更に手首の力のみで即座に逆袈裟に斬りかかる。
反撃のつもりか、無理な体勢からの突進をギリギリで横に躱し、一歩踏みぬき無防備な背中にた力強い斬撃を浴びせる。
そこでようやく力尽きたのか、ゴブリンは光の粒子となり消えさっていく。
「ダメージの揺れ幅を考慮しても、通常攻撃4.5回といったところか?」
最序盤ということもあり流石に難易度は低いようだ。
「特に目立った攻撃方法もなさそう、とっ」
無遠慮に近くのゴブリンに近づき、初撃は烈斬から始まり、流れるように斬撃を繰り出していく。
短い腕を振り回すか、時折突進してくる程度の攻撃パターン。
こちらが相応に身構える事すら無駄だったと、最初とうってかわって気楽に一撃を放っていくのであった。
「……やっぱダメージクールが厄介だな」
レベルが1上がった段階でぽつりと呟く。
"ダメージクールタイム"同一プレイヤーが、同じ対象にダメージを与える際次のダメージ発生までクールタイムが発生する。
このシステムはスキルや通常攻撃、果ては魔法にも適応されるのだが、それぞれ使用時のクールタイムには差があるのが特徴である。
スキルの場合、余程一瞬で終わるタイプでない限りは次に繋げていけるし、魔法は詠唱時間というシステムによって実質無効化されている。
厄介なのが隙があれば、一瞬でも数度攻撃できる通常攻撃の場合だ。
初期のAGI値の場合、およそ2.5秒のダメージクールタイムが発生しているとされている。
初期においての通常攻撃乱打の悪用を防ぐ目的もあるのだろうが、かなり厄介だ。
「序盤はAGI中心にステータスを振るべきだな。思ったよりもどかしいぞ、これは」
あくまでダメージのみのため、攻撃の無効化ではないが、それでも与えたと思ったダメージが入らないのはキツイものがある。
溜息1つ、致し方なしとAGIにボーナスを全部振り、ゴブリン狩りを開始していく。
ゲーム時間にして約二時間が経つだろうか。
ゴブリン狩りにによりレベルは11まで上がっている。
クラスレベルも7と順調だ。
レベル差が10までは十全の所得経験値を得られる為、まだ暫く篭ってもよかったのだが、クエストの報告を兼ねて一度王都に戻る事にする。
課金リストから設定された拠点に移動する、帰還のベルを購入してならす。
––––一瞬後、景色がブレたかと思えばその姿は王都の南大門前へと移動していた。
––––result––––
ゴブリンの爪×84
ゴブリンの牙×52
魔石 極小×16
古びた木箱×5
鉄の宝箱×2
もうちょいしたら他のキャラとかも出てきます。
このゲームハクスラ要素強いんで、生産の方向性がちょっと特殊。




