7.エピローグ
愛莉視点に戻ります。
「――そうして大学に通いながら研究を続け、長期の休みには皆を捜して方々へ行き、復讐相手のことも探っていた。だが、忠久さんからの便りもなく、皆の行方も復讐相手のことも何もわからず仕舞いだった。そんな時に、ばあちゃんに会った。最初は戸惑った。けど、俺の幸せを願ってくれた忠久さんや両親のためにも、孝行が出来るならと思ってここへ来た」
彼が優しい目をして、私を見つめた。
「それからの日々は、本当に幸せだった。ばあちゃんがいて愛莉がいて、お互いに支え合い、笑い合って、毎日が満ちたりていた。俺が、こんなにも人を愛することができるとは思わなかった」
今までのことを真摯に話してくれた彼の存在が、たまらなく愛おしい。
――でも、彼のことを、現実を知りたくはなかった。
知らなければ、愛さなければ、こんなに苦しまずにすんだのに―—。
きっと何にも縋ることなく、一人でも生きていくことが出来たのに―—。
——けれど、知ってしまった。……彼の痛みも、苦しみも、優しさも、温かさも、そして、この胸から溢れ出る想いも、この胸を締め付ける切なさも……。
もう彼を知らない自分に、戻ることは出来ないのだ。
彼を見捨てることも、自分の想いを捨てることも出来ない。
――ならば、全てを受け入れるしか……。
彼は話し終わってから、縋るように私の背中に腕を回した。
「例え鬼だとしても、俺は生きたい。お前と一緒に……」
私は、彼の腕の中で彼の顔を見上げた。
「私は、例え鬼だとしても、愁兄ちゃんに生きてほしい。愁兄ちゃんのことが好きだから……」
「愛莉……」
彼に抱きしめられながら、ふと思った。
初子伯母さんは、夫の正体を知っていたのだろうか?
知っていたのだとしたら、私と同じ気持だったのだろうか? と。
五年後、大学を卒業し看護師となった私は、監察医になっていた彼と結婚した。
今のところは、周りに彼の正体が知られることもなく、私たちは普通の新婚さんと変わらない幸せな生活を送っている。
依然として忠久さんと里の皆の行方は分からず、研究の方も滞っていたが、祖母を食べてから彼の飢えはおさまっていた。
私は、あの日からずっと祈っている。
仏様には両親、祖父母、そして彼の家族の冥福を。
神様には、「どうかこのまま、鬼の血も復讐の炎も消えてなくなって。薄情な神様、どうかこの願いだけは叶えて」と。
拙い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
説明が多くなり、分かりにくいと思いますが、人間の生と死の悲喜交交が伝わっていたら嬉しく思います。
この話はフィクションです。
色々な民話や俗説などから勝手に想像してます。なので、医学的なご指摘などは優しくお願いします。
本当の鬼とは何なのか、本質を見抜くことが出来る人こそ聖人かもしれません。