2.出会い〈回想〉
――愁兄ちゃんと初めて会ったのは、半年前のことだった。
五年前に十二歳で両親を亡くしてから私は、祖母と二人きりでこのだだっ広い家に住んでいた。
そして、その頃から心臓を患い通院していた祖母が、その日偶然病院で会った彼を家に連れて来た。
「ただいま。愛莉! 愛莉、いるかい?」
祖母が珍しく大きな声で、私を呼んだ。
「はーい!」
台所にいた私は、慌てて玄関へ行った。
「おかえりなさい。おばあちゃん、どうだった?……えっと、どちらさま?」
祖母の隣には、杖代わりのように祖母を支えて立っている、美青年がいた。
初対面の彼は、人形のように整った顔をこわばらせ、少し緊張している様子だった。
「はじめまして。瀬山愁と言います。あなたの従兄妹になるそうです」
彼はぎこちない笑顔で、自己紹介をした。
「従兄妹?」
私が聞き返すと、祖母はにこやかに答えた。
「そう。愁は私の娘、お前の伯母さんにあたる初子の息子だよ。初子とは二十数年前から音信不通でね。ずっと探していたんだけど、見つからなかったんだ。それなのに、今日病院に行ったら、初子の若い頃にそっくりな子が研修医としていたからびっくりしたよ!それで、思わず話し掛けてしまってね。名札を見たら、初子から聞いていた孫の名前と一緒だし、話を聞いたら孫だと確信したよ」
「それで連れて来たと」
「ああ。初子は、産後しばらくして亡くなったらしくて、父親も十歳の頃に亡くなったって言うじゃないか。家は無駄に広いし、愛莉も寂しくなくていいだろう?」
「えっ、一緒に住むってこと?」
驚いた私は、思いっきり目を見開いた。
「駄目かい? 老い先短い婆さんの最後のわがままだと思って聞いておくれよ」
祖母は茶目っ気たっぷりに言った。
「その言い方はずるいよ。確かに、お医者様が家にいると安心だし、私は良いけど……」
祖母があまりに楽しそうなので、断れずに了承していた。
「良いんですか?」
彼が申し訳なさそうな顔で聞いてきた。
「はい。部屋は無駄に余っていますし、身内なんですからそんなに気を遣わないで下さい。私のことは妹だとでも思って、ね!」
私は、精一杯の笑顔で答えた。
「ありがとう。よろしくお願いします」
彼はそう言って、頭を下げた。
こうして三人での生活が始まった。
彼は、器用な人で何でも出来た。それにとても優しくて、祖母のことや家の手伝いを進んでしてくれるだけではなく、私に勉強を教えてくれたりもした。
祖母以外に頼れる人がいなかった私は、彼がいてくれるのが嬉しくて、いつの間にか彼に依存するようになっていった。
三人での生活は毎日がとても幸せで、祖母も前より明るく笑うようになっていた。
こんな日々がいつまでも続けばいいのに……。
そう思っていた矢先、祖母が息を引き取った。
そう、今までなぜ気付かなかったのだろう。
不思議に思ったことは何度もあったのに……。
二人でこっそり話していたことも、切なそうな顔で何か言いたげに私を見ることも、思い詰めたようにつらそうにしていたことも……。
その場その場で問い質せば良かったのだろうか?
どうして何も言ってくれなかったの?
私が怖がると思ったの?
ねぇ答えて、おばあちゃん…………。
お読み下さり、有難うございます。