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鬼だとしても  作者:
2/7

2.出会い〈回想〉

 

 ――(しゅう)兄ちゃんと初めて会ったのは、半年前のことだった。


 五年前に十二歳で両親を亡くしてから私は、祖母と二人きりでこのだだっ広い家に住んでいた。

 そして、その頃から心臓を患い通院していた祖母が、その日偶然病院で会った彼を家に連れて来た。


「ただいま。愛莉(あいり)! 愛莉(あいり)、いるかい?」

 祖母が珍しく大きな声で、私を呼んだ。

「はーい!」

 台所にいた私は、慌てて玄関へ行った。

「おかえりなさい。おばあちゃん、どうだった?……えっと、どちらさま?」

 祖母の隣には、杖代わりのように祖母を支えて立っている、美青年がいた。

 初対面の彼は、人形のように整った顔をこわばらせ、少し緊張している様子だった。

「はじめまして。瀬山愁(せやましゅう)と言います。あなたの従兄妹になるそうです」

 彼はぎこちない笑顔で、自己紹介をした。

「従兄妹?」

 私が聞き返すと、祖母はにこやかに答えた。

「そう。愁は私の娘、お前の伯母さんにあたる初子(はつこ)の息子だよ。初子(はつこ)とは二十数年前から音信不通でね。ずっと探していたんだけど、見つからなかったんだ。それなのに、今日病院に行ったら、初子(はつこ)の若い頃にそっくりな子が研修医としていたからびっくりしたよ!それで、思わず話し掛けてしまってね。名札を見たら、初子(はつこ)から聞いていた孫の名前と一緒だし、話を聞いたら孫だと確信したよ」

「それで連れて来たと」

「ああ。初子(はつこ)は、産後しばらくして亡くなったらしくて、父親も十歳の頃に亡くなったって言うじゃないか。家は無駄に広いし、愛莉(あいり)も寂しくなくていいだろう?」

「えっ、一緒に住むってこと?」

 驚いた私は、思いっきり目を見開いた。

「駄目かい? 老い先短い婆さんの最後のわがままだと思って聞いておくれよ」

 祖母は茶目っ気たっぷりに言った。

「その言い方はずるいよ。確かに、お医者様が家にいると安心だし、私は良いけど……」

 祖母があまりに楽しそうなので、断れずに了承していた。

「良いんですか?」

 彼が申し訳なさそうな顔で聞いてきた。

「はい。部屋は無駄に余っていますし、身内なんですからそんなに気を遣わないで下さい。私のことは妹だとでも思って、ね!」

 私は、精一杯の笑顔で答えた。

「ありがとう。よろしくお願いします」

 彼はそう言って、頭を下げた。

  

 こうして三人での生活が始まった。

 

 彼は、器用な人で何でも出来た。それにとても優しくて、祖母のことや家の手伝いを進んでしてくれるだけではなく、私に勉強を教えてくれたりもした。

 祖母以外に頼れる人がいなかった私は、彼がいてくれるのが嬉しくて、いつの間にか彼に依存するようになっていった。

 三人での生活は毎日がとても幸せで、祖母も前より明るく笑うようになっていた。


 こんな日々がいつまでも続けばいいのに……。


 そう思っていた矢先、祖母が息を引き取った。


 そう、今までなぜ気付かなかったのだろう。

 不思議に思ったことは何度もあったのに……。


 二人でこっそり話していたことも、切なそうな顔で何か言いたげに私を見ることも、思い詰めたようにつらそうにしていたことも……。

 

 その場その場で問い質せば良かったのだろうか?


 どうして何も言ってくれなかったの?

 私が怖がると思ったの?

 ねぇ答えて、おばあちゃん…………。







お読み下さり、有難うございます。


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