1.プロローグ
人は何かに縋らなければ、生きてはいけない。
そんなことは理解っていた。
でも、だからといって何にでも縋って良いわけでもなくて……。
自分が縋っていたものがあんなものだったなんて……。
……知りたくはなかった。
今朝、大好きな祖母が亡くなった。
私は深夜になっても、静かに眠る祖母の傍らから離れることが出来なかった。
「元気出せ」
そう言って、そっと肩に手が置かれた。
「……しゅう……にいちゃん……」
漸く絞り出した声は、掠れていて酷いものだった。
「いつまでもそんな顔をしていたら、ばあちゃんも悲しむだろう。なっ?」
「……うん」
私は泣き腫らしてそのままの酷い顔を見られたくなくて、俯いた。
「火の番は俺がするから、今日はもう寝なさい」
優しく頭を撫でられた私は、ホッと安心したのと同時に少しむず痒くなり、後ろ髪を引かれながらも自室へと行くことにした。
「うん、ありがとう。……お休みなさい」
私は布団に入っても、中々寝付けずにいた。
「はぁ、眠れない。やっぱり火の番変わろう」
そう呟いて布団から出ると、カーディガンを羽織って、仏間の方へと向かった。
仏間に近づくと、中から嗚咽に混じって変な音が聞こえてきた。
「愁兄ちゃんが泣いている?……あとは何の音だろう?」
不安になりながらも、そっと襖を開けた。
開けた瞬間、何とも言えない血の臭いが漂ってきた。
背を向けていた愁兄ちゃんの存在を確認して安堵したのは一瞬で、「愁兄ちゃん。」と声をかけ、振り向いた彼を見た瞬間に私の意識は途切れた――――。
お読み下さり、有難うございます。
完結までお付き合い頂ければ幸いです。