新しい栄光
(天空都市群グングニル中央島南西地区:表通りから外れたマンションの一室)
ギラドアとの試合から、数日。
俺はいつもより早起きして、TVを見ている。
話題は、どの局も今日から始まる『あれ』で持ちきりだ。
「始まるな……終に。祭典が」
今日は、祭典ことチャンピオンズゲームの初日である。
夢に見たまでの復活。そして、それに相応しい大舞台。
「まったく。なに呑気に自分のニュースなんて見てるのよ。開会式の後、ランク七位はいきなり試合なんだからね!! 初戦で負けたら、しょーちしないから」
感慨深げに復活した氷息帝のニュースをチェックしていたのに、キーロが俺に小言をいう。
「あー。はいはい。わーってるよ。相手は元老院帝だ。油断できる相手じゃない。でも、俺にはお前がついてる。やれるだけやろう。そんで、勝てばいいさ」
「まったく、気楽なんだから……」
あきれて準備をしに行こうとリビングを出ていくキーロ。
と、そのとき。
もう何百回放映されたか分からない例のシーンが、朝からTVに映し出される。
盛大に焚かれるフラッシュの音。
その中で、そっと唇を寄せ合う二人……。
勿論、ギラドア戦の後の俺とキーロだ。
「いやー。それにしても、還ってきた氷息帝は、皇帝の座を射止めただけではないようですね? このとき現場にいたキャスターさん?」
呑気な司会者が、あの忘れがたい時間に安いコメントをつける。
やれやれ。話題を振られたキャスターも最大限に面白がっているようだ。
「ええ、そのようですね。お相手の女性は、芸能関係者ではないようですが、かねてから週刊誌などでザザ選手との交際を噂されていた人物で……」
この手の確証の欠片もないコメントに、キーロは最初猛反論していたものだが。
テレビ画面にそうするのが虚しくなったのか、今では何も言わない。
でも、やっぱり頬が染まっている。そりゃそーだよな。
あの瞬間を否定する気はないが、俺でも、やっぱり恥ずかしい。
「「……」」
テレビがこのシーンを放映するたびに、二人の間には沈黙が訪れていた。
最初にこのシーンが全天空都市に放映されたときは、キーロがテレビ局を襲撃しに行きそうになったので、全力でとめた。
それから後は、照れ隠しに俺が電撃を何百回も受けることになったのである……。
まあ、過ぎたことはいい。
そのうち、この手の話題も治まるだろう。いや、治まってくれ。
「……いつか、プライバシー侵害で訴えてやる。人の、は、初めての、キ、キ……」
自分のゴシップネタを映すTVを睨むキーロ。
「まあまあ。落ち着けよ。七帝の主治医なんだ。注目を集めて当然の存在に、お前がなったんだよ。俺が、そこまで還ってきたともいうけど」
「関係ないわ! 私、あなたと違って、普通の女の子なの!」
普通の女の子が、バカロレアで満点とれるかよ。
そう突っ込みたかったが、朝から電撃を浴びるのは嫌なので、黙って首肯することにした。
「わかってる。表舞台には、俺が立つさ。注目は、俺が浴びればいい。なんてたって、今の俺は七帝だ。しかも、これから祭典で暴れてくるのさ。年末の話題は、俺とアウラで攫ってやるぜ」
「ふん! ここまで来たんだもの。狙うのは……一つだけよね?」
「ああ。一つだけだ。頂点、目指してやろうぜ? 主治医?」
俺が不遜な笑みを浮かべると、キーロも不敵な表情になる。
こういうところでは、俺達は似たもの同士なのかも。
「ええ。勿論よ。勝って勝って勝ちまくって、学費を稼いでもらうから。とりあえずは、博士課程まくらいでのお金をね」
こういうときのキーロは、少し強欲な顔だ。
溢れる知識欲にだけは、冷静な彼女も勝てないのだろうか。
「勉強すんの、好きだなぁ。それじゃあ当分、現役は止められないだろ」
「そうよ。私ほどの主治医がいつでも傍にいて、治してあげるんだもの。それくらいやってもらわないと、困るわ」
速攻で首肯するキーロ。
まあ、俺も還って来てすぐに辞める気などない。
暴れに暴れて、インペリアルリーグをかき回してやる。
そして、目指すは一つだ。
俺の憧れ、ナンバーワンの玉座。
「なるほど。分かったよ。じゃ、ひとまず今日の試合に勝とうぜ、ドクター?」
「準備は万全よ。前の試合の怪我も、そこまで引きずっていないし……。あとは、あなたしだいね」
キーロの腕前は、相変わらず完璧だ。
その熱意を、選手である俺が不意にする訳にはいかない。
「燃えるねぇ。じゃ、さっそく行くか」
「ええ。第一円形闘技場へ」
テレビを消して、俺は立ちあがる。
準備は万全だ。
コンディションもいい。主治医のおかげだな。
復活した俺を、最大の祭典が待っている。
待ちきれない。
早く、試合がしたい。
そして、勝ちたい。
俺の主治医のために。
「ほら。早くアニマ―ジュしてよ。会場まで運んでくれるんでしょう、ザザ選手?」
「へいへい。任せときな、主治医」
アニマ―ジュして、俺は雄々しい飛竜の姿になる。
キーロを乗せて、祭典の会場へと向かう。
「いい? 絶対勝つわよ!」
「おう! 楽勝さ、俺達二人なら」
苦学生を乗せた白銀の飛竜は、新しい栄光へと、飛び立った。
ご愛読、ありがとうございました。
溶けゆく翼は、この話で一旦完結とさせていただきます。
続編は、あるかも(?)しれません。
全く別の作品になるかもしれないです。
プライベートとの兼ね合いで決めさせていただきます。
最終的に、二人がくっつくとこまで書けてほっとしています。
本当に、今まで「溶けゆく翼」を読んでいただき、ありがとうございました。
次回作も、書くかどうかは分かりませんが、よろしくお願いします……。




