↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/82

扉の気配

(天空都市群グングニル中央島北東地区:第二円形闘技場)


「よし! 行くわよ、アニマ―ジュ!!!」


 キーロの元気のいい号令が、早朝五時の第二闘技場に響く。


 今日から試合まで、人型での鍛錬はせず、竜型での訓練に専念するという。


 その理由は、これから教えてくれるというのだが……。


「あるべき鏡の巨躯よ、我が真の姿となれ!!」


 詠唱を終えると、闘技場には白銀の凍結飛竜が存在している。


 その巨大な姿で、俺はキーロに顔を近付けた。


 巨大なワイバーンの頭部が、小さな苦学生に肉薄する。


 鼻息だけで、キーロはよろけてしまいそうだ。


「もう。鼻孔が近いわ。もう少し、はなれて」


 苦言を言われてしまった。


「……俺の鼻息が荒いってのかよ?」


「そうじゃないわ。ただ、人間には、その大きさが受け止めきれないだけよ」


「ふーん。ま、確かに。俺でも五階建てのビルくらいはあるからな」


「自覚してるなら、初めからやってよね。全く、要領の悪いグラディエーターなんだから」


 こういうやり取りも、いつも通りだ。


 でも、今はギラドア戦に向けて、一分でも多く練習時間が欲しい。


 怪我の状態もあるので、無理はできないが、主治医がドクターストップをかけないうちは、ひたすら鍛錬あるのみである。


「それで? どうするんだ、今日の練習?」


 キーロは、聞かれてもすぐには答えなかった。


 変だな。


 こんなことは、これまで一度もなかったんじゃないか?

 

 キーロは、いつもはっきりものをいう性格だ。


 特に、天空獣医学の領域や、トレーニングメニューに関する事項では、それが際立つ。


「……おい、キーロ?」


「……ねぇ、ザザ。覚えてる? あの日のこと?」


 静かに、キーロはそう告げる。


 そして、迅速に呪文を唱え、両眼を妖しく光らせた。


 可視化天空術『サーチ』だ。


「あの日のこと?」


「そう。あの襲撃者が、私達を襲った日のこと」


 俺は、記憶を呼び起こした。


 鮮烈な想い出だった上に、最近の出来事なので、思い出すのは難しくない。


 あの黒い襲撃者が、キーロに手をかけそうになった瞬間。


 俺の中で、何かの感覚が、目覚めたのである。


「……あれのことか、キーロ?」


 彼女は、一度だけ深く頷く。


「うん。そうよ。あの感覚を、あなたの新しい武器にするの。そうすれば……たとえ七帝相手であっても、勝算があるわ」


「勝算、ね」


 俺は、あのとき感じた可能性を、思い出す。


 これまでとは別次元の力だった。


 だが、自分の意のままに、操れた訳ではない。


 寧ろ、内部に眠るそれが、俺の極限まで達した激情で、ただその片鱗をみせただけだ。


「……でも、どうする? 襲撃者の件以来、俺はあの感覚を一度も感じてないんだ。もう一度やろうっていったって、どうあの力を呼び起こせばいいかも、わからないんだぞ?」


「それは、その通りよ。でも、一度できたことだもの。二度目も、きっとあるわ。それに、もう一度奇跡を起こすのは、ただのアニマ―ガスじゃない。元とはいえ、七帝のあなたよ。それに、私は賭けてみたいの」


 『サーチ』で、俺の細部を診ながら、キーロが言う。


「……なあ、キーロ。一つ、聞いていいか?」


「……なに、ザザ?」


「さっきから、ずっと俺を診てるよな? 何か、引っ掛かることでも? まさか、怪我が悪化したとか……?」


 あの妖しく光る両目に見つめられ続けるのは、どうも落ち着かない。


 それに、今日のキーロは、ずいぶん無口だし。


 何か、良くないことがあったのかと、邪推してしまう。


 だが、俺の主治医は首を横に振った。


「……ううん。怪我の経過は、順調よ。あれだけの試合をこなして、けっこう練習してるのに、順調過ぎるくらいだわ。やっぱり、飛竜の身体は頑丈ね。ただ……」


「ただ?」


「なんだか、今まで診てきたあなたが、失われて言っている気がするの」


「なんだよ、それは? まるで死ぬみたいじゃんか」


「かもしれないわ」


「おい」


 ふーっ。と、キーロは息を吐き出す。


「嘘よ。でも、これまでとは違う方向に、あなたの変身後の姿が、変化しているような気がするの。それが何かは、私にも、まだ、分からないわ……」


「もしかして、いわゆる『成長期』のことか? でも、飛竜は死ぬまでそうだぜ? 特に、珍しくはないと思うが……」


 キーロは、俺の言葉に、ゆっくりと頭を横に振る。


「うーん。違うのよね。そういうのとは。何というか、本当に……。ザザ、あなた、もしかして、エイリアンなの?」


「知るかよ。違うだろ」


「ま、そうよね。この問題は、また時期が来たときに、再考しましょう。さて、じゃあとりあえず、アップ行くわよ!! 人型訓練が無いから、念入りに行くわよ!! みっちりとね!!」


「扉はどうする?」


「午後の部で、それを刺激するメニューを用意してあるわ」


「つまり、午前はひたすら基礎練というわけか」


「そういうこと。分かってるなら、早く!!」


 どうやら、扉の問題は、一旦午後までお預けらしい。


 俺は、先達ては、目の前の基礎練をこなすことにした。


 それにしても。


 何なのだろう。


 あの力は?



(続く)


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。