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マスコミからの逃走

(天空都市群グングニル・中央島セントラル街タワーマンション地上階:エレベーター前)




 部屋を引き払ってエレベーターで地上に降りたら、待機していたマスコミに取り囲まれた。


 奴ら、どうもこの日この場所に狙いを定めていたらしい、主なテレビ局、週刊誌、新聞、ネットニュースサイト……ほぼ全員いるだろう。


 うんざりする顔をしそうになるが、連中の狙いはそれだ。


 疲れた表情の俺を紙面に載せたり放送したりして、転落した元トップ選手の不幸を面白可笑しくコンテンツにする。


 奴らは発行部数や視聴率が確保できればそれでいいのだ。


 こちらの事情に配慮などするはずもないだろう。(※幾つかの良心的なメディアは別だが……)


 だから、こちらも目の前に群れるこいつらの事情など考えなくていい。


 澄ました顔で通り過ぎてやる。


 しかし、そう簡単にはいかなかった。


 マスコミ達は、連携してエレベーターからフロアの出口までの道を塞いでいる。


 普段はいい映像や写真をとるために、争いが絶えない癖に、こういうときは嫌に連帯し合っている。


 あさましいことだ。



「ザザ選手! 引退という厳しい現実に直面した今のお気持ちは!!?」



「怪我の具合はいかがですか!!?」



「やはり原因は練習中の不注意ですよね!!!?」



「自らの過信が招いた自滅と考えてよろしいのでしょうか!!?」



「歌姫のフェリェ嬢との破局について一言!!!」



「解説者に転職するという噂については? 天竜競技協会が断固反対するそうですが!!?」



「ライバルの紅恋帝アウラ選手に一言!!!」



「今の気持ちを率直に一言で!!!」



「何か一言!!」


「何か一言!!」


「何か一言!!」



『何か、一言!!!!!!!!』

 


 この上なくやかましい。


 しかも、一歩も前に進めない。


 一人対百人弱で押し合いをしているようなものだ。


 いかに体幹と筋力を鍛えていても、これでは勝ち目などない。


 疲弊するだけだ。


 まあ、マスコミ連中の狙いはそれだろうが。


 だが、これ以上煩わされるつもりはない。


 最終手段だ。アニマ―ジュするしかない。


 だが、前述の通り、俺は怪我を抱えている。


 特に、翼をはじめとする胴体は動かしたくない。


 動かせないこともないだろうが、こんなことで怪我を抱えた体にダメージのリスクを負わせるつもりはない。


 此処は、部分変身で頭部だけ出すのが最善だろう。(※部分変身とは、読んで字のごとく体の一部分だけを人間以外の生物の部位に変身させることだ)


 

『何か、一言!!!!!!!!』


『ザザ選手!!!!!!!!』


『あなたには答える義務がありますよ!!!!!!!!』


『何か、一言!!!!!!!!』


『お願いします!!!!』


 姦しいなにか一言コールを続けるマスコミ。


 流石にもう、限界だ。


 意識を首と頭部に集中させる。


 アニマ―ジュは、精神統一を上手に行わないと、失敗してしまう。


 久しぶりかつ集中できない環境だったので不安だったが、勘はまだ完全に錆びついてはいなかった。


 首と頭部が、融解した鉄のようにグニャリと原形を失い、意志をもった生命体のように眩しい光を放って躍動する。


 記者とキャスター達がどよめきを上げる。


 カメラがその姿を捉えようとするが、俺はそこまで親切じゃない。


 次の瞬間、巨大な飛竜の首から上が現われたかと思うや否や、その口から吹雪のような霧状のブレスが放たれた。


 無論、フルパワーのものを生身に放つなんてことはしない。


 せいぜい、氷片と水蒸気で視界が奪われ、室温が数十度さがる程度のものだ。


 だが、これくらいでも、目くらましにはなる。


 呆気にとられ、俺から視線が外れたのを、見逃さなかった。


 全速力でマスコミ関係者諸兄の間を潜り抜け、突きとばし、かわして、フロアの出口に辿り着く。


 その頃、丁度冷気の霧が晴れ始めた。


 出口の自動ドアをくぐり、市外へ逃走する俺の後ろ姿を指差して、記者達が騒ぎ立てる。


 だが、やわな鍛え方はしてない。


 これでも、元アスリートである。


 追撃隊を後方へ置き去りにし、俺は島の中心部とは反対の位置にある沿岸部(※実際に海に面している訳ではない。天空だから。だが、昔の名残でこう呼んでいるらしい)に身を隠すことにした。


 小一時間ほど走った所で、俺は昼飯を屋台で調達し(所要時間十二秒)、再び走りに走って島の沿岸部までやってきた。この周囲に時計はないが、もう日が傾き始めてる。


 天空都市は、天然のもとからある太陽と、人工の太陽光発生装置を併用して、地上世界と変わらぬ日照時間や季節をつくりだしている。


 今は十一月の一日だから、日暮れも早い。


 恐らく、夕方の五時くらいと言ったところか。


 荒い息を吐きながら、人気のない巨大な排水パイプの中に隠れ、薄汚れた壁に背中をあずける。


 この直径5・6メートルはありそうな排水パイプの出口は、天空島の崖(つまり陸地と空の境界線)だ。


 排水は、このパイプを伝って天空島から下界へ排出される。


 無論、ただ下界へ垂れ流す訳ではない。落ちて行く途中で再利用装置があり、そこで綺麗な生活用水としてリサイクルされるのだ。


 中には、大きな不純物も含まれていて、再利用装置とは別の焼却装置でレーザー焼却、なんてケースもあるが……。


 まあ、マメ知識は、どうでもいい。


 何より、下水が少なくて助かった。


 冬だからか、夏に比べて排水の量は控えめだ。


 それでも、少し臭うけれど……。


 そのとき、排水パイプの奥から、声が聞えてきた。


 

「ずいぶん逃げ回ったんですか? 氷息帝ザザさん」


 パイプの奥、その闇から聞えてくる声に、思わず身構えた。


 知り合いの声じゃない。




 ――誰だ?

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